ネマタの「裏」麻雀本レビュー第21回『夜桜たま×朝倉康心に学ぶ現代麻雀』その9

第五章 押し引き

①押し引きとは

 押し引き基準についてはこちらを御参照下さい(第5回が上級卓向け、第16回が特上卓向け)。本書で度々登場する「打姫オバカミーコ」の押し引き判断では、「先手良形高打点2つ揃ったら押す」とありますが、2つだと十分過ぎるので降り過ぎになってしまいます。1つでも概ね押し有利で、たまにある例外に注意するくらいのスタンスで打つことをお勧めします。

 142ページの牌図は後手悪形低打点…1つも当てはまってないじゃないかとなりますが、親なので打点1.5倍で、ツモられた時の失点が2倍。子の高打点とまではいかずとも、中打点くらいの感覚。1sは上家リーチに通りやすいこともあり打1sリーチでしょうか。

 ただし、先制リーチが入る前の段階では、親か子かという理由で手組を意図的に変えるのはあまりお勧めしません。親は打点1.5倍で、1000点と1500点では500点しか差がありませんが、8000点と12000点は4000点差。テンパイ料は親も子も同じ。後手悪形低打点でも親なら押せると言っても、先手が取れるようなら親の時の方が良形高打点の恩恵を受けやすいためです。

②オーラス

 オーラスの打ち方についてはこちらをご覧下さい(第8回が上級卓向け、第18回が特上卓向け)。

 また、点差の意義についてはこちらをご覧下さい。「間違ってはいないけど指針としては適切と言い難い」記述が多い本書ですが、「満貫出アガリ条件と満貫ツモ条件の差の大きさ」について触れているところは評価に値します。

 150ページの牌図はトップを狙いにいきたいですが、対門に南で放銃するようなら3着落ち。オーラストップ目が役牌トイツ持ちにも関わらず第一打6m。9mか南がトイツ以上で3900以上のパターンが有意に高いとみて、まだ2シャンテンのこの局面では南を止めそうです。正直こうなる前に南を切るタイミングが無かったのか気になります。

③天鳳ならでは

 天鳳は最下位を作るゲーム、ラス回避ゲームだとよく聞きますが、私はこのスタンスで天鳳に臨まれることはあまりお勧めしません。理由は上記リンク先で申し上げた通りです。「ベストな立ち回りが大きく変化するわけではないが、ミスの中でも放銃に直結するものが致命傷になりやすい」と考えます。

 ベタオリの精度を高める、後手を引いた時の押し引きをやや引き寄りに見積もる。こうした話であれば天鳳ルールであることを意識もしますが、156ページは先制良形テンパイ。対門に満貫振ってもまだ3着で、アガればオーラストップ、2着以上を狙える可能性も高まるので和了のメリットも十分大きい。打8sリーチとします。

 天鳳ルールという理由で必要以上に降りてしまい、特上卓から上がれない、もしくは鳳凰卓に残れず苦戦する打ち手を何人も見てきました。昨今の戦術本で学び、朝倉氏の著書「超精緻麻雀」で「量産型デジタル」と揶揄されるような打ち手なら、そもそもそこから降りる発想すら思い浮かばないはずだろうに。麻雀打ちの大半は戦術本で学ぶのではなく、どこからか聞きかじった情報を自分なりに取り入れているに過ぎないということに気付かされます。

④押し引きまとめ

 朝倉氏のMリーグにおけるファインプレーと言えば、今回の打7pテンパイ外しと、上記の2p残しが代表的ですが、「プロなら出来て当然」というのが正直な感想です。

 結果に直接影響を与えた選択よりも、そこに至るまでの過程で選ばれた一手にこそ、プロの凄みを知らされます。

 将棋の藤井聡太が指した絶妙手と言えば飛車捨ての△7七同飛成ですが、もし同じ局面で私が指せと言われても、△7七同飛成を選べる自信があります。何故なら、ここで飛車を逃げたら先手に攻められて負けることは容易に読めるので、「勝てるとすれば飛車捨てで攻めを継続するよりない」と判断できるためです。

 しかし、△7七同飛成で勝ちになるということに数手前から気付いていなければ、攻め合いの手順を選ぶことはできません。飛車捨てで勝ちでなければ負けに直結してしまうからです。個人的には両取りの▲7二銀が見えているのに△6三金と指したところで読み切っていたのではと思っていたのですが、実際はそれより更に前から、しかも藤井聡太だけでなく対戦相手も気付いていたという事実に驚愕させられました。

 運の要素が大きい麻雀では、「あの時の打牌が伏線になっていた!」という局面はなかなか生まれませんが、結果に影響しなかった打牌であっても、そこからプロの凄さが見てとれるケースにもっと着目されるようになればと思うことです。

 最後に余談の余談ですが160ページのツイート。何故かMリーグと無関係のアップランドが燃やされています。昨年12月4日、筆者のアイドル部脱退騒動を受け、アップランドはまさに大炎上。真相が知れ渡るにつれ、ようやく名誉が回復されつつある現状ですが…。ツイートは騒動よりだいぶ前の2月13日。私の勘繰りでしかありませんが、まさか最後の最後にこんな背筋が凍り付く思いをするとは。まさに「事実は小説よりも奇なり」であります。


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