ネマタの「裏」麻雀本レビュー第15回『夜桜たま×朝倉康心に学ぶ現代麻雀』その3

第一章 手組

③ターツの優劣

「牌効率」が本来何を意味していたのかはこちらを御参照下さい。本書の使われ方は「誤解」に基づくものです。

「期待値」の意味はこちらを御参照下さい。「アガリ率」と「収支」両方あってこその期待値。本書で出てくる、「アガれる期待値が高くなる」は明確な誤用。「アガリ率が高くなる」と言うべきです。

 麻雀界隈で定義が浸透していると言えない、「牌効率」という言葉がやたら使われる一方、客観的な定義が存在する「期待値」があまり使われず、使われたとしても誤用が多いのは何故か。ずばり言えば、「学校の勉強を怠けた人が書いている」あるいは、「学校の勉強を怠けた人の目線に合わせて書かれている」かのどちらか。麻雀をギャンブルとして捉えるにしろ、頭脳ゲームとして捉えるにしろ、期待値というのは欠かせない概念。単に読者に合わせるのではなく、「これを機にしっかり勉強してみたい」と読者に思わせ、その勉強が出来るだけの環境を整えることこそ、麻雀本を出す程度に麻雀界隈に関わっている者の目指すべき方向であると、勝手ながら思ってしまうのであります。

 ターツの優劣の話で、いきなり聴牌形を例に持ち出すのもあまり適切とは言えません。聴牌すれば(ダマで役無しの場合はリーチすれば)他家が切った牌でもアガれるので、聴牌以前とは価値が大きく変わるためです。19ページの牌姿でどうするかについては、朝倉プロのアドバイスを参照すればよいでしょう。

 前回に引き続き、五人組のアイドルグループに喩えて考えてみましょう。メンツや雀頭は既にデビュー待ちのアイドル。ターツや2つ目以降のトイツはアイドル候補生。浮き牌はスカウトしたばかりの新人。候補生の中でリャンメンは優等生、カンチャンやペンチャンは劣等生です。

 劣等生を頑張ってアイドルとして育てるか、それとも切り捨てるのか。「五人組」でデビューさせることを考えれば、答えは自然と分かります。アイドルと候補生で五人しか居ないのであれば、劣等生がアイドルになれるように力を入れるべきですし、六人居るのであれば、劣等生を切り捨て、優等生により力を入れるというのが基本になります。

 例外ケースも「喩え」で説明できます。アイドルと候補生で五人しか居なくても、将来有望な新人が多数居れば先に劣等生を切り捨てた方がよいですね。六人居る場合も、「見た目劣等生でも、デビューすれば全員大化けする可能性を秘めている」のであれば、六人のまま育成を続けた方がよいということになります。

 序盤だからとか天鳳だからというのは、言うなればプロデューサーが置かれている「状況」ですが、「アイドルグループをデビューさせる」という目的はいずれにせよ同じ。手牌はアイドル業界で言うところの「箱」。プロデューサーならば箱の中身をよく知り、箱全体を推していけるようにしたいですね。

④手役の選択

 「箱」は五人組が基本ですが、七対子は七人組。メンツを1つも作らずともアガることが出来ることから、「出現率は高くないがどんな手牌からでも想定しうる」のが七対子。私は五人組の箱と七人組の箱両方を頭の中で思い浮かべながら手組を考えるようにしています。

 今回の手牌は五人組デビューには3手(2シャンテン)かかりますが、七人組デビューは2手(1シャンテン)。候補生が優等生だらけなら五人組に決めることもありますが、今回は七人組で進めましょう。もちろん五人組でデビューする可能性を残しておくに越したことはありませんから、切る牌は自ずと2sになります。

 トイトイのメリット、チートイツのメリット、状況に応じた判断…文中には間違ったことは何一つとして書かれていないのですが、私が本書を「最低」と評価するのは、「間違ったことが書かれていないだけで、結局手組の方針が読んでいてもさっぱり分からない」ためです。

 「ネット麻雀ロジカル入門」等に代表される「福地本」シリーズでは何切る問題が多数収録されていますが、筆者と私との回答の一致率は精々6割というところ。残りの4割も好みの問題ではなく、明らかに最善手では無いと言い切れるものが大半です。

 しかし、私は福地本シリーズを悪書であるとは思いません。何故ならば、筆者が手牌に対してどのような価値観を持っていて、どのような思考を経てその打牌を選んだのかが明確にされているからです。だからこそ、本の内容を学んで実戦に取り入れることが可能で、仮に正しくなかったとしても、その都度修正していくことができました。

 現在の麻雀観では疑問手が多い打ち手にも実力者が少なからずいるのは何故か。私は「線で把握し、点で考える」ことが出来ているからと考えます。「線で把握する」ことを重視する人は「一貫性が大事」と言い、「点で考える」ことを重視する人が「柔軟性が大事」と言う。実力者間でも麻雀観がまるで違うことが珍しくないのは、どこに軸を置いてきたかの違いとも言えます。

 逆に言えば、間違ったことを言ってないにも関わらず、長年麻雀で伸び悩む人は「点で把握して線で考えている」のです。点で把握しているからこそ手牌が少し複雑になるだけで何を切るかで迷い、線で考えているからこそ、具体的に打牌毎を比較せねばならないところで、チートイとトイトイのメリットデメリットというような一般論の話しか出てこないのではないでしょうか。

⑤目的に合わせた手組

 最終形を思い描く。これはまさに「線で把握する」行為。古くから大事とされてきたものですが、ややもすると愚直な決め打ちになります。朝倉プロは「イメージに柔軟性が無い」と表現していますが、点と線で喩えれば、「線で考えて点で考えてない」ということです。

 一方、この牌を切ればあの牌を引いても手が進むから裏目が少ない…のように手が進む受け入れ枚数ばかりを重視していると、折角の最終形を逃してしまう恐れがあります。これがまさに、「点で把握して線で把握してない」ということです。

 では一体どうすれば良いのか。何てことはありません。両者の中間を取ればよいのです。最終形に拘らず、裏目に囚われず、一手先を思い描く。これこそが、どんな手牌が来た時にも通じるたった1つのアプローチなのです。

 目的に応じた手組とありますが、まずは手牌に応じた手組が出来るようになりましょう。東場、南場、親、子、トップ目、ラス目…いずれも麻雀のルールさえ知っていれば、誰でも認識できる情報です。

 一方。手牌がどのような状態であるかを具体的に認識するためには、(よほど麻雀センスの優れている人でもなければ)手組の知識を体系的に学ぶ必要がありましょう。手牌をより深く知ってこそ、「目的関係なく同じ牌を切るべき手牌」「目的に応じた打牌を変えるべき手牌」を区別することができます。


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