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「楽な仕事なんてないよ?」


「楽な仕事なんてないよ?」

それは彼女が最後に聞いた人生のアドバイスだった。

彼女は大学を卒業し、とある会社に就職した。

最初こそ順調に仕事をしていたが、不景気や人間関係のもつれが重なり、次第に仕事をするのが苦痛になっていた。

「仕事を辞めてはいけない」「責任を持って仕事をしろ」という強い風潮に流され、精神的にどれだけ辛くなろうと、彼女は周りからの期待に応えないといけない、責任を持って仕事をしないといけないという気持ちに追い込まれ、精神をスリ減らしながら毎日頑張って仕事を続けた。

だが最終的に彼女の精神状態は限界を迎え、最後にいままでお世話になっていた先輩に藁にもすがる思いで相談をした。

「仕事を辞めたいです」

いまにも消えてなくってしまいそうな彼女が最後に振り絞って出した言葉だった。

先輩は彼女の言葉にこう答えた。

「楽な仕事なんてないよ?」

「もう少し頑張ってみたら?」


彼女は震える声で

「わかりました」

とだけ答え、その場から立ち去った。

翌日、彼女は会社に来なくなった。

数日連絡が取れない日が続き、不審に思った家族が警察に連絡。

警察が自宅を訪れ調べたところ、彼女はクローゼットで首を吊った状態で発見された。

彼女は自らの命を絶ち、「死」を選んでしまったのだ。

こんなにつらい日々が続くのなら、仕事を辞めても、どこにいっても同じような状態になるのなら、「死んだ方がマシ」だと思ってしまったのだ。

先輩が彼女に放った「楽な仕事なんてないよ?」という返答は、本当に正しかったのだろうか。

実際、楽な仕事なんて本当にないのかと言われると、実はそうでもない。楽をしてお金を儲けている層は少なからず存在する。

全部が全部辛い仕事、過酷な仕事というわけではない。

言ってしまえば、仕事をしなくとも生活している人だって存在する。

最悪職を失って路頭に迷ってしまったとしても、ホームレスになって生きることを選ぶ人もいるし、わざと悪いことをして刑務所に入り生きていく人もいる。

本当に辛くて、自分の命を捨てる選択肢を選んでしまうのなら、そんな仕事からは逃げてしまえばいい。

誰に何を言われようと、世間に罵倒され批判されようと、親しい人物から嫌われようと、自分の命を、自分の自由を最優先に選択して逃げればいい。

真面目に生きることを辞め、逃げて自由に生きる。

そうして自分の人生がどんどん底辺に、最底辺に落ちていこうが、自分の命を捨てる選択肢を選ぶよりはよっぽどマシだ。

せっかく神様から貰った命、精一杯汚く、力強く這いつくばってでも生きてみないか。

そうして餓死して死のうとも、それはそれで自分の好きなように生きたんだから、誇っていいことじゃないか。

綺麗に生きなくていい、クズでもいい。

ゴミと言われようとも、しぶとく生き抜くこと。

生きるっていうのは、そうゆうことではないのか?

もしあのとき、

彼女に伝える最後の言葉を言い直せるのであれば、

きっとこう伝えればよかったのであろう。

「辞めていい」

「逃げろ!」

「楽な仕事は実在する」

「たくさん逃げて幸せに生きろ」

「綺麗に生きなくたって、生きているだけ嬉しいと感じてくれる人が、必ず1人はいるのだから」


その返答を聞いた世界線の彼女は、きっと。




※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


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