【地方創生】×【自立学習】×【愛郷心】 「教えない」塾を作った人の話


塾といえば、
・都市部
・テストのため
・先生対生徒


なんてイメージがあるのが一般的。
しかし奈良県で全く新しい塾を作った人がいる。

「自立学習」を促し、「愛郷心」を育てる塾だ。


地方から人がいなくなる


若者が地方から都市部へ移るのは、進学や就職のほかにふるさとに対する愛着の薄さがあると塾を作った彼は言った。


大学進学で地元を離れることが悪いというわけではない。むしろ住み慣れた場所を離れ、新しい環境で異なる人や物を関わることで得られるものはたくさんある。

しかし、学生の中で自信を持って地元について語ることのできる人はどれくらいいるのだろう。

なんとなくしか地元のことは知らない、なんとなく地元を離れたい

そんな「なんとなく」が大学進学時の私の心にもあったのは事実だ。


ふるさと学習

塾を作った彼が取り組み始めたのが、ふるさと学習。
その中で一番ユニークな活動が、生徒が地元のラジオに出演することだ。


地元について学び、感じたことや解決策を自分のことばで発信する。
たとえば、「なんとなく」食べていた食材が、「地元農家の〇〇さんが育てたにんじん」となると食に対する感覚は無意識から意識的になる。
なにより目、耳、鼻など五感を使い、感じたことを整理し相手に伝えることで理解度が深まる。


受け身の授業の時代は終わった


先生が教団に立ち、教科書通りに説明し板書したものをノートに書きとる

そんな授業にずっと私は疑問を抱いていた。
生徒自身では何も考えず、ただ書き写すだけの作業。
そして必死に丸暗記してテストを乗り切った後に忘れてしまうのは一瞬だ。


私、なんにも一人でできないじゃん


そう気が付いたのは大学に入りインターンを始めてからだった。
自ら課題を探し、解決方法を考え、実行する
その動作一つ一つが私にはすごく難しかった。
何せ「何が必要か」「どう今の状況を改善すべきか」を考える方法すらわからなかった。


学校での学びと社会で実際に必要とされる力があまりにもかけ離れている、そう感じた瞬間だった。


奈良県で塾を作った彼は、愛郷心に加え自立心を養うことにも力を注いでいる。

興味深かったのは、定期テスト対策の勉強を「自立」に利用している点だ。
私が丸暗記して乗り切ってきた、あの定期テストを。(内申点は良かったが応用力がつかないのでおすすめしない)


もちろん前日にあせって答えを丸写しして提出用の問題集を完成させ、穴埋めになっている単語を暗記して終わり、なんてやり方じゃない。


テストの目標点を決めたら、そこにたどり着くまでにすべきことを逆算して考え、一日ごとの予定に落とし込む。

「最終的に大切なのは点数が取れたかどうかじゃない。そこまでの過程で何が上手くいったか、いかなかったかを見直すこと」

そう彼は言った。

目標設定、そこまでのプロセス、行動…
すべて社会で必要な力だ。


手段と目的、混ざってない?


私が高校の現代文で一番の学びになったこと、そして今でも覚えているのが「自己目的化」。

「手段」が「目的」になってしまうことを指す。

このことばが高校生のころ、なぜだかぐさっと刺さった。
それは当時の自分への戒めや忠告だったのかもしれない。


「学校の「当たり前」をやめた。」の著者であり中学校の校長でもある工藤勇一さんは本の中でこう話している。

現在の学校教育を見渡すと、目的と手段の不一致はもちろんのこと、手段自体が目的化されているようなケースがたくさんあります。加えて、そうした矛盾に多くの人が気が付いていないか、あるいは「見て見ぬふり」をして、何らアクションを起こさないでいる

・英単語を覚えるために同じ単語を100回ずつ書くプリント
・提出点を稼ぐために答えを丸写しして提出する数学のワーク
・学校の風紀が乱れないように指定されたセーター、靴下、髪の毛の色や髪型


目的を達成するための手段が一つしかないと信じて疑わず、しかも手段が目的になっていることにすら気が付いていない… なんて現象は意外と身近にある。


「当たり前」を見つめなおす


本の著者であり校長先生でもある工藤さんと、今回お会いした奈良県で学習塾を作った男性との共通点は「暗黙の了解になっていることに疑問を持つ」ことだ。


男性と話していると、どんどんアイデアがあふれ出てくる。

・奈良で作ったような形態の塾を全国に増やしていきたい
・全国展開する塾の運営は大学生に任せる
・「教えない」学習を生徒に促すには、まずは教員を教育すること
・生徒が地元の課題とその解決方法を提案する「ふるさと自慢大会」を行いたい
・そもそも大学へ行かなくても高卒で希望の仕事に就けるような仕組み作り&人材を育てたい


そのどれもが聞いていてわくわくするものだ。
そして彼が疑問に感じていること、改善していこうとしていることはどれも「そう言われるとたしかに変えていくべきだ」と思わせられるものばかり。

いかに彼が「当然」「当たり前」にあるものに対し、「これはどうしてなんだろう」「もっとこうすればよくなるのでは」とさまざまな視点から見つめているかが分かった。


自分は周囲の人間の平均


そう彼は言った。


・周囲の人間が年収1億円だと、自分の基準も自然と上がってきて1億円が普通だと思うだろう。
・留学することが大学卒業に不可欠でありクラスメートや先輩などからアドバイスを得られる環境にいるのなら、留学に対する不安や抵抗は少なくなり、海外へ行くことが当たり前だと感じるだろう。


自分を変えたいなら付き合う人間か環境を変えるべき、と私は考えている。


今の自分はどんな環境でどんな人と関わっているのか、関わっていきたいのかを明確にし、行動していくことが理想の自分や目標を見つける手段かもしれない。


好きなこと、自分が楽しめることをとことん突き詰め、「どうすればもっと面白くなるだろう」と常に変化を求め挑戦し続ける彼は輝いていた。

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