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Kagura古都鎌倉奇譚【壱ノ怪】星月ノ井、千年の刻待ち人(11)

11:かぐら、陰陽に踊る


今、自宅の時計を見ると17時35分だ。
いつの間にそんなに寝てしまったのだろうかと思う。
体の倦怠感と、大量の寝汗が冷えたことによる不快感が、
さきほどの悪夢の後味の悪さと共にずっしりと頭痛と共にのしかかってくる。


「しかし、もう夢から入ってくるとは…。宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)と弁財天様に私が上からの委細を聞いて間もないではないか」

「委細が聞けたのか」

「ああ。やはり、あれじゃ。そしてそれがちと面倒になっておる。陰陽に分かれてしまったようなのじゃ」

「なんと?!」



狐少女が腕組みをしながら簪を揺らして、厳しい吊り目で烏天狗と小舞千に言うと、烏天狗と小舞千が驚きに息を飲んだ。
大変深刻そうな空気である。




「六道から歩き直し、天の扉の前まで来たという話だったではありませんか」

「そうなのじゃが、朝霧が一体どのような約束をしたのかが分からんのじゃ。それにどうやら上はどういうことか知っているようでな。恐らくだが、朝霧と上とが話し合ってこうなったと推察しておる」



小舞千までがそれを聞いて考え込んでしまった。
どうやら狐少女は佐助稲荷と隣接する「宇賀福神社(うがふくじんじゃ)」の弁財天様と近況を話に行った際にかなり深く何かを聞いたようだった。
そして、事態を知っているこの二人には、

「アレ」

だとか、

「それ」

だとかで通じ合っていて、深く理解しているようだ。
めでたい、めでたい。



「こうしてはいられません。この家では結界を張ったところで相手が相手ですので、目に見えています。もうすぐ陰になります」



小舞千がそう自分のゲームやこたつで狭くなった2LDKの座布団の上で立膝をつく。



「うむ。相手が分かった今…というか、未知数なのは変わらないのじゃが…最悪の事態を避けるために護りの厚いそなたの家に参ろう」






何だって?









「え。夕飯は…?」








エプロンを着たまま自分が切り損ねたブナシメジを掲げたまま、小さく言って台所から振り返ると3人が押し寄せてきた。

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ご興味頂きましてありがとうございます。書き始めたきっかけは、自分のように海の底、深海のような場所で一筋の光も見えない方のために何かしたいと、一房の藁になりたいと書き始めたのがきっかけでした。これからもそんな一筋の光、一房の藁であり続けたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。