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Kagura古都鎌倉奇譚【壱ノ怪】星月ノ井、千年の刻待ち人(12)

12:かぐら、陰陽に踊る


「益興さん、藍子さん、こんばん…」
「おお!待っていたぞ神楽君!!さ!早くこちらへ」


鎌倉雪の下の小笠原家に再びお邪魔して、少々緊張をしながら門を潜った。玄関は明かりがついていて、待ってましたとばかりに小舞千の祖父母の小笠原益興(ますおき)と藍子(あいこ)が居間から廊下へ飛び出してきた。
藍子さんは焦りと不安で心配げに出てきたが、自分を始めとした一向が無事であると分かると“ほっ”と胸を撫でおろし、涙ぐみながらも微笑んでくれた。

益興はというと、やはり心配そうな顔で足早に着物の裾を乱れさせながらも玄関へ来たが、無事と分かり1つ大笑いすると自分の挨拶も待たずに大声で言葉を被せて来た。しかも、靴を脱ごうとしているというのに腕を引っ張るもんだから靴がばらばらと玄関に散らばる。

この家の主であるのは確かなのだが、まるで殿様が作戦を成功させてきた家来を出迎えてくれたかのような雰囲気だ。

せめて靴がちゃんと玄関におさまっているかだけ確認すべく後ろを振り返るが、小舞千が手を振って靴を直してくれているのが見えた。



あの手であんな汚い靴を触らせることになるとは…。洗っておけば良かったか。・・・もしかして、匂いやしなかったろうか?



そんな不安が渦巻くが、自分は目の前の事にも忙しい。
この家に来ると忙しいことや考えることが多い。
とりあえず目の前の殿様が自分の服を脱がせて何しているのかは聞かねばなるまい。



「あの、まっさん…?
「話は後だ神楽君!兎に角あいつらがここに追いつく前に装束を変えよう。これは特殊な華絵巻師専用の着物を、更に君用に小舞千が作り直した特別制!!
「小舞千さんがッ?!俺n・・・」


驚きに仰け反る。そしてこんな時に胸が張り裂けるほど甘酸っぱく、こそばゆい感覚が津波のように押し寄せてきた!!
と、言うのに!!
言っている途中でまっさんの野郎が大声で、ちょっと楽しそうにどや顔で言う。

鬼神から心臓も、も、首や背中に至る急所でさえも呪いや攻撃から護ってくれる、超スーパー装束!その名も“小笠原益興秘術・退魔鎧装束”!」
「俺に…!俺の為にぃ…鬼神?!心臓?!それにネーミング!!情報量!まっさん!

カッコいいだろ?と、まだご機嫌にまっさんは自分の着付けをしてくれながら言っている。しかも遠くの方から“ほとんどおばあちゃんだからね!”などという叫びも聞こえて来る。

「益興そこそこで良いのだ!早くせんか!」
「お待ちください!この帯周辺こそ日本の男の粋(いき)を出す場所!
「どんなにやっても神楽はモッサリなんじゃから適当で良い!」

人の着替えに部屋に入り込んで酷いこと言ってくる狐少女(一応神様)もいるし、もうほんと、カオスだ。

モッサリと言われることにも慣れてしまった。
何事にも冷静に対応する理知的な大人としては・・・上々なのではないだろうか?



多分。









さて、

この前の正月のような正装ではないのだが、ラフな着物(?)になって、4人がテーブルに腰かけた。相変わらず暖炉からは薪が爆ぜ、優しい音と光を放っている。
テーブルの上には
巻物、扇子、榊(さかき)、水、塩、酒、それから妙な金の模様の描かれた札のようなもの。



それから…



ちらりと横目でそれを見る。
山盛りの菓子とツマミ。



額を抱えていると小舞千が気が付き久しぶりに慌てる素振りをした。



「いや、これはその…私たちのではなく…というか私たちも食べてもいいんだけど…」



急に歯切れが悪くなった。
もう、ここに来るまでの手つなぎイベントから小舞千が可愛く見えて仕方ない。だが、急にドライになったり、未だに彼女の殻に閉じこもったりとしてしまうものだから、そう思うたびに現実に引き戻される感覚はある。
あ、あと年齢差。25歳と32歳なので7歳差だ。それは考えたことも無いシュチュエーションだ・・・。
しかし32には見えない。下手したら大学生くらいに見える。
小舞千さん、謎だ。



「何だ。文句あるのか?神楽や」
「口の中のモノを無くしてからお喋りしなさい」


もごもごと狐少女がおかしを頬張りながら自分に言ってくる。

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ご興味頂きましてありがとうございます。書き始めたきっかけは、自分のように海の底、深海のような場所で一筋の光も見えない方のために何かしたいと、一房の藁になりたいと書き始めたのがきっかけでした。これからもそんな一筋の光、一房の藁であり続けたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。