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Kagura古都鎌倉奇譚【壱ノ怪】星月ノ井、千年の刻待ち人(14)



14:かぐら、陰陽に踊る




「こ、これは・・・ッ?!」



外に出るなり小舞千が険しい顔になる。
今まで見たことが無いほどの険しい顔だ。



『小舞千は面を被れ。神楽はそのままで良いぞ』



どこからか先ほどの神様の声が聞こえる。
“どこからか”ではなく、
“耳元から”でもない。
“体の芯に直接強烈に響き渡る”と、言ったほうがいいかもしれない。

しかし、長野県の諏訪大社といえば、日本で知らない人がいるとしたら日本人のもぐりか、相当日本に興味が無いかだろう。
普通名前ぐらい知っている。
しかし、そこの神様がじきじきにこんな遠くまで・・・


って、距離は関係ないらしいが・・・。


この事態を知ってここまで来てくれるとは・・・
一体どうなっているのかさっぱり分からない。

分かっているのは、諏訪大社の夫婦が大変に美男美女であるということと、
何か本当にヤバいことになっているということだけだ。



「神楽さん・・・!気をしっかり持ってくださいね!!」
「と、言われても・・・何が何だか・・・」



震えが尋常じゃない。背骨が震えているのではないかと思うほどだ。
何も見えないが、周りが異次元のように時空が深く、またねじれて感じ、暗すぎて、まるで夜の嵐の海に放り出されたようだ。



頭もぼーっとして重くて気を失いそう・・・な良く分からない感じだし、
何かが周りでうごめいている感じがする。



それに気のせいかもしれないが、瞬きの一瞬にとても醜悪な・・・

妖怪や幽霊なんてそんな可愛いものじゃない、汚れたヘドロのような鬼のような顔が見える気がするのだ。それは、地獄絵に出て来るような昆虫や爬虫類の不気味さと似ているが、こう目の当たりにすると吐き気までしてくる。



だが、である。



「こ、こんなときに・・・変なこと・・・言いますけど・・・」



良く分からない凍る冷気のせいで足から頭の先まで震えているので歯の音が合わずやっと言うと、小舞千が鳥の仮面のまま振り向いた。



「なんか・・・知ってる・・・気がする・・・んです・・・。何か、・・・懐かしい気がする。俺、知ってる気が・・・します」

「・・・神楽さん・・・。今は闇を見てはいけません!」


とは言っても、この状況で打開策何かこれっぽっちも思い浮かばないし、ましてや、明るい未来を想像なんてもっとできない。



ただただ、誰かに助けてもらいたい一心だ。

誰かに。

誰にだ?



そうだ。確か神様が護ってくれると言っていたではないか。
神様がこの状況を何とかしてくれるはず…。







ー神楽、小舞千。お主らで鬼祓いをするのだ







「・・・」


何かやっぱ違う気がするぞ・・・?






「八坂刀売(やさかとめ)様!建御名方(たけみなかた)様!!護りも結界も限界でございます!どうかお知恵をお貸しください!」




彼女は自分を両手で庇いながら立っているが、明らかに顔色が悪い。
自分も頭が痛いし正直何かに体力を奪われている。
周りに陽炎のように何かが沢山うごめいてるのが分かるが、
小舞千は見えているのか庭の周りを、首だけ動かしつつ右に左に何かを持って防いでいる素振りをしている。


自分には何も見えない。影ぐらいだ。
だが、明らかに何かとんでもない奴がとんでもない数で自分たちを取り囲んでいるのは分かった。
天候すら操る何かが。




ーしかし・・・、こんな時にも“助けて”ではなく、“知恵を貸してほしい”か・・・。





と、冷静に考える自分もいる。



『思い出せ小舞千。お主ならばその忌み嫌っていた転生の知恵を無限に使いこなせるだろう』
「転生の・・・知恵?」
『それまでここは預かろう』
「そんな!!」



小舞千が明らかに狼狽(ろうばい)しているのが分かった。

徐に仮面を外し、大きく息を吸いだした。

顔色はもはや青を通り越して、大分暗い色になってきてしまった。

唇なんて紫色になっている。





これはまずい。





素人目にも、彼女がこの世的にまずいことがわかる。
これまでの人生で使ったこともないし、今後も絶対言うことも無いと思っていたワード。








“死相”だ。






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ご興味頂きましてありがとうございます。書き始めたきっかけは、自分のように海の底、深海のような場所で一筋の光も見えない方のために何かしたいと、一房の藁になりたいと書き始めたのがきっかけでした。これからもそんな一筋の光、一房の藁であり続けたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。