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午前3時50分は深夜か早朝か

まただ…。

彩は手を伸ばして携帯電話の画面を見た。午前四時少し前。また同じ時間。まだ暗い闇の中、ベッドから出て窓の外を覗いてみる。静寂と暗闇。他には何も無い。

彩が毎朝この時間に目が覚めるようになって、二週間が経とうとしていた。最初は女の悲鳴が聞こえた気がして目が覚めた。事件かと思ったが警察は来ていないし、朝になってもニュースにもならない。気のせいかと思ったが、翌日は女が追いかけられ悲鳴をあげて逃げる夢を見て目が覚めた。

疲れているのかな…。精神的に疲れるような心当たりは無いが、その後も同じような夢を見て同じ時間に目が覚めるのだ。何かあるに違いない。

自分が疲れている可能性を考えて早く寝てみる。ー変化なし。やはり女が追われて悲鳴をあげる夢で四時前に起きる。

お酒を飲んで寝てみる。缶ビール程度なら変化は無いが、ワインや日本酒を大量に飲んで寝てみる。ー全然起きない。しかし目覚ましが鳴っても起きなくなる。

もしかすると。誰かが本当に追いかけられていて私に助けを求めているのかも知れない。殺された女の霊とか…精神的に追い詰められた女の魂とか…いや。そんなスピリチュアルな感性は持っていない自信がある。

では何故こんな時間に起きるのか。

いっその事、一晩寝ずにいてみるか。そう思い立った彩は、その夜は酒は飲まずに珈琲だけで起きている事にした。

午前1時。何も起きない。当然だ、普段からこれくらいは起きている。いつも通りの深夜。

午前2時。何も起きない。酔った青年達が大声で笑いながら家の前を通り過ぎて行った。

午前3時。すごく静かだ。草木も眠るってこんな感じかなぁと窓から深夜の暗闇を眺める。

午前3時半。何もない。ひどく無意味な時間を過ごしているような気がしてきた。いつも同じ時間なのだから、早く寝て早めに起きて様子を見たら良かったのではないか。眠くなってきた。

午前3時48分。うとうとしかけた彩の耳に女の悲鳴が聞こえてきた。ハッとして起きる。気のせいじゃない、本当にキャーーーッと長い悲鳴が聞こえる。急いで窓を開けて外を見る。まだ暗い闇の中、長い悲鳴はどんどん近づいてくる。今にも角から悲鳴をあげながら髪を振り乱した女が走って出てくるのでは無いか、見てはいけない闇の住人なのでは無いか。恐ろしくなり半分隠れながら見ていると。

角を曲がってやってきたのは、黒い人影だった。ぼんやりした街灯の中、1人の男が新聞を配っている。長い悲鳴は、その男の錆びついた自転車の音だった。

彩はベッドに入って寝る事にした。もう夢は見ないだろう。

え!?サポートですか?いただけたなら家を建てたいです。