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久しぶりの仕事復帰

朝からよく晴れていて、久しぶりの1人での外出に浮かれていた。スニーカーにご近所服じゃない。持つのもエコバッグじゃない。いつもより丁寧に化粧して、久しぶりに少しだけどヒールのある靴を履く。子供は幼稚園へ、私は社会復帰。不思議なもので、働いている時は早く辞めたいと思っていたのに妊娠・出産と家にこもると働きたくなる。正社員では無いけど、綺麗なビルの事務として働くことになったのはラッキーだったと思う。

新しい職場があるビルは駅から15分歩く。まだ暑いからか普段は自転車だからか足が痛くなる。運動不足かな。それとも昔お気に入りだった靴を引っ張り出して履いたからかな。長い間ぺたんこの靴かスニーカーばかりだったから。出勤してしまえばデスクワークなのでほぼ座っていられると思って頑張って歩く。職場の雰囲気はどんな感じだろう。私、ちゃんと役に立てるかな。

出勤初日は覚える事はたくさんあるものの、あっという間に退社時間になった。年下も大勢いたけど、年上の女性もいて働きやすそうだ。何より、また働ける事が楽しい。浮かれた気分でまた駅まで15分歩く。乗り継いで子供を迎えに行き、手を繋いで家路に着く。

子供は好きだし一緒にいたいとも思うけれど、1人の時間が出来たこと、また働けること、少ないけれど自分の自由にできる給料がもらえることを思うとやはり楽しい。

お給料もらったら何に使おうかな。

ウキウキしながら子供と歩く。まだ痛いけれど、なんだか足取りが軽い。

「ママ、」

そうだ、子供に新しい服を買おうかな。それとも久しぶりの仕事復帰祝いにケーキでも食べちゃう?フワフワと軽い足取りで歩く。

「ねぇ、ママ。」浮かれすぎてて話しかけられてたのに気付かなかった私の手を子供が引っ張る。

「なぁに?」浮かれて足元が軽くなった私はニコニコと笑顔で子供を見た。子供は私の手を引っ張ったまま後ろを向いていて「あのね、ママ、」と言いながら、私たちが歩いてきた道を指差した。

何か黒いものが落ちている。

「あし。」と黒いものを指差しながら子供が言った。あし?足?何が?あの黒いもの?

何だろうとじっと見る。黒くて楕円形のもの。道に落ちているようだ。よく見ると、何だか見たことあるような気がしてきた。あれは、えーっと。

そうだ。靴。靴の裏。「あし、じゃなくて靴だね。足跡みたいだね。」と言うと、今度は私の顔をじっと見つめて「ママの、おくつ。」と言った。…ママの?ハッとして足元を見る。

靴は履いている。

いや、履いているように見える。上から見ると。足を上げて裏側を見ると、そこに靴底は無かった。中敷がかろうじて私の足裏にくっついているだけだ。慌てて先ほどの黒いものの所まで戻る。見たことあるヒール。間違いなく私の靴底だ。どうりで途中から足が軽くなった訳だ。長い産休で昔お気に入りだった靴はもう古くなりすぎていた。

お給料もらったら、なんて待ってられない。自分の靴を買わなくては。

右手に子供の手、左手にヒールを持ってペタペタと家へ帰っていった。

え!?サポートですか?いただけたなら家を建てたいです。