長い間そばにいる本・1(絵本)
『本は こうして つくられる』
「この本を おしまいまで よんでごらん わかるから」
と表紙のネコが言います。
絵本をヒザにのせて読んでいる子ネコのうしろに、いくつかの場面がコマ割りで見えかくれしています。
奥付によると、1986年にオリジナルが、1991年に日本語版の初版が出版されています。
『わたしたち みんなで つくりました!』
裏表紙には本にかかわるいろんな職業のネコが並んでいます。
服装や、小道具に注目しましょう。
発行責任者は右手に万年筆。契約書のサイン用? いや、左手に持つ小切手のサイン用かも。
編集者は眼鏡越しに、何かを見透かしているようにこちらを見ています。右手に手帳。左ポケットには何が? 私ならアメちゃんを持たせたいです。
靴とシャツのストライプを赤で揃えたお洒落なデザイナーは長いメジャーと原稿を。
校正者は大きな校正紙を抱え、左手に赤ペン(お、左利きか)。
印刷者もスーツのポケットにちゃんと赤青のペンが入っています! ポケットにはルーペも入っていることでしょう。
営業担当者は肩パッドの入ったスーツで資料で重くなったカバン。そこまで笑顔にならなくてもよいのになあ。
80年代前後の元気な絵本を数多く作り出したレジェンドたちもこんな姿だったはず。みんな頼りになりそうです。
大きな会社では、それぞれの仕事を分担します。
ミケトラ出版のキャッチフレーズは”よいネコがよむ よい本”。ネコでよかった。”よい人間がよむ よい本”。今なら、いろいろ言われそう。
ビルの壁面に自信に溢れたキャッチフレーズが書いてあります。自社ビルなのでしょう。
実際には大手出版社はほんの一部で、それ以外の多くが中小規模の出版社です。どの世界でも小さい規模のところはそうだと思うけれど、一人で同時にいろんな仕事を受け持ちます。
コンピューターを使うようになり、今ではさらに見えにくくなった部分の仕事をわかりやすく説明しています。
契約書、原価計算、フィルムの仕組み、オフセット印刷など、本について考えた時、これはどうなっているのだろう? と気になる部分についても触れられています。
裏見返しには、校正で入ったたくさんの赤字。
文字校正のほかに、黄色の版がずれていると指摘が入っています。これだけ誤植があると、修正作業も大変です。再校でしっかりと確認しないと。
会議の上、初版の印刷部数が5000部増える! 今の時代なら、なかなか難しいことだと思います。
スタッフが集まって、緊張しながらルーペで色校正を確認する様子、
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インクの香りに囲まれながらの、立ち会い印刷のわくわくする気持ち、
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製本所で上製本となる様子(じつは、ここだけで絵本が1冊出来ると思う)、
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新しい本が、倉庫への搬入され(結局初版は合計何部刷ったのか?)
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宣伝担当者が電話をしています。
書評欄などで紹介してもらうよう、宣伝資料を送ったり、著者がメディアで直接本の宣伝をする段取りをしたりするようです。
ここで、日本ならではの”取次会社”のお仕事を加えたいところです。
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図書館の司書が児童書コーナーで子どもにおすすめして、
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営業担当者はニャオニャオ書店の児童書担当へ新刊の案内をして、
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お父さんが、子どもへのプレゼントとして購入します。
こうして、絵本は子猫のもとに。
絵本は基本は32ぺージで構成されますが、その32ぺージのなかで、これでもかと絵本にまつわるドラマは続きます。
事務所にタイプライターが置いてあったり、ぺらぺらの大きなフロッピーディスクを使っていたりするところなど、80年代のオフィスの様子はこんなだったのかと驚く部分も多いでしょう。どこまで理解できるかわからないけれども、うちの子どもたちもこの本をよく眺めていました。
シンプルな色使いで、いったん本棚に収めてしまうと目立たないけれども、時々背のチューリップと目が合い? 楽しませてくれます。
本は こうして つくられる
アリキ 作・絵 松岡享子 訳 日本エディタースクール出版部 刊
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