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全ての温泉むすめを訪ねる旅 その2

 2021年12月11日。
 私は東京の温泉むすめを訪ねるために夜の大手町にいた。
 この頃はちょうど年末で仕事が立て込んでおり、家に持ち帰って仕事をまとめないといけない状況に追い込まれていたのだが家ではそこまで集中出来ないため、ならばホテルにこもって仕事を片付けよう、と考えていた。
 そこで、どうせ都心のホテルにそれなりの金額を支払って宿泊するならば、この際東京唯一の温泉むすめである梨稟ちゃんに会いに行くのを兼ねても良いと思い、早速大手町にある「星のや東京」を予約する事にした。

都心に聳える“温泉宿”(右のビル)。外観からは想像もつかない。

 日本でインバウンドビジネスが叫ばれ始めた頃、東京の大手町で星野リゾートが温泉を掘り当てて都心のど真ん中に温泉宿を作った、というのはなんとなく覚えていたので、「大手町梨稟」の名前を見てすぐに星のやのことだ、というのは理解した。
 ただ、“星のや”はハイクラスホテルの値段設定で相当高い、というのも知っていたから余程のことでもなければ泊まりに来ることもあるまい、と思っていた。
 そのため今回はまたとない宿泊の機会であるし、ちょうどコロナ禍での集客キャンペーンで宿泊費がかなり安くなっていたのもあって、予約に当たっては躊躇をしなかった。
 なお現在の宿泊費と比べると半額以下であった、というのを書き添えておく。

エントランスはすぐに畳敷きとなっており、来訪者はここで靴を脱ぐ事になる。左の壁は靴箱。
エレベーターの中まで畳敷きという徹底ぶり。

 星野リゾートは経営する全ての宿に対する考え方として“非日常”をコンセプトとしている。それに違う事なく、星のや東京はエントランスからそもそも違っており、自動ドアをくぐるなりすぐに玄関で靴を脱いで畳に上がるようになっていた。
 館内は全て靴を脱いで裸足で歩けるようにしてある、とのことで、エレベーターやフロントなどが全て畳敷きになっているのに驚きつつ部屋のあるフロアへ案内される。
 エレベーターを出ると広い居間のような空間が広がっていた。宿泊者用のラウンジで各階に備えているとのことだった。

息抜きにお茶を飲んだり、お茶受けを食べたり。日本文化を紹介する本に目を通したり。

 チェックインは各部屋で行われるのだが、部屋中も当然ながら畳敷きになっているのはもちろん、窓のところにはカーテンではなく障子がしつらえられていた。
 ここまで和風でまとめた高層ホテルはまず見た事が無かったので非常に新鮮だったし、外国から来てこのホテルに泊まる人は都心にいながら和の雰囲気を体験できて喜ぶだろうと思えた。
 外国旅行の経験上、寝床もその国の実情に合わせたものであればより現地に溶け込めるような気がしてわくわくするのは、おそらく私だけではないだろう。

畳敷きの部屋。テレビは右側の壁に埋め込まれていて、戸を開くと出てくるようにしてある。
部屋の中からは外がよく見えるが、外から見るとビルの模様のようになって中はよく見えない。

 チェックイン後に、風呂へ行く前に腹ごしらえをしようと思いルームサービスを取った。
 宿にはレストランもあるから事前に予約して上等な料理を楽しむのも良かったが、この時はスパでのマッサージを予約していた。マッサージかレストランか、の二者択一だったので(両方やったらそれはそれでいいのかも知れないが、当然宿代が大変なことになるので)、注文した牛肉のしぐれ煮丼と豆乳を部屋で食べることにした。
 もちろんこれもかなり美味しかったので満足したが、あとで仕事が待っているので酒はやめておいた。

ルームサービスの食事というのもなかなかオツなもの。

 大浴場は最上階にあって、そこには露天風呂があるという。
 都心の、しかも高層ホテルの露天風呂とはどのような空間なのだろうか、と色々な想像をしながら浴室へ入ると壁や天井がシックな黒で統一され、洗い場の壁から差し込む間接照明が豪華な雰囲気を醸していた。
 塩辛い茶褐色の湯が湛えられた黒い浴槽は奥にのれんがかけてあって、その先も続いているのが見える。気になってそちらへ出ていくと冷たい外気が全身に吹き付けたのでたまらず湯に全身を沈めた。
 のれんの先は露天風呂で、周囲が壁になっているので展望は開けないものの頭上抜けていて空が見え、壁越しに都心の喧騒が響いてくる不思議な場所だった。
 周囲は見えないが都心の真ん中で露天風呂に入っているという場違いな感覚がなんとも新鮮で、長湯するにはちょうどいい温度のおかげでのぼせかける位、長い時間をそこで過ごしていた。

循環濾過しているとのことだったが、泉質はかなり良い方だった。

 長湯し過ぎてスパでのマッサージ時間ギリギリになってしまい、汗だくの中カウンセリング、そしてトリートメントを受けたが、宿泊者専用のスパだったので値段は他のホテルのそれに比べてかなり安くお買い得だった。
 これでそのまま寝れてしまえれば良かったのだが、部屋に帰った後は夜遅くまで仕事に勤しむこととなった。

 翌朝は起きてすぐ風呂へ行き、内湯で温まった後は再び不思議な露天風呂へ行った。もう陽が上がっていたため頭上は青空であり、街の喧騒に耳を澄ませながら再びの長風呂を楽しむ。
 周囲は通勤時間なのに自分は呑気に風呂に入っているというギャップがどうしようもなく心地良かった。
 なお、朝食が付いていないプランだったが朝におにぎりがもらえるサービスがあり、この時はコロナ中ということもあり部屋に届けられたのを美味しくちょうだいした。

自分で海苔を巻いて食べる。

 チェックアウトは12時だったので時間になるまでラウンジで仕事をしていたが、宿泊者がほとんどいなかったというのもあり非常に捗り、残りの1時間半くらいは部屋でお茶を飲みながらのんびりしていた。
 後ろ髪を引かれつつチェックアウトして外へ出ると、都心の温泉宿はオフィス街に溶け込んでいてそこが宿だとは知っていなければわからない。
 5人目の温泉むすめとなる梨稟ちゃんは私に良い経験をもたらしてくれた。

昼間の“温泉宿”(中央左のビル)。やはり知っていなければわからない。

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