〔ショートストーリー〕#祈りの雨
2階の窓から見える、重苦しい灰色の空。早く、早く雨が降ればいいのに。傘を差しても濡れてしまうぐらい降って、あの子のクルクル巻いた髪や、バッチリメイクがドロドロになればいい。
「あたしぃ、祐くんと付き合うことになったんだ。アキちゃんの気持ち知ってたのに、ごめんねぇ」
私が親友だと思っていた沙織から、この間告げられた。私の片想いの相談を聞いて、「きっと大丈夫だよぉ!自信もって!」と励ましながら、腹の中で笑っていたのだろう。ごめんと謝りながら、どこか優越感を漂わせていたあの子。他の友達から「沙織って、誰かの彼氏とか、誰かの片想いの相手ばっかり狙うね」と言われたのは、その後だった。考えてみればそう。今まで沙織が付き合ってきたのって、そういう男子ばかりだ。親友だと思い込んで自分からベラベラ相談していた私は、いいカモだったのかも知れない。
今日は日曜日。沙織と祐くんは、遊園地デートらしい。地元の小さな遊園地は私たちの高校からそう遠くなく、その程よい距離から定番のデートコースになっていた。屋根は、ゲームコーナーと古いメリーゴーランドしかないし、小さな観覧車は故障中。2人が乗りたがっていたジェットコースターには、当然屋根なんてない。雨雨降れ降れ、アキちゃんが~願って呪って土砂降りに~。呪いの歌を小さく口遊みながら、窓の外を睨みつけている。
サッカー部の祐くんの試合の日は、いつも晴れるように祈っていた。どうかお天気にも恵まれて、実力を発揮できますように。それは叶うことも叶わないこともあったけれど、多分私は祈るだけで満足していたのだろう。晴れでも雨でも、いつもそっと応援しているだけだったから。でも今日は違う。絶対に、絶対に雨になって欲しい。どんなに醜い祈りでも、今までで一番強い祈りの雨だ。
ポツッ。大きな雨粒が、窓に当たる。続けてポツポツ、バラバラ、ザーザーと、見る間に大雨になった。所により雨、見事にここが「所により」に当てはまったようだ。遊園地の客たちが、慌ててあちこちで走り出している。少し離れた、遊園地を見下ろす2階建ての喫茶店からほくそ笑んで見ていたが、親子連れらしき人影にはちょっと胸が痛む。ごめんね、こんなことを祈るのは今日だけだから。これで全部、雨に流して忘れるから。まあ、沙織とは絶交したままだと思うけど。あーあ、祐くんも見る目がなくてガッカリしたな。
ふと、祈りすぎてお腹が空いていることに気が付いた。そう言えば朝から何も食べていない。
「すいませーん!スペシャルパフェくださーい!」
窓を叩く雨音に、私の中のモヤモヤした物が流されていくのを感じていた。
(完)
こんばんは。こちらに参加させていただきます。
何だか、美しくない祈りになってしまったような💦あれ?
山根さん、こんなのですが、よろしくお願いします。
読んでくださった方、ありがとうございました。