【掌編小説】お萩とふろまーじゅ

絹江は機械に疎かった。

今年で小学三年生になる孫の圭介に頼まれた、ふろまーじゅというケーキの作り方を調べたくても、電話本来の機能でしか使用したことがなかった絹江は調べ方がわからない。

娘は、圭介の友達が来る際に、家でふろまーじゅなるものを作っているらしい。

作り方はもちろんのことどんなケーキなのかも見当がつかない。娘に聞こうにも、仕事で電話は繋がらない。

こんなことなら娘が使い方を教えてくれると言った時に素直に聞いておけばよかった、と絹江は後悔した。

仕方がない。圭介が学校から友達を連れて遊びに来るまであまり時間がなかった。

何もないよりはせめて、と絹江は小豆を鍋にかけた。

完成したお萩は、我ながら上出来だ、と絹江は思う。

「ばあちゃん来たよー」

圭介が勢いよく玄関扉を開ける。

玄関まで迎えに立つと、圭介より少し身長の高い男の子が、「お邪魔します」と元気な声を上げる。それと同時にその隣の小さな女の子は丁寧にお辞儀をする。

「ミツルとカナ」と圭介が短く紹介した。

「よく来てくれたわね。どうぞお上がりなさい」

圭介がそそくさと居間へ案内する。

絹江は早速作ったお萩を三人の元へ運んだ。

「こんなものしかないけれど、ゆっくりしていってね」

テーブルに、お萩を乗せた皿を置いた瞬間、圭介の怒号が飛んだ。

「ばあちゃんなんだよこれ。フロマージュのケーキじゃねーじゃんか。こんなダサいのみんな食べないよ」

圭介が絹江を怒鳴りつけて居間を飛び出した。

あまりに突然の事で、絹江はどうしていいのかわからなくなった。

「良かったら食べてみてね」

それだけ二人に言い残して、慌てて圭介の後を追った。

圭介は二階の部屋の片隅でこちらに背を向けてうずくまっている。

「ごめんね、圭ちゃん。おばあちゃんね、ふろまーじゅっていうのの作り方わからなくてね。今度お母さんに教えてもらうから。ごめんね」

「今日……」

圭介の声は震えていた。鼻を啜る音が胸を裂く。

「……今日フロマージュ食べさせてやるって二人に言っちゃったんだよ。俺、約束破っちゃった。どうしよう……」

「おばあちゃんが二人に謝ってくるから。圭ちゃんは悪くない」

「ばあちゃんごめん。さっきひどい事言っちゃった……おれ、ばあちゃんのお萩好きなのに、ひどいこと言った……」

「そんなのいいのよ……一緒に謝りにいこうか?」

「うん……」

絹江は圭介の涙を拭いて、二人で居間の方に降りた。

「圭介どこ行ってたんだよ? これめっちゃ美味いぞ」

ミツルがお萩を頬張りながら、圭介に言う。

「圭介くんのおばあちゃん、これとっても美味しいです。今度作り方教えてほしいです」

カナが絹江に向かって丁寧に頼む。

「あらカナちゃん和菓子作りに興味あるの?」

「はい。お母さんは洋菓子の作り方は教えてくれるんですけど、和菓子は全然ダメで。私、本当は和菓子の方が好きなのに」

カナが少し照れたように笑う。

「ほら、お前も食べろよ圭介」

勧められるまま、圭介はお萩をほうばる。

「美味い」

圭介の目から涙が溢れた。

「泣くほどかい?」

絹江の言葉に、みんなが笑った。









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