全くマッチレビューをしないカラバオ決勝感想文

試合後、ディーン・スミスは報道陣へ向け「ただひとつだけ言えるとしたら、」と控えめに前置きした上で、けれどどこか強気に続けた。

「サポーター同士の勝負なら、今日はウチのサポーターの勝ちだったと思うよ」

その後もスミスはかつての彼がそうであったように、如何にヴィラのサポーター達が素晴らしいかを何度となく語った。

彼にとって2年連続となったウェンブリーの舞台は、しかし残酷な結果をもってその物語を綴じることになった。CWC中で主力不在のリバプールを叩いた試合や、延長戦に縺れ込んだレスター戦。今季のアストンヴィラを語るに外せない印象的な試合もあったが、一方でプライオリティだったはずのプレミアリーグでは降格圏を彷徨い、解任論さえ囁かれた。

勿論、全ての責任を彼に押し付けるのは簡単なことだ。だがクラブレコードで加入したストライカーの不発や、あまりに若い経験不足のセンターバック陣の不始末を一言「彼のせいだ」と片付けてしまうのは目覚めが悪い。チームを後方から支え続けたベテランのヒートンや、昨季チームを牽引し代表にも上り詰めたマッギンの離脱も不運で片付けられるような些細な問題では済まないだろう。

そもそもが、スミスがいなければアストンヴィラは今季プレミアリーグに居たかもわからなかったのだ。昨季半ば、ボーイフッド・クラブからの誘いを受け「夢にまで見た」キャリアを歩み出した彼とクラレット・アンド・ブルーの日々を振り返ることは敢えて控えるが、それでも彼がもたらしたものは昨年のリーグテーブルを見れば明らかだった。

他方、試合前から注目を浴びたのは主将のジャック・グリーリッシュ。彼の今夏の移籍は既定路線と言われて随分経つが、未だ移籍については憶測が飛び交い続けている。それでも彼をトップターゲットに置くと報じられるクラブは多く、ウェンブリーで相見えるマンチェスター・シティもそのひとつだった。レジェンドのダビド・シルバが夏に退団すると言われてから、その後継者に推す声も上がる中で行われたタイトルマッチは、当人の是非もなくグリーリッシュの品評会という側面も持ち合わせた。

ジャックにとってこのウェンブリーはキャリアで5回目の試合となる。まだ40番をつけたティーンエイジャーだった彼が、リバプールと対峙しアーセナルを相手に涙を流したFAカップ。主将としてチームの昇格を賭けたプレーオフで、一度は夢破れたフラム戦と、ようやく掴んだ二度目のダービー戦。今回こそ彼が真に主力として、プレミアリーグのアストンヴィラとして臨んだ決勝だった。試合前、彼が自身に掛けた期待と、無情のホイッスルが鳴り止んだ瞬間、降りかかってきた自責の念は推して知ることしか出来ない。だが、ピッチに崩れ落ち、涙を流しながら顔を覆った姿こそが、等身大のジャック・グリーリッシュだった。

アストンヴィラのジャーニーは、ここで一節が終わりを告げた。短く儚い夢だったのか、長く険しい物語だったのかはそれぞれの思うところに落ち着けばいいだろう。僕らヴィランズには、まだプレミアリーグが残っている。あとはもう、全力で信じるのみだ。どうかこの旅を振り返ったときに、この決勝での苦い想いが、笑い話になることを願いつつ。

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