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ネパールの交通事情をちょっと本気で変えたくなった話

ネパールの交通事情を、今日ほど恨んだことはない。

私は、基本イライラすることなどない。
赤子が泣いても、ホームレスの人がバスの前に座り込み、30分ほどバスが止まってしまったとしても、友人同士の実にしょうもない争いに巻き込まれたとしても、基本「しょうがないよね」ですませてしまう。
だけど今日は違う。私の人間としての尊厳が危機だったのだ。

ここ数日、少しネパールを観光していた。
今日は帰りの日で、前日まで泊まっていた場所からバスに乗って普段のステイ場所に戻る途中だった。
事はその道中で起こった。  

窓際の席に座っていた私は、バスから黒い煙が出始めたのを見て「およ?」と思った。ぼんやりと不思議に思って数分後、バスが止まった。

はじめはどこかに嵌まったのかと思ったが、なんのことはない。エンジンの故障だ。黒い煙だって出ていた。
それから2時間、情報もないままその場所に止まっていた。
この時点で「効率悪すぎるだろ」とは思っていたが、別に平気だった。
前の座席に来た赤ちゃんの手をツンツンして、一緒にきゃっきゃっできるくらいには元気だった。

2時間後、別のバスが道を通りかかり、前のバスにいた半分くらいの人が乗った。
来たバスは来た時点でいっぱいいっぱいで、狭いバスの通路にぎゅうぎゅう詰めで立ちながら、揺れる車内をやりすごした。
この時点でも私はまだ平気だった。
バウンバウン揺れる車内で笑いながら、頭上にある棚にしがみついていた。

問題はそれから更に1時間後のことである。
人間の生理的現象である尿意が私に襲いかかってきたのである。
バスを待って1時間。バスに揺られて1時間。バスが壊れて2時間。バスを乗り換えて1時間である。家を出るときにトイレに行っておかなかったことを、本気で後悔した。

そこからが大変だった。
バウンバウン揺れる車内。揺れる度に刺激される膀胱。バス停などという概念なく停まるバス。もう半泣きだった。
バス停作れよ。たかが5メートルおきに停まるんじゃないよ。道を整備しろよ。不満が涌き出てきた。

そこでふと悟った。「もしかして他の人は、普段からここまでのイライラを感じているんじゃないか」と。
人間の尊厳が危機的状況に置かれている今だからこそ、もしかしたら私は他の人と同じように苛立ちを感じるのかもしれない。

ちょっと本気でこの状況どうにかしたい。

まずはなんだろうか。道の整備だろうか。
道路かどのように巡っているかを調べて、バスの順路を調べて、バス停を立てるところからだろうか。 
有事の際のリカバリーも考えるべきだ。
エンジンをわざわざ取りに行ったけど、絶対あれ、持ってきてもらう方が早いよ。
所々の町に協力者を置いておくのも良いかもしれない。

私の頭は冷静に動いた。

バスが一度止まり、お手洗いに向かう。
やっと、頭の70%を支配していた鎖はほどけた。

バスに戻って残りの道程をいく。あと20分程度だ。
ここで思い立って文章を書き始める。
もう何もなくなった私は、車体がどれだけバウンバウン揺れてタイピングか阻害されようと、笑ってすませられる。

人間、危機的状況に陥るとこんなことになるのか。
他の人は(きっと)この状況を常に体感しているのか。
だからあんなにイライラするんだ。

と何気に学びが多い日だった。

でもちょっと、本気でネパールの交通事情を見直して見たいと思う。


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