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ただ緑がいっぱいあれば、「豊か」なわけではないみたい

僕(宮本)が、遠野の森林について、NPO法人遠野エコネット代表の千葉和さんに教えてもらう連載「Into the Forest」。Vol.2では、和さんと一緒に遠野の森を散策した様子をご紹介します。今回のテーマは遠野の森林の状況を語る上で外せない「間伐」。人が木を植えた人工林で、間伐している森林とそうでない森林の違い、またそこから生まれる自然や社会への影響について教えてもらいました。

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宮本 拓海(みやもと たくみ)
1994年生まれ。岩手県奥州市出身。2019年4月から企画・執筆・編集を行うフリーランスとして活動。同年7月からNext Commons Lab遠野に参画しながら、個人の仕事を並行して行っている。これからの目標は、奥田民生のように生きること

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千葉 和(なごみ)
1963年岩手県岩手町(沼宮内)生まれ。大学卒業後、国内外を回り1991年より遠野市へ移住。現在は薬師岳山麓(標高550m)に自力で家を建て暮らす。仲間たちと編集委員会を作り遠野の文化、自然にこだわった情報誌『パハヤチニカ』を1994年から発行。NPO法人遠野エコネットという市民環境団体の代表理事として、子ども達とのエコキャンプや水源の森づくり、また間伐材を活用した薪の駅プロジェクトや高校生との炭焼き伝承活動などにも取り組んでいる。1993年~2009年まで早池峰国定公園保護管理員。

和さんの樹木クイズに答えながら、森へ

和さんが指定した集合場所は、遠野エコネットが拠点を構える「遠野・薪の駅」。遠野の市街地から、車で15分程度の場所にある。街から遠く離れているわけではないものの、道中では鹿と遭遇!緑が深い木々が並ぶ道を進んできた。

薪の駅には、間伐材の丸太や薪が並び、炭焼小屋や木工を行うためのスペースなどが設置されている。毎年行われている「薪の駅プロジェクト」では、山の手入れができる人材を養成する「山仕事はじめの一歩(入門)講座」や「薪づくり倶楽部」、「間伐倶楽部」などを開催。参加者は講座を受講し、知識や技術が身につけられるほか、薪づくり倶楽部なら薪を、間伐倶楽部なら間伐材の丸太を、それぞれ軽トラック一台分持ち帰ることができる。(すごい豪華な参加特典!)

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和さんに薪の駅を一通り案内してもらった後、「じゃあまず林を見たほうがいいな」とヘルメットを被って、早速森林へ。薪の駅を出てすぐの道路を歩き始める。

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すると途中で足を止めて、「これは何の木だかわかるかな?」と、突然和さんからの森林クイズがスタート。

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「これはわかります。杉…ですかね」(僕)

「そう。杉林の中には、たまにヒノキとかも混ざっているんだよね。木肌だけだと似てるのもあったりするから。このオレンジっぽいのはわかる?」(和さん)

「この赤いやつですかね?わかんないです」

「そっか、そのアカなんとか、なんだよ」(和さん)

「赤い松、アカマツ!」(僕)

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「そうそう。じゃあこれは?落葉する松」(和さん)

「らくまつ?」(僕)

「遠野では比較的に標高が高いところにあるんだよ。カラマツ。聞いたことはあるでしょ?」(和さん)

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「たしかに聞いたことはありますね…」(僕)

・・・

前回書いたように、僕は木や植物の知識がなさすぎて、全然答えがわからないから、おどおどしながら答える。こういうのがちゃんとわかったらすごく楽しいんだろうなと本当に思う。情報量が多すぎて、すぐ忘れちゃいそうだから、帰ったらちゃんと復習しないと…。

間伐していない森林で起きていること

クイズをしながら歩いているうちに、和さんが管理している森林に到着。

「じゃあまずは間伐してない方から入ってみようか。森は外から見ても様子がわからないんだよ。道路から見る印象と、中から見るのでは全然違う」

和さんはそう言って、森の中へ。木がたくさん並ぶ、薄暗い杉林だ。

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「この林を見てどう思うかだなー。高さは一緒なのに、木の太さが全然違うよね。なんで差がついたと思う?なんでかっていうのは上を見ないとわからない」

そう言われて上を見てみると、隣り合っている木々の枝や葉っぱが密集している。

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「木は何で成長するかというと、光合成だよね。木が密集していると、こうして日が当たらないから、木が細いまま育っているんだよ」

「それにこれはなんだろう。この木肌についている白いの。どう見える?病気っぽいよね。これはカビ。湿ってるから木肌がカビてしまってる。これは風通しがよくないからこうなる。風も関係するんだね」

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「こうなる前に、するのが間伐。木が十分に成長できなかったり、病気になったりしないように間伐する必要がある。木を倒すと日光が入るし、風通しもよくなる。それが間伐の意味なんだよね」

間伐とは、木が混みすぎることを防ぐために行う、間引き作業のこと。岩手県では、杉林の適正本数は「隣の木との間隔が木の高さの1/5離れている」必要があると決められている。この杉林の高さはおよそ20メートル程度。そうするとそれぞれの木が4メートル離れている必要がある。そのルールでは、この杉林で間伐しないといけないのは、森林の7割の木になる計算だ。植林後に手入れをせずに放置され、木や土の状態がよくない山が多いのが現状だ。

「山を持っている人だけの問題じゃなくて、街に住んでいる人たちも知っておかないと、自分も知らない間に被害にあってしまう」と和さん。

「この森林は足元に草がないでしょ。光が入らないから雑草も育たないんだよね。ここは平地だからまだいいかもしれないけど、これが斜面で、雑草がない場所にゲリラ豪雨が降るとどうなるか。土が流されて、木は密集していて根も張れないから、木も倒れていく。そうして土石流災害が起こる」

「だから、山主の人が『木を切って売ってもお金にならないから、ほっといていい』ということではないんだよ」

「本当は灌木(かんぼく)っていう低い木が育っていると、雨が土に当たるまでの層がいくつもできるからいい。それがないと大量の雨が一気に土に落ちてしまって、土が掘られていってしまう。最近は雨の量がすごく多いから余計に土砂災害の被害も大きくなってるよね。もちろん原因は異常気象にもあるけど、山の問題もあると思う。人工林が多い地域ほど、影響を強く受けているんじゃないかな」

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今山を持っている人が企業などに伐採や間伐を依頼すると多くの費用がかかってしまうが、そこで収穫した木を売っても、売上より経費が多くかかってしまう。また、そもそも誰が所有している山かわからなかったり、山主がわかっていても山から離れた場所に住んでしまっていたりして管理する人がいないから、多くの山が手入れをされない状態になってしまっている。

そうした状況が、森林の生態系を劣化させ、木材の質を悪化し、自然災害の原因になってしまっているのだ。

車を運転しながら、道中に木々を見つけると「自然が豊かでいい景色だな」と、ただなんとなく思っていたけど、単純に木が多いことが「豊か」ではなかったみたい。そう考えると、本当に森は中に入ってみないとわからない。

地面がふかふかで、木漏れ日が入る、気持ちのいい森

「じゃあ今度こっちの森ではどんなことを感じるかな?」と今度は和さんと一緒に杉林の隣の、カラマツが生えている森の中へ。今度は光が指して、気持ちがいい。森もどこか明るい雰囲気を感じる。

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「ここは灌木がたくさんあるよね。それにカラマツは落葉するから、落ちた葉が土になって、地面がふかふかになってる。歩いてても柔らかさがさっきのところとは全然違うでしょ」

土に触ってみると、たしかに柔らかくて、ふわふわしてる。また、枯れ葉をよけるとさっきの杉林にはなかった雑草が出てきた。

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「問題は土にもあるんだよ。この土の中にはいろんな葉っぱを食べる微生物や菌がいて、今度はその微生物を食べる昆虫が住み着く。昆虫がいると鳥や小動物もきて、いろんな生きものが集まってくるから、いい生態系ができてくるんだよ」

「それに雨が降ったときにも、土がスポンジの役割をしてくれて、ちゃんと水を蓄えられる。そうすると自然災害も起きにくい。こうして光が入って、灌木が育って、土をよくするために、定期的に間伐するのが大切なんだよ」

すぐ隣同士にある森林なのに、間伐しているか、していないかで、まったく異なる状況が生まれている。

今自分の住んでいる地域にある山がどうなっているのか。

それは森林に関わる仕事をしている人や山主だけでなく、山や森林のある地域に住む、より多くの人がちゃんと関心を持って、知っている必要があることが、言葉だけでなく、実感としてわかった。

そのために、どんなことができるといいかを和さんと、今募集している地域おこし協力隊になる人と一緒に考えていきたい。

vol.2は一旦ここまで。
この日はこの後、木が生えている斜面の「本当の山」にいって、和さんがこれから間伐や活用に着手する予定の新しい森に行きます。その話はまた次回。ぜひお楽しみに。

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遠野市地域おこし協力隊採用募集
④テーマ型自由提案【テーマ:森林】 募集人数:1名
【パートナー】
NPO法人遠野エコネット代表 千葉和さん
1963年岩手県岩手町(沼宮内)生まれ。大学卒業後、国内外を回り1991年より遠野市へ移住。現在は薬師岳山麓(標高550m)に自力で家を建て暮らす。仲間たちと編集委員会を作り遠野の文化、自然にこだわった情報誌『パハヤチニカ』を1994年から発行。NPO法人遠野エコネットという市民環境団体の代表理事として、子ども達とのエコキャンプや水源の森づくり、また間伐材を活用した薪の駅プロジェクトや高校生との炭焼き伝承活動などにも取り組んでいる。1993年~2009年まで早池峰国定公園保護管理員。

【求める人物】
・森林や林業に興味があること、それに関わることに可能性を感じる方 ※森林や林業等に関する知識・経験の有無は問わない
・物事に課題意識を持ち、それを良くしていこうとする熱意と行動力がある方
・自分自身が取り組むプロジェクトプランを描ける方
・地域の様々なプレーヤーと連携してプロジェクトに取り組める方
・プロジェクトに取り組む先に地域の未来像を思い描ける方

【ミッション/ロードマップ】
1年目 ヒアリングや研修
ー地域の森林を取り巻く全体的な現況を把握するため、森林に関わる様々なプレーヤー(林業会社、森林組合、NPO、製材所、木工団地、工務店、木工作家等)の実態調査を行う。
ー国内外の林業や森林資源の活用等に関する先行事例の調査を行う。
ー地域の森林業界の課題や可能性について検討する。
2年目~ 新たな可能性の発掘と実践
ー様々なプレーヤーやもともとある森林資源と自分自身が持っているスキルや経験、知識とかけ合わせることで、新しい可能性を生み出せるよう、検討と実践を進める。

<仮エントリー申し込みフォーム>
◎仮エントリー専用フォームはこちら(申し込み期間:6月1日〜7月25日)


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