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ビールプロジェクト 近藤 弘和 インタビュー

今回お話を伺ったのは「ビールプロジェクト」のメンバーであるホップファーマーの近藤弘和さん。岡山県岡山市出身で、前職は都内の会員制オーガニック食材販売会社に勤め先の紹介に勤務していました。NextCommonsLab(以下NCL)遠野に加入したのは2017年4月。現在は2ヘクタールもの広い畑でホップの栽培を行っています。
インタビューでは近藤さんのこれまでを振り返りながら、今後の活動に向けた想いをお聞きしました。

------遠野に来ることになったきっかけを教えてください。

遠野に来る前、2016年の3月まで都内で会社員をしていました。その会社には11年間勤めていて。契約農家さんからオーガニックの野菜等を仕入れて、会員の方々に届けるという仕事をしていました。その会社の方針である「一次産業から社会を変える」っていうところにすごい惹かれて、頑張って働いていたんですね。やりがいもあったし、「一生ここに勤めるんだろうな」と思っていたんですが、40歳ぐらいになって、地元の岡山市に帰りたいなという思いが出てきたんです。Uターンじゃなくても、少しでも西に近づける方法はないかなと考えて、山が好きだったので長野県か山梨県に移住したいなと考えていました。
その思いから、一年間で500人くらいの人とFacebookで繋がるくらい、都内で行われていた移住イベントに出まくっていて。その頃に、たまたまNCL遠野の広告をFacebookで見つけました。当時、自分が考えていた「岡山に近づきたい」、「移住したい」、「自分で会社を起こしたい」という3つの重要ポイントのうちの2つをNCLは満たしていたんですね。でも、そもそも遠野って西日本じゃないじゃないですか。岡山からは遠ざかっちゃう。「岡山に近づきたい」という気持ちと真逆の選択になってしまうので、当初は応募するかどうか、すごく悩みました。
一度、「やっぱり遠野へ移住するのはないな」と思って、頭の中から消したこともあったんです。でも、ちょっとどこか引っかかって。応募締め切りの4日くらい前になって、やっぱりエントリーしようと決心しました。

------「移住したい」「自分で会社を起こしたい」という思いがNCL遠野へ行くことに繋がったのですね。そこからホップ農家として遠野に移住をした。

最初は、NCL遠野のいくつかあるプロジェクトの中で、「ビールプロジェクト」、「発酵プロジェクト」、「里山経済プロジェクト」の3つに興味を持っていました。
「ビールプロジェクト」に決めたきっかけは、盛岡の「株式会社ベアレン醸造所(以下ベアレン)」の嶌田洋一さんが出版している「つなぐビール」という本を読んだことです。その本の中の話で、2011年3月にあった東日本大震災の際にベアレンさんが岩手県の沿岸地域にビールを提供しに行ったら、現地の方々から「支援といえば生活物資ばかりで、こうしてビールをもらえるのは嬉しい」と言ってもらえて、すごく喜ばれたと。今でもとても記憶に残っているエピソードなんですが、ビールって人をハッピーにするというか、人と人の交流の道具みたいな感じで役に立つんだなと。やっぱりビールだ!自分もそのビールづくりに関わりたい!と思えたことが決め手でした。
それで、ビールの醸造家にエントリーしたんです。ホップ農家になったのは、面接が終わった後に、事務局の方から「ホップの栽培をやらないか」と声をかけられたことがきっかけで。代々土地があればまだしも、新規で人の土地を借りて農業をするということに難しさを感じていたので、農家になるのはないなと最初は困っていたんですが、「ビールの醸造にも関われるのであれば、ホップの栽培もやります」という話をして、2017年4月に遠野に来ることが決まりました。

------では、今はホップ農家をしながらビールの醸造にも取り組んでいる。

遠野に来たばかりの頃は、醸造とホップ栽培を半々でできればと思っていたのですが、ホップの栽培にあたっていると、忙しくて、醸造に関わる頻度が少しずつ減っていきました。今は醸造とはほとんど関わりがありません。
ホップの栽培は本当に大変で、毎日長い時間農作業に当たっています。畑をたくさん借りてしまったので、面積がとても広いんですよ。畑の面積は2ヘクタール。今は僕ともうひとり、NCLのメンバーではない新規就農してきた若手の人とペアでやっています。ふたりでも広すぎる面積なので、本当に一杯一杯で。面積を少なくすればもっとゆっくりできるんですけどね。ホップの栽培工程自体が大変だということもありますけど、単純に面積が広すぎて手が回りきっていない感じもあります。
ただその分、毎日同じことを繰り返す作業が多いので、とにかく技術を身につけることができています。例えばホップの紐つけ作業は、身体に染み込ませないと上手くこなすことはできません。紐付けを行うホップは全部で3500株。それを2人で割ると1人1750株はやるわけで。1750株に対して、結ぶ紐は一株につき3、4つ。そうすると約5000回〜7000回は紐を結んだり、解いたりしないといけません。そうして作業をこなしていると無意識に身体が動いて、紐が結べる状態になっていくんですね。そういう時に「自分は進歩できているな」と実感できて。栽培技術を学べている、身につけられているのが今は楽しくて、やりがいに感じていますね。
あとはホップの栽培をしていると、地元の人と関わる機会が自然と作れるということも仕事の楽しさに繋がっています。畑で作業をしていると地域の人が色々話しかけてくれるんですね。
中には、畑の肥料になる牛糞をくれると畑の近所に住んでいる牛飼いの人から話をしてくれたり、米の籾殻持ってっていいよっていう人と知り合ったり、地域の人に助けてもらいながらホップ栽培をすることができています。道歩いているおじいちゃん、おばあちゃんが気にかけてくれて話しかけてくれたりとかもありますね。

------今はビールの醸造に関わりたいという思いはありますか?

今もその思いは続いています。ホップの収穫は9月頃には終わって、その後ホップの株をきれいにしたり、畑に肥料をまいたり、その年の片付けと翌年の準備をすると後は雪が積もって、12月から2月までの真冬の時期はやることがほとんどなくなるんですね。
なので、今年の冬はその時期にビールの醸造について学ぶ時間を作ることができました。全国のビール会社を訪ねて回って、醸造所を見学させてもらったり、少し醸造の手伝いをさせてもらいながら、一通りビールづくりについて学ぶことができました。
自分の将来のビジョンとして、もっとビールの醸造に関われる時間が作れるといいなと思っています。ホップ農家としては、農場長みたいな方を雇って、その農場長が新規就農者を指導する形で、私がホップの栽培に当たる時間を週に2,3日ほどに調整して、農場からは離れ、経営側にシフトしていけたらいいなと考えています。

-------その他にもこれからしていきたいことはありますか?

そもそも「人と人をつなぐ仕事をしたい」という動機が今の仕事に繋がっているなと思っていて。ビールをツールとして、人と人とが繋がれるように、ビールに関連するツアーだったり、ビールを楽しめるような企画ができたらいいなと思っています。「自分で会社を起こしたい」という気持ちは変わらずあるので、みんなが楽しみながら働くことができる会社を作りたいなという目標もありますね。普通の株式会社にはしたくないので、出社時間が自由だったり、農業はなかなか休めないけど、休みをちゃんと確保できるようにしたり、農業と福祉の連携を生かしたり。ビールを飲むことだけではなくて、ホップ栽培やビールづくりを通して人と人とが繋がっていくことを実現させていきたいなと思っています。

------最後にNCLに興味がある方へメッセージをお願いします。

NCLは誰からも強制されることはなく、固定されたルーティーン的な活動があるわけではありません。メンバーそれぞれが色々な考え方を持ちながら活動に当たっています。
どんなことも自分次第なので、自分のやりたいことを自由にやることができる場所ですよ。

ビールの原料となるホップ栽培は近藤さんの考える「人と人とを繋げること」の土台となるスタート地点。「自分が楽しいと感じたことは、きっとみんなも楽しいと思ってくれるに違いないと思ってしまうんです。押し付けがましいくらいですよね」とも話していた近藤さんは、ビールをツールに大好きな「人」同士が繋がれるように、自身の感じる楽しさを伝染させていくことを目指して、今日もまたホップの栽培に励みます。


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