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発酵プロジェクト 九鬼なつみ インタビュー

今回お話をお聞きしたのは、2017年4月から発酵プロジェクトのメンバーとして加入した九鬼なつみさん。大学・大学院で有機化学について学んだ後、化学メーカーに勤め、製薬の研究開発に携わっていました。
NCL遠野では発酵食づくりを通して発酵を体験するイベント「発酵DIY」を開催するなど「科学的な視点を交えて発酵のおもしろさを伝えること」を軸に活動しています。
これまで九鬼さんがどんな想いをもってメンバーとして参加し、現在の活動につながってきたのか、お話を伺いました。

------九鬼さんがこれまでどんなことをされていて、今どんなことをしているのかお聞きしたいです。

遠野に来たのは去年の4月です。ちょうど1年経ちましたね。その前は製薬の研究開発の仕事に就いていました。そこからなんで発酵に関わるプロジェクトを始めたかっていうと….っていう話からでいいですか?
それには、本音と建前の部分があります。
建前的な話で言うと、それまでしていた医薬品の研究開発って、研究開始から製品になるまで一般的に10年以上かかるんですね。会社にいる間に1つでも薬が出せたら万々歳というくらい、開発期間が長いのが特徴で。だからこそ、やりがいもあるんですが、一方で自分のやっていることがうまくいったとしても、今まさに薬を必要としている人には届けられないこともあって、実際に薬を必要としている人との距離が遠いように感じていたんです。大きな動きを生み出せないことに対してちょっとフラストレーションを感じるようになっていました。「自分にしかできないことができているのか」って、将来にも不安を感じて。そんな時に、FacebookでNCL遠野の募集を見つけました。すごくテンションが上がって、自分の動きに対してレスポンスが早く返ってきやすいんじゃないかと思ったのと、創薬研究をする中で抱き始めていた「薬に頼らない健康づくりを提案したい」という想いを実現する1つの方法として発酵があるんじゃないかって思って、選びました。これが応募の時に話していたことです。

------それが建前的な部分。実際にはどんな想いがあってNCL遠野に入られたのですか?

当時の自分の環境を変えたかったというのが本音です。私、ずっと首都圏に住んで、中高私立の一貫校に行って、周りがみんな受験するから自分も当たり前のように大学に行って、大学に行ったら大半の人が大学院に行くから、自分も就活せず大学院へ行って…。すごく恵まれた環境だったとは思うんですが、人生がいつの間にかどんどん絞られてきたなってすごい感じていたんです。
他の世界を知らないまま、いつのまにか有機化学の大学院、製薬の研究開発の仕事っていう、すごい狭い範囲に来てしまったなって。1回拡散してから絞られたならいいんですけど、何も知らないまま、ここまできてしまった。そこで、全然違う分野だし、経験もないし、首都圏からも出たことないけど、とりあえず一歩外に出れば、なにか変えられるんじゃないかなって思い切ってNCL遠野に来たっていうのが一番大きな理由です。

------実際にきてみて、今されていることは?

発酵に関してはゼロからのスタートでした。知識もないので何から始めていいのかもわからず、最初は研修として「とおの屋 要」の佐々木要太郎さんのもとで、どぶろくやチーズ、熟成肉などの発酵物づくりを通して、発酵について学びました。その後はもう少し広く、遠野内外の発酵に関わって、活躍してる人を訪ねて、話を聞くインプットの期間を半年間くらい過ごしました。
さまざまな発酵への関わり方を知る中で、私ができる発酵への関わり方は「発酵を科学的な視点で捉えて、そのおもしろさを伝えたい」っていうことなのかな、となんとなく見えてきたんですね。
それからは、甘酒やキムチなど発酵物をつくるイベント「発酵DIY」を開催しました。私ひとりではなくて、ローカルフードプロジェクトの藤田紘子さん、ビールプロジェクトの袴田大輔さんと3人で発酵ユニットを組んで、運営や発酵の仕組みを教えるところは私、調理に関する部分や発酵食を使った食事の提供を藤田さん、イベントの立ち上げや経費関係の事は袴田さん、と分担して動いています。自分ひとりでできないことを藤田さん、袴田さんに助けられていますね。
今は、こうしたイベントを開催したり、発酵について体験しながら学べる場として、「発酵ラボ」を立ち上げる準備をしているところです。ビールプロジェクトのメンバーと、酵母の採取や培養といった部分も協力できたらおもしろそうだなと思っています。


------もっとこうしていきたいというようなこともあるのですか?

「発酵DIY」に来てくれた人が、発酵に興味を持って、家に帰ってからも違う発酵物を仕込んでくれたり、教えたものを作り続けてくれてるみたいなことが実際に起きているんです。私は発酵に関して特別、知識があったり、技術がある専門家ではないですけど、なにか動くことで、実際に誰かの食卓を少しでも変えることができた。その実感を得たことで、些細なことでもそれぞれの食卓をより良くできるかもしれないなっていう可能性を感じています。
これは理想なんですけど、これから立ち上げていく発酵ラボが、ゆくゆくはその場に私がいなくても、自由に発酵を体験できる場として使ってもらえるようなスペースになったらいいなと思っていて。遠野ってすでに家庭レベルで発酵に関わっている人が結構いるんです。発酵に必要な器具や環境を揃えておいて、その人達の力をお借りしながら、場を運営できたらおもしろいなあと想像しています。

当初の医薬研究に比べてレスポンスが早いんじゃないかっていうところはまさに実感しているんです。自分がちょっとでも動けば何かが変わるなっていうのは、すごい感じます。逆に動かない限り何も変わらない。今はまさに、動けば動く分だけ進んでいく段階だと思うので、どんどん動いていかなければいけないです。

------来る前に抱いていたことが、結構叶っているというか。

振り返ればそうですね。でも、ここに辿り着くまでは、本当にいろいろありました。
来たばかりの頃は、自発的に「遠野にきて、これがしたい」みたいなビジョンが全然なかったんです。これまで大きな組織で働いていたこともあって、ある程度目標ややるべきことを与えられてた方がやりやすかった。プロジェクトパートナーやNCL事務局に頼っていた部分がありました。
そんな中、いざ自分で道を決めていかなければいけない状況になると、何をしたらいいのかわからなくなったんです。事務局に相談する度に「やりたいことをやるのがいい」って言われていました。ごもっともなんですけど、そもそもそのやりたいことが見出せなくて。今となっては自分のやりたいことをやりたいようにできる自由な環境でよかったなと思うけど、ここに辿り着くまでは、本当に悶々としてました。
何をしたらいいのかわからないながら、「色々な人に会って色々なものを見て、きっかけを掴みたい」とは思っていたんですね。でも自分がどんなことに興味があって、何を見たいのか、聞きたいのかということがはっきりせず、なかなか踏み切れずにいたんです。
そんな時に、ビールプロジェクトの袴田さんが「発酵のまちと呼ばれている秋田県横手市に知り合いがいて、視察に行くから九鬼さんも一緒にいかないか」と誘ってくれて。連れて行ってもらえるならハードルも低いし、行ってみようと訪れてみたら、発酵に関連した蔵がたくさん残っていたり、麹を使った食について真剣に考えている方がいたり、発酵ゲストハウスがあったり、とても面白いまちだなと感じました。そういうのを実際に見れたところから、少しずつ動き出した感じがします。あとは人に会うということも重要ですね。自分ひとりで考えていても、正直その範囲は超えられないので。
横手での視察中も、今自分がやっていることを横手のみなさんの前で話す時間があったんです。そこで正直に「自分がこれからなにをやっていくのか決まっていない」ということを伝えたら、率直な意見とか、色んなアイデアとかを実際にくれて。こちらが動けば、協力してくれる人もたくさんいるんだなというのを感じました。

------自分をさらけ出すことが、動き出すきっかけになる感じがするんですね。

月一、NCL遠野のメンバーが集ってミーティングをする「オープンラボ」も、初めのうちは体裁を整えたちゃんとした報告をしないといけないと、勝手に思っていたところがありました。すべてをさらけ出せる機会っていうのは自分としては少なくて。最近は、徐々にオープンラボの内容も変わってきて、それまでの進捗報告がメインだった話し合いから、みんなが思っていることを共有できる場になりました。そこで、他のメンバーもみんなそれぞれ悩んでるんだっていうことを知って、メンバーに対する考え方も変わったり、自分も思っていることをとりとめもなく話すことで、悶々とした状況から抜け出すきっかけになったと思っています。NCLがあって、私自身すごい救われているんだと思います。

-----救われている。

これまでの人生で関わったこともないようなメンバーと一緒に活動できていることは、非常に刺激的で自分にとって影響が大きいです。そんなメンバーが揃うオープンラボが1つのきっかけになって自分が変わってきているなと感じていて。なんか、そうだな。「NCLがなければ、今の自分はない」っていうかっこいいことじゃないですけど(笑)
発酵ラボを立ち上げたいって目標ができた段階で、遠野以外の場所で行うという選択肢もあったと思うんです。そんな中、なんで自分が遠野を選んでやっているんだろうと考えると、文化的な豊かさだったり自然が豊かな遠野という地が純粋に好きだということだけじゃなく、NCLが遠野にあるっていうことが、私にとってはここにいるひとつの大きな意味、理由なんだろうなって思います。

------NCLに入ってから九鬼さんにとってよい変化が起こっているんですね。
最後に、これからNCLに応募しようと興味のある方に伝えたい事があればお願いします。

NCLを知らない人に対して、なにやってるの?って聞かれた時に、未だにうまく説明できないんですよね。NCLという枠組みはあるものの、集まっているメンバーは一個人で、考え方も、やってることも違う。でもそれってどんな人でも来れるってことだと思うので、興味があったらぜひ来てみてほしいです。

「ここに辿り着くまでは悶々としていた時期も長かったです」と言いながら、すっきりと、むしろ清々しくお話をしてくれた九鬼さん。
「動けば動く分だけ進んでいく段階」に辿り着いたこと、そうして自分の行動で何かを変えられることを、きっと今はとても楽しんでいるのだろうなという印象を受けました。
九鬼さんがNCL遠野に入って、今月(2018年4月)でちょうど1年。NCL遠野での2年目は九鬼さんにとってどんな年になるのでしょうか。

(文章:宮本拓海)

(撮影:富川岳)

九鬼さんが開催している発酵DIYの詳細はこちらから                                         <発酵DIY vol.3 〜大徳屋さんの麹を使って味噌を作ろう!〜



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2016年、遠野を皮切りに始動した「Next Commons lab」。日本各地の地域資源と起業家を掛け合わせ、新たな事業やコミュニティの創出をめざすプロジェクトです。遠野では、15人のメンバーが遠野に拠点を移し、ビール、発酵、食、テクノロジー、デザインなどに取り組んでいます。
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