見出し画像

「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第107回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子路十三の二十六~二十八
 
子路十三の二十六
 
『子曰、君子泰而不驕。小人驕而不泰』
 
孔子曰く、「君子は堂々としおごり高ぶらない。小人はおごろ高ぶって、堂々としていない。」
 
(現代中国的解釈)
 
IT巨頭の創業者は、強烈なカリスマを放つ。ネット通販2位・京東の劉強東もそうである。プラットフォーマー型のアリババに対し、直営、自社物流のAmazon型ネット通販を構築、家電販売の主導権を、家電量販店から奪いとった。そのカリスマ劉強東が最近、最高幹部たちをウソつきと、強烈に批判した。
 
(サブストーリー)
 
劉強東は2018年9月、米国ミネソタ州で婦女暴行事件を起こし、警察に逮捕された。結局不起訴処分となったが、彼の威信は大きく傷付いた。その後、ビジネスの最前線から、姿を消し始める。露出を控え、舞台裏に回るようになった。そして後継者と定めた、俆雷が2021年9月、グループ総裁に、その半年後には、グループCEOとなった。
 
ところが劉強東は、再び現場に復帰するつもりのようだ。幹部批判はその宣言かも知れない。手を拡げすぎて頓挫した同業の「蘇寧」を引き合いに出し、価格について吟味せず、トラフィック不足の議論ばかりするのは本末転倒だ。初心忘るべからず、創業の精神に戻れ、と発破をかけた。
 
さらに従業員の待遇を向上に触れた。高給幹部の報酬は、10~20%の幅で上下させる。業績と、現金報酬を直結させる。
 
通常のオーナー企業の流れでは、創業者は徐々に退き、資本家になる。劉強東は、その流れに逆行することを決断した。日本の日本電産も、同じケースに見えるが、果たしてこれが凶と出るか吉と出るか。
 
子路十三の二十七
 
『子曰、剛毅朴訥近仁』
 
孔子曰く、剛毅、朴訥は仁に近い。
 
(現代中国的解釈)
 
ファーウェイは、剛毅、朴訥に近い会社だったのかも知れない。創業者、任正非は娘、孟晩舟副会長のカナダ拘束事件以前、表に出てくることはまれだっだ。それにファーウェイは、中国最大の通信機メーカーだが、国策企業ではなかった。国が押していたのはほぼ国有のライバルZTE(中興通訊)だった。それが孟晩舟事件以来、表に出て、発信せざるを得なくなった。ファーウェイには非上場の社員株主制を取り、会長輪番制など、独特な制度がある。それらを、そっとしておいて欲しい、これがマスコミを避ける理由はではなかったか。事件以後、メディアに対し、積極的にアピールするようになった。天才プロジェクトもその1つである。
 
(サブストーリー)
 
天才プロジェクトは2019年に始まり、大卒、大学院卒の英才を高給でスカウトしていった。国籍も問わず、国外のロシア人2人を含め4年間で21人を採用した。昨年末、そのうちの1人が、独立起業を発表し、話題となっている。その人、稚暉氏は、1993年生まれ、2018年、電子科技大学の大学院を卒業、OPPOの研究院に入り、AIのアルゴリズムを研究していた。翌2019年、ファーウェイに天才プロジェクトメンバーに採用される。ここでもチップとAIアルゴリズムの相関関係を研究した。2021年には、自動走行する自転車を開発した。レーザーレーダーを備え、障害物を避け、平衡を保って走行する、この製品には、大ボスの任正非も言及し、有名となった。今回、退社することとなったが、彼はSNS投稿で、この3年間、ファーウェイで出会い、共に成長したパートナーに、感謝を捧げている。さらに稚暉氏は、動画共有サイト「B站」において、トップ100入りの有力KOL「野生鋼鉄侠」でもある。注目を浴びているもう1つの理由である。ファーウェイは気持ちよく送り出し、度量を見せることができるだろうか。
 
子路十三の二十八
 
『子路問曰、何如斯可謂之士矣。子曰、切切偲偲怡怡如也。可謂士矣。朋友切切偲偲、兄弟怡怡。』
 
子路が孔子に問うて曰く、「どのような人物を一人前というのでしょうか。」孔子曰く、「切磋琢磨してて、それを喜べるような人物だな。友人とは切磋琢磨し、兄弟とは穏やかな関係を喜ぶ。」
 
(現代中国的解釈)
 
最近、IT巨頭のニュースでは、リストラ関連のそれが非常に多い。その一方、新しい成果も挙げている。たとえばTikTok運営のバイトダンスには、両方のニュースがある。ライバルと切磋琢磨しつつ、兄弟(従業員)と穏やかな関係を維持していけるのだろうか。
 
(サブストーリー)
 
最大級の成果は、ライブコマース「抖音電商」が、GMV(成約総額)1兆5000億元という目標をほぼ達成したことである。これは国内ネット通販シェアの約10%相当と見られる。商品の閲覧履歴ではなく、ショートビデオにおけるユーザーの興味関心から、商品を推奨する、これまでとは別次元のアルゴリズムを確立しつつある。同業の「快手」を引き離し、こうしたアプローチを取れないアリババや京東、美団など既存のネット通販企業に、大きな脅威を与えている。
 
その一方、レイオフ関連のニュースで揺れている。現在のバイトダンスは、急速に研究開発を進める時期ではなく、その認識で各事業群の最適化を進めると、全体の10%レイオフが必要と見られる。これが実現すれば、昨年のアリババ6.9%、テンセント4..8 %よりはるかに大規模な人員削減だ。そのため注目度が大きく、些細なことまでいちいち報道される。すでに退職勧奨が始まり、割増退職金を得て円満退社した者がいれば、断固拒否した者もいる。会社がボーナスの支給を拒否した、某従業員が人事部のメールを流出させ解雇された、等々である。ネット民は、鵜の目鷹の目で、スキをうかがっている。企業の品格が問われる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?