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#004 炎の音

こんにちは。ノイジークロークの金井です。

最近、僕はGhost of Tsushimaをやり始めました。まだ序盤なのですが、サウンド面でもクオリティが高くて遊んでいてすごい満足度が高いです。日本風の音も、海外の人の視点から捉えて、かっこいいと思う音に仕上げているのがすごく良いですよね。この音の方向性は思いつかなかったけど、これはこれでかっこいい!と頻繁に思いながら遊んでいます。

そんなふうに遊んでいたのですが、ふと炎の音が気になりました。

気になる炎の音

気になったのは、比較的近くにある2種類の炎の音でした。その2つの炎は木が焼べられたものと油を燃料としているものの2つの炎でした。ただ、単にその炎の燃料が木か油かによって音が変わっているというだけで、これはGhost of Tsushimaだからというわけでは有りませんし、特に珍しいことでもありません。

炎の音 パート1
炎の音 パート2

上の動画で確認できるように、木を燃料とした炎では、パチパチという木が爆ぜる音が聞こえてくる一方、もう一つの油が燃料のものに関しては炎のゴォォォという音のみが聞こえてきます。

炎の音は、燃料が何かによって鳴っている音の種類が細かく変わってきますが、この作り方については幾つかアプローチがあるよなぁと思いましたので、今回の記事でそのうちの1つの方法についてまとめてみようと思いました。

さて燃料が変わった時に、音がどう変わってくるのかという点についてですが、実際に炎の音を聞くのが一番かもしれませんが、僕は Andy Farnell による Designing Sound に記載されていた分類をもとに違いを把握し、音を作っていくことが多いので、その方法をまとめていこうと思います。

炎の音の構成

上で触れたDesigning Soundでは、炎の音を以下のモデルに分けて分析しています。

lapping
空気中発生する炎の燃焼面でのガス燃焼音
crackling
燃料への圧力によって発生する小規模の爆発音
hissing
定期的なガス放出や、閉じ込められた水蒸気の放出による音
bubbling
水分の沸騰音
creaking
燃料膨張もしくは近くの構造体の内部圧力によって起きる音
fizzing
空気中での小さな粒子の爆発音
whining
ガス放出中、定期的に緩和する際の音
roaring
炎の乱流周期運動による低音
popping
熱と圧力の増加が同時に発生したときに起きる気相爆発音
clattering
重力による燃料の沈降

このモデルは炎が燃える過程の観察を元に作られています。その炎が燃える過程について簡単にまとめると下のような流れとなります。

炎が燃える過程

1.物が燃える

物が燃える時、その燃えたものは熱によって溶け、沸騰し始めます。

2.ガスの放出

加熱された燃料からはガス(水蒸気や二酸化炭素など)が放出されますが、この時ガスは燃料から外へと逃げ出そうとします。木の場合は、ガスが圧力によって木の表面へと逃れようとし、その結果ガスが放出されるシューというhissing soundが聞こえます。

3.小爆発
ガスが閉じ込められ表面へと逃げ出すことができない場合は、圧力が高まり内部で爆発します。このときにCracklingの音が聞こえます。

4.圧力による軋み

上記の圧力は爆発を起こすだけではなく、燃料自体を軋ませる音(Creaking)も発生させます。

5.燃料の崩壊

そして燃料自体が崩壊するほどまでに圧力が高まると、そこでバキッという大きな音が発生します。

6.炎

燃料から放出されたガスは可燃性のことがあり、その可燃性ガスは炎に引火して炎の外側(燃焼前線)で燃焼します。
炎が燃えている際温かいガスが発生しますが、このガスは周囲の空気よりも密度が低いため上へと昇ります。(これが上昇気流です。)
これによって炎の上が低気圧となるので、炎の自体も上へと引き上げられます。そして、上昇した空気がもともとあった場所に冷たい空気が流れ込むことにより、気流が生まれます。
この気流に関する全ての動きが 3 - 80 Hz の帯域での唸る、もしくははためくような音を発生させます。

7.燻り
炎が消えた後には火が燻りますが、この際にも燃料の表面で炎無しの燃焼が発生し、Hissing と Crackling との中間の繊細かつ小さな音が発生します。

8.放射
炎は直接接触しなくても燃え広がります。また近くにあるものは熱くなったり冷えたりを繰り返すことにより、ストレスが掛かり軋む音や唸るような音が発生します。

このように炎が燃えると一口で言っても、様々な要因で音が発生しており、燃料によって各過程で発生する音は異なっていきます。


モデルのサンプル音

Designing Sound 内では各モデルの音の実装が幾つか紹介されているので参考までにここで紹介します。

Hissing(定期的なガス放出、閉じ込められた水蒸気の放出)
Crackling(燃料への圧力による小規模の爆発)
Lapping(炎の燃焼面でのガス燃焼)
上記の3つを全て再生したもの

たった3つの組み合わせでも炎の表情はかなり変わるということがわかるのではないでしょうか。ちなみにこのようにモデリングして音をシンセサイズする商品は幾つか有り、例えば Le Sound の AutoFire では上のサンプルよりも遥かに手の込んだ作りになっています。
興味があればそちらも触ってみるといいかもしれません。

Le Sound - AudioFire
https://pro.miroc.co.jp/brand/lesound-audiofire/


このアプローチのメリット・デメリット

以上で炎の音の分類の仕方について話しましたが、この方法で音を作ると、非現実的な炎の音を作るときにも応用することができます。

ゲームサウンドを制作していると、現実に存在する炎の音はもちろんですが、それ以外に地獄の炎であったり、聖なる炎、炎の魔法音であったりと現実には存在しない音が求められることがしばしばあります。

そのようなときに分類をしながら音を作っていると、炎の音として欠かせない音であったり現実の素材のマテリアル感を強く感じさせてしまう音などを、なんとなく判断することが出来るようになってきます。そのように作っていくとLapping音はベースとしつつ、Crackling音をモジュレーションさせて異質感を出そうというような試みが可能になり、非現実感を演出するための方法を考えやすくなっていきます。

ただこの方法はあくまで現実の音をリファレンスとして作られたものなので、現実の音に忠実に作っていくことが正解の音に近づくことではないということは、常に頭の片隅においておく必要があります。特に演出としての炎の音は、リアルな音以外にも迫力や非現実感を感じさせる音がないと成立しない音であることが多いです。

おわりに

以上で炎の音を作る際の方法についての説明は終わりです。炎の音と言っても、非常に様々なキャラクターが存在するんだということが伝わればよいなと思います。またゲームを遊んでいるときにも、聞こえる炎の音の燃料は何かだったり、デフォルメされている音の要素はなにか、などを気にしながら遊ぶと、サウンドデザイナーの隠れたこだわりに気付くことができ、非常に面白い体験をすることが出来るのではないかなと思います。

というところで今回は終わりとなります。それでは。

参考文献
Andy Farnell, Designing Sound, The MIT Press, 2010

#ノイズなアカデミー #ゲーム #ゲーム業界   #効果音 #サウンドデザイン #Max8

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