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スタックの誤謬ってなんだ

この題名を見て意味を知っている人はどれくらいいるのだろう。僕個人はこの言葉の意味を知らなかったが、現在読み進めている「ジョブ理論」の中で一瞬だけ出てきたので、そこで意味を知った。本書ではそれほど詳しく長くこのことについて触れられていないが、個人的に刺さる部分があったので記事を書こうと思う。

まずこの「スタックの誤謬」という言葉の意味について。これは”技術者が自分たちのテクノロジーの価値を高く評価しすぎ、顧客の問題を解決するための、下流のアプリケーションを低く評価しすぎる傾向”(P261, 3行目)の事らしい。
分かりにくいだろうか。例を挙げると、自分が何かいいアイデアを思いついたときにこれは革新的だ!今あるものなんてくだらない!と思うようなことではないだろうか。エンジニアでいえば、これほど美しいコードはない!ほかのエンジニアのコードはぐちゃぐちゃしてる上に古くさい!といったようなことだろうか。実際に顧客が目にするのはコードではないし、そのシステムが問題なく稼働すればそれを裏で支えるコードの美しさなどどうだっていい。
これは耳が痛い。やってしまいがちな事だ。

これは技術者やプログラマーに限ったことではないはずだ。
現在新規事業を担当していて、この「スタックの誤謬」を自然と認識した。自分主体の考えで事業の内容や概要を決めようとしていた。簡単にいうと、デジタル化の遅れが目立つ運送業界において、デジタル化を含めた効率化について考えていた。そこでFAXや電話でのやり取りの非効率さやアナログさを過度に嫌っていた。

「デジタル化して効率化、システム化出来たらどれだけ楽だろう?絶対にその方がミスも減って使いやすいに決まっている。」

これが正直な僕の感覚だった。しかし、本書中の顧客の片づけたいジョブにフォーカスするとどうだろう。実際は面倒な方法でも「その場で即座に確実にスケジュールを組んだり、予定を確認できる事」”顧客の大切な荷物を定刻に運び荷主の信頼をキープしつつ、ひしめき合う物流業界で仕事を捌く”のには何より重要だった。その点では積み地、降し地で手伝いがあるか、道路幅に問題はないか、急な荷物の追加への対応といったイレギュラーで複雑な情報の処理にチャットボットは対応できない。メールでのやり取りは余計に書くのが煩雑な上、回答が遅い。結局、顧客は現状で自分のジョブをうまく片付けるのはアナログ方法だという至って当たり前でかつ賢明な判断をして現在も電話やFAXを雇用していた。

これは顧客のジョブにフォーカスする前には分からなかったはずだ。安直にすべてを効率化すれば、工数が減り、残業が減り、負担が減り、いいこと尽くめだなどというのは本当に愚かな考えだったと思う。
考えが極端すぎたとも思う。理想のカタチは全てをデジタル化することではない。デジタルとアナログを融合し、顧客の片づけたいジョブをできるだけうまく片付けることだ。それには機能が多すぎても少なすぎてもいけない。

デジタル化に関わらず、見える化やデータの活用など「やった方がいいよね」と思えるものには注意が必要だと感じた。それを達成することが正義になっていないか。重要なのは、”それが従来よりも顧客の片づけたいジョブを片付けるのに必要十分かどうか”であって、新しい物、最先端のものを導入することではない。

後は顧客やターゲットの判断をなめてかからない事だ。彼らはとても賢く、理にかなった行動をしている。しかし、それを彼ら自身が説明できるとは限らない。彼らが発するシグナルに耳を傾け、彼らになったつもりで一連の流れを忠実にイメージすること。そうすれば、なぜ彼らがそんな行動をとるのか。なぜ自分の革新的なアイデアを採用せず、古臭いやり方にこだわっているのかの謎が解けるかもしれない。
それを正しく認識し、その上でそれをよりうまく片付ける方法を思いついたときがイノベーションのスタートなんだろう。

言うは易く行うは難し(笑)






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