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【オススメ小説5】『タイタン』奇才、野﨑まどが描く未来とAI。仕事とは何か?

 仕事とは何でしょうか?

 どうして私達は働くのでしょう?

 もし、世界から仕事がなくなったら?

 こんにちは、名雪七湯です。早々に哲学的問いから始まった記事ですが、本紹介の5回目となる今回は野﨑まどの『タイタン』を取り挙げてゆきたいと思います。そして、今作最大のテーマこそ「仕事」なのです。

1、本情報、あらすじ

 『タイタン』野﨑まど著 2020 講談社

 野﨑まど。2009年にミステリーでもありサスペンスでもありコメディでもあり恋愛ものでもある変態的著作『「映」アムリタ』初のメディアワークス文庫賞を受賞後、圧倒的な仏教と生理学と神話の知識が盛り込まれた変態的著作『know』第34回日本SF大賞を受賞し、アニメ『正解するカド』では脚本を担当、著作『バビロン』シリーズがアニメ化、主人公がデータの住人である変態的アニメーション映画『HELLOWORLD』の脚本を担当する、名作しか生み出すことのできない変態的作家である。

 という訳で、打てば響く野﨑まどさんの変態さがよく伝わったところで、以下、『タイタン』のあらすじです。

 タイタンAIが生活の全てを司るようになった、未来の世界。そこでは『仕事』というものが全て機械に取って代わり、一部を除いて人はただ暮らしを送るだけだった。心理学を趣味にする内匠成果もまた、趣味に没頭するだけの生活を送っていた。しかし、ある日彼女の元に≪就労者≫ナイレンが『仕事』の依頼に来る。それは、タイタンAIのカウンセリングだった。

2、内容について

 「仕事がなくなった世界」 なんと羨ましい、という話はさておき。

 AIが全てを管理するようになり、人間のすることがなくなった世の中。

 誰しもが一度は想像したことがあるのではないでしょうか? 本作はそんな世界が舞台となっており、設定の一つ一つに意匠が凝らされています。

 そして、ある日、機能不全に陥ったタイタンAI

 正確に言えば、『タイタン』の世界は12機のAIで統制されており、その内の一機、いえ一人”コイオス”が機能を停止させます。コイオスという名は神話より名付けられており、「知恵の神」を意味します。

 「知恵の神」でも理解できない「仕事」の意味

 コイオスは内匠とのカウンセリングを続けてゆく内に、「仕事ってなんですか?」という疑念を彼女に打ち明けます。

 「仕事」の正体が分からないまま心が追い詰められるコイオス。AIのカウンセリングという途方もない仕事を熟してゆく内に”彼”に心を揺さぶられる内匠。そして、彼女は”自由”という言葉を口にし……。

 野﨑作品はツイストに次ぐツイストにより、読誰も予想だにしない世界に読者を引きずり込みます。その感動はぜひ、作品で感じてみてください。

 内容についてはこの辺りで終わりにし(興奮のあまりネタバレしそうなので)、「仕事」というテーマに目を向けましょう。

 作品の終わりにはその「答え」が出ます。

 「人生とは何か?」みたいな作品だと「人生ってやっぱり不思議だね」という終わり方が多いですが、この作品ではきちんとテーマに対しての答えが出ます。今の世でも「OK、G〇〇gle」と携帯に呟けばあらゆる知識をAIから得ることができ、『タイタン』の世界ではその何百倍も精巧な仕組みが出来上がっています。そのAIが「分からない」と答える「仕事」の意味。

 自分なりの「仕事」への答えを用意していると、コイオスの辿り着いた答えと比べることができ興味深いと思います。

3、形式について

 野﨑作品は形式というか構成がはちゃめちゃ過ぎて考察が困難なので、今回は装丁に着目して形式について語ろうと思います。

「今日も働く、人類へ」

 帯に書かれた一文。仕事帰りに本屋に立ち寄ろうものなら、「あ、私のことだ」と本が通行人に話し掛けてくる、非常に上手いキャッチコピー。

 そして、二人称が「人類」という、壮大な問い掛け。

 この本の問題は全人類にとって重要なものであると思い知らされます。

 次に、表紙です。表紙の絵は恐らく、タイタンAIであり、ぱっと見では分かりにくいですが青色の文字で書かれている部分は綺麗な青に反射します。分厚さも相まって、なにか荘厳な学術書のような装丁が人の目を惹きます。

4、最後に

 労働が人を支える「今」読むことに意味がある、鮮烈なSF作品であると私は考えます。私自身好きだとういうこともあり、長い記事になってしまいましたが、最後までお付き合いいただき有り難うございます。
 またお会いできれば光栄です。


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