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あなたは軽すぎるのよ

まぼろし(2001/フランス)
監督:フランソワ・オゾン 
出演:シャーロット・ランンリング ブリュノ・クレメール

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シャーロット・ランプリングの唇が、気になって気になってしょうがない。

最初はわざと下唇を半分かんでいるのかと思った。でも、どうやらそうではないらしい。シャーロット・ランプリングの出演作は今までも見たことがあったけど、全然気づかなかったなあ。こういう独特な形をした唇をしていたなんて。

しかしどんな唇をしていようと、彼女が魅力的な女優であることには変わりはない。ちょっと画面に登場しただけで、そこはかとなく不吉な予感を漂わせる存在感。

そういうところも私は大好きだ。

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この映画の最初の方で、別荘に着いた夫が、何を思ったのか庭先で大きな石を持ち上げるシーンがある。するとそこには黒いアリが無数にいて、ウジャウジャとうごめくアリたちが、スクリーンいっぱいに映し出される。

うーん。意味深なシーンだ。これは、それから起こる出来事の象徴なのだろうか。それとも夫の心象風景?

そうして夫は妻と一緒に海に出かけ、突然姿を消してしまう。

生きているのか死んでいるのかわからない。水難に遭ったとしても、それが事故なのか自殺なのかもはっきりしない。妻は一人で取り残され、不安な日々を送る。

よく「生きていると思っている限り、その人は生きている」と言うが、夫の死を受け入れられない妻にとって、夫は今でも部屋の中にいるし会話もする。愛撫もしてもらう。ごく自然に、妻は夫の存在を感じている。

急にいなくなってしまった配偶者を泣いて求めるのではなく、夫の不在を笑顔で埋め、一見何事もなかったように暮らしている妻。鎧を着ることで、彼女は何とか立っているのだろう。

忘れられないのは、彼女が夜遅く一人でマクドナルドに行き、若者でにぎわう空虚な店内で、所在なくフライドポテトをつまんでいるシーンだ。場所がマクドナルドっていうのがうまい。彼女の孤独や疎外感がよく表されている。

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夫がいなくなった後、彼女は一度だけ、他の男と関係を持とうとする。でも結局できない。その時彼女はこう言った。

「あなたは、軽すぎるのよ」

そう。夫は太っていたんです。だから、自分の上にいる体の重みが夫と違うことを、妻は口にするのである。

実はこのセリフ、脚本を読んで、ある女性が付け加えたのだそうだ。さすが女ならではのセンス!でもこういうしゃれたセリフって、大人の女性にしか似合わないよね。

彼女は、どこへ向かって走っていったんだろう。駆け寄っていったと思われた人影から、どんどんはずれていくように私には見えたけど。

フランスを代表する女優シャーロット・ランプリングが久々に映画に主演したことで話題を呼び、またこれがヒットしたので、監督の出世作にもなった作品だが、これ以前の作品は、とてもじゃないけど一般ウケするようなタイプのものではなかった。

この作品からこの監督はガラリと変わったのは、シャーロット・ランプリングのお陰なのかな。そして、その後の『スイミング・プール』では彼女を脱がせて、なんとヘアまでスクリーンに映してしまいました。なかなかやるじゃないか。

またいつかタッグを組んでほしい。大人の女が出てくる映画って、今やフランス映画くらいしか期待できないのだから。

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