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社会主義国で1番の幸せ者だ

プラハ!(2001/チェコ)
監督:フィリプ・レンチ
出演:ズザナ・ノリソヴァー ヤン・レーヴァイ

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ポップで斬新なデザイン。レトロなのに近未来的な雰囲気。

1960年代の旧チェコスロヴァキアを舞台に、卒業を控えた高校生たちの無邪気な恋の駆け引きが、浮かれた歌と踊りで繰り広げられるミュージカル…と思いきや、時代の暗い影がじわじわと迫りくる展開に。

ああ、どうやらこれは、よくある呑気な青春ミュージカルではなさそうだ。

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“プラハの春”を謳歌している若者たちが、パーティで騒いでは恋の予感にときめく。季節は美しい夏。

ダンスシーンでは、ペトゥラ・クラーク「恋のダウンタウン」やナンシー・シナトラ「シュガー・タウンは恋の町」などスタンダードナンバーのチェコ語版が流れ、そういったところにも国産ミュージカルとしてのこだわりが見て取れる。そうでなくっちゃ。

彼らの目の前には美味しいビールとステキな異性がいて、未来はキラキラ輝き、どこまでも続く牧歌的な風景はのどかで平和だが、彼らはまだ知らない。

それが束の間の自由であることを。

自分たちは今、最後の良き時代を過ごしているということを。

「反逆者たち」という原題は、この邦題とオシャレなポスターからは想像もできないだろう。

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若者たちの姿がまぶしければまぶしいほど、その後押し寄せてくる歴史の波を知っているだけに身につまされてしまうが、行く末を多く語らないサジ加減がまたよし。

ふっつりと切れてしまう幸せ。もやっとした不安。あまりにも若すぎるから、沸き起こる怒りと悲しみを持てあます。

シネコン全盛期の今、チェコにはミニシアターがまだ残っているという。余白を残し、余韻を大切にしているのは、観客を信頼している証拠だ。

ミュージカルの楽しさだけでなく、「過去の傷を忘れない」という毅然とした姿勢も伝わってくる作品。

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