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SDGs達成状況、日本は17位にダウン 『Sustainable Development Report 2020』公表

 持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN:Sustainable Development Solutions Network)とベルステルマン財団(Bertelsmann Stiftung, ドイツ)は6月30日、世界166か国における持続可能な開発目標(SDGs)達成の進捗状況を分析した「持続可能な開発レポート2020(The Sustainable Development Report 2020)」を公表しました。日本は、2019年の15位からランクを2つ落とした17位という結果となりました。
 レポートの内容について若干触れてみたいと思います。

政策立案の中心にSDGsを据え、コロナ後の社会を

 今年のレポートの特徴は、SDGsの達成に関わるCOVID-19の影響を分析している点です。COVID-19によるSDGs達成への影響や、経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)に加盟する33か国を対象としたCOVID-19への対応に関するランキングも掲載されています。ちなみに日本は、韓国、ラトビア、オーストラリア、リトアニア、エストニアに次ぐ6位となっています。

 報告書では、COVID-19をこの百年で最悪の公衆衛生と経済に関わる危機であると指摘。世界中で約463,000人が死亡(2020年6月20日現在)、経済活動の停止による世界的な経済危機、大規模な失業、特に社会的な立場が脆弱な人々に多大なる影響を及ぼしていると説明しています。この状況が、特に経済的に貧しい国やグループにとって、SDGs達成への意気込みを後退させるとの懸念を示しています。

 パンデミックを封じ込めるため、SDGs3【すべての人に健康と福祉を】にすべての国が沿い、「早期の警告、リスク削減、国内および世界の健康リスクの管理のための能力を強化する必要がある」と強調し、国際社会、地域組織、各国が「アフターコロナ」の社会を計画していくにあたり、SDGsを政策立案の中心に置くことが重要であると提言しています。

公平で持続可能なグローバリゼーションの実現

 グローバリゼーションと野生生物の生息地の破壊によって、世界中にウイルスが急速に蔓延しやすくなっていると指摘し、健康、経済、人道上の危機に取り組み、それを防いでいくための連帯とパートナーシップの重要性を強調しています。
 一方で、グローバリゼーションは貧困削減、技術の進歩、互いの文化を享受できることなどのメリットもあります。グローバリゼーションを一切否定するのではなく、それ自体を公平で持続可能なものにし、何らかの衝撃に対してもレジリエント(困難な状況にも柔軟に適応する力)のある社会を実現することが求められているのです。

 レジリエントな社会を実現し、持続可能な発展を進めていくためには、政策立案者、ビジネスセクター、市民社会、科学コミュニティによる国際的な協調行動が欠かせません。それは、多様な組織や人々によるパートナーシップや協働は、課題解決のための方策を特定するスピードを速めるなどの効果があると考えられているためです。

世界の重心、アジア太平洋地域へ移行

 また、報告書ではアジア諸国、特に東アジアと南アジアにおけるSDGs達成への取り組みが進んでいると評価しています。
 COVID-19についても、他の地域に比べて効果的に感染の発生を管理していると説明。状況は変化しているとしながら、地政学的、経済的な世界の重心が北大西洋地域からアジア太平洋地域へ移行する速度が、今回の危機によって加速される可能性にも言及しています。

日本におけるSDGs達成状況

 今回、日本のSDGs達成状況は世界17位という結果となりました。2018年、2019年と2年連続で15位でしたが、ランクを2位下げたことになります。このレポートの公表が始まった2016年および2017年は11位であったことを考えると、下降の一途を辿っています。
 以下に、2020年の日本の分析結果を示します。

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(引用:The Sustainable Development Report 2020, p270 )

 取組に対する評価が低かったのは、ロゴが赤くなっている以下の5つ。
ゴール5:ジェンダー平等
「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」
ゴール13:気候変動
「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」
ゴール14:海の生物多様性
「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」
ゴール15:陸の生物多様性
「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」
ゴール17:パートナーシップ
「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」

 また、取り組み具合が後退している目標として、ゴール10「不平等をなくそう:各国内及び各国間の不平等を是正する」が赤信号でした。これは、「パルマ比率:上位10%の所得層が得ている所得と下位40%の所得の比率」と「高齢者の貧困率」の改善が見られないためです。

世界のSDGs達成度トップ30

SDG Index 2020 Rankings カッコ内はスコア
1   Sweden (84.72)
2   Denmark (84.56)
3   Finland (83.77)
4   France (81.13)
5   Germany (80.77)
6   Norway (80.76)
7   Austria (80.70)
8   Czech Republic (80.58)
9   Netherlands (80.37)
10  Estonia (80.06)
11  Belgium (79.96)
12  Slovenia (79.80)
13  United Kingdom (79.79)
14  Ireland (79.38)
15  Switzerland (79.35)
16  New Zealand (79.20)
17  Japan (79.17)
18  Belarus (78.76)
19  Croatia (78.40)
20  Korea, Rep. (78.34)
21  Canada (78.19)
22  Spain (78.11)
23  Poland (78.10)
24  Latvia (77.73)
25  Portugal (77.65)
26  Iceland (77.52)
27  Slovak Republic (77.51)
28  Chile (77.42)
29  Hungary (77.34)
30  Italy (77.01)

SDGsを環境破壊の煙幕にしないために

 SDGsは「誰一人取り残されない:No one will be left behind」を理念としています。SDGsが掲げられている「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の副題は、「我々の世界を変革する」です。
 日本は先進国の1つであり、多くの国々に比べれば持続性は高いと言えるでしょう。スコアが高いのは当然です。しかし、そのランクは下がり続けています。それはなぜでしょうか?進捗状況にレッドカードが出された目標について、その背景を観察すると、日本が抱える問題の根本を示してくれているように思います。

 一方で、こんなタイトルの論文が発表されました。「Environmental destruction not avoided with the Sustainable Development Goals」。SDGsでは環境破壊が避けられないというものです。その内容は想定内ではあったものの、やはり衝撃でした。SDGs、「経済」「社会」「環境」に関わる課題を同時に解決していこうと設計されています。Yiwen Zengら(2020)は、多くの国々が環境に関わるSDGsの目標達成に向けて進んでいるものの、実際の生物多様性保全とはほとんど関係がなく、その代わりとして社会経済開発をより表しているとし、この状況が続くと、SDGsは今後10年間でさらなる環境破壊の煙幕として機能すると指摘しているのです。

 ただでさえ日本は環境分野のゴール達成に向けた取り組みが遅れていると指摘されていて、しかもSDGs自体が環境破壊に対する「煙幕」として機能しているとしたら。
 「SDGsウォッシュ」とも言えるとは思いますが、いずれにしても特定の目標だけを取り上げて「やっている」ということ自体の問題を顧みる必要があるでしょう。そして実は、地球上に生きるすべてのものの『HOME:家』である「地球環境」への取り組みがもっとも遅れているという意識が必要なのだと思われます。
 COVID-19がなぜ発生し、なぜここまで広がっているのか。特に都市部の脆弱性が明らかになった点などを重ねて考えると、「変革」すべき事柄がさらにクリアになります。人類存続の光は失われてはいません。課題の根本に向き合う限りにおいては。

<引用>
・The Sustainable Development Solutions Network (SDSN) and the Bertelsmann Stiftung, 2020, 「Sustainable Development Report 2020
・Yiwen Zeng et al., 2020, 「Environmental destruction not avoided with the Sustainable Development Goals」, Nature Sustainability 

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