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大学に行こう!(その2)

ビジネスホテルで迎えた朝は、喉がカピカピに乾燥していた。

やはり安い宿に泊まった宿命なのか…と考えつつ、早めに身支度を整え、朝食をとるため外へ出た。

歩いて2~3分ほどの川べりの喫茶店に入った。この喫茶店は観光ブックにも載る有名店なのだが、一度も足を踏み入れたことがなかった。

もうこの機会を逃したら、二度と来るチャンスはないだろうと思い、今日の朝食はここでとろうと、昨日の夜から決めていた。

開店と同時に店に入ると、私が一番乗りだったようで、まだ店内にはだれもいなかった。ネットでは、朝も込み合うらしいのでラッキーなことこの上ない。

眺めの良い席で、朝食を食べることに成功した。

注文したのは、おしゃれなイングリッシュマフィンのセット。

喫茶店で優雅に朝食を食べるにはこの上ない舞台装置だ。

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(まだきれいだったころのイングリッシュマフィン。数分後、凄惨な姿で皿の上から姿を消す)

と、おもったが、実際セットが来てみたら、食べにくいことこの上なかった。口に運ぶも食べきれず、ボトボトと具材を落としてしまう。

優雅な朝食のはずが、非常に間抜けな感じになってしまい、私はまだまだこの手のものを食べるスキルが身についていないと実感した。しかし、安易に簡単なトーストセットを頼んでも、自分にスキルが付くはずがないのでやはり経験値ということにしておく。

無事になんとか食べ終わり(皿の上やお手拭きは悲惨なことになったが)、ホテルに戻ると、もう私の部屋以外はチェックアウトが住んでいるのが、掃除が始まっていた。大変申し訳なく思い、急いで荷物をまとめて、大学へ向かう。

日曜日の大学は、ほとんど学生の姿がなく、曇りの天気も相まって、廃墟のようだった。

先生の部屋に向かうが、まだ来られていないようだったので、しばし誰もいない踊り場で時間をつぶしていた。

数分後、エレベーターが動き出し、この階に到着した音がなった。

中から先生が現れた。本当に数年ぶりに対面だった。

先生は笑いながら挨拶をして私を迎えてくれた。そして早々に「荷物が残ってるよ」といって私の荷物を研究室から取り出してくれた。

段ボール2箱の中に、私の荷物が入っていた。この数年間ずっと置きっぱなしだった(私自身置きっぱなしだったことすら忘れていた)荷物をキチンとまとめて下さっていて本当にありがたかった。

逃げるように中退して、そのまま就職をした私は本当に失礼な奴だった。しかも荷物もそのままで、とことん後を濁しまくってこの大学を去っていたことに本当に今までずっと後ろめたい気持ちがあった。

その気持ちを向き合いたくなくて、ずっとずっと大学に来ることを避けていたのだけども、こんな私を温かく迎えてくれて本当にありがたかった。(正直怒られると思っていたので)

その後、研究室でしばらく話し込んでいた。先生はどんな話でも興味深く聞き、持論や自分の感想を交えて、話を返してくれる。話がやむことはなく、あっという間に時間が経ってしまった。

私がこの大学に居たのもついこの間のような気がする、と先生が言ってくださったのは本当にありがたかった。私は逃げてから、ずっと避けてきた大学だったけどそんな風に言ってくれる人は中々いないよなぁとしみじみと先生の面倒見の良さと懐の深さにジーンときた。

話の中で、今されている研究のこととかも話を聞いた。私の今の仕事は、この研究とは全く関係ないが、先生の話の内容は、私が大学で研究していた頃よりも、自分の中で理解ができた気がした。

それだけ、研究をしていた頃は視野も狭かった。そして圧倒的に経験が足りていなかった。経験値がないも同然だった。

(今もそんなにわかっているわけではないけど)社会の“しくみ”とか“制度”とかという言ったものに関わっていなかったので、本当に何にもわかってなかったんだ、と改めて当時の自分の色んなものに対する理解が、いかにレベルの低いものだったかを痛感した。

それがわかっただけでもよかった。あのまま研究を無理やり続けていても、良いことにはなっていなかったと思う。やはり圧倒的に経験が足りていなかった。経験がない人間の研究は、社会にとって何の役にも立たない。

それがわかったし、わかった上でもう一度学びたいと思ったら、その時にもう一度自分と向き合って、学ぶ機会を見つけてみたいと思った。

先生と話しをしていたら、あっという間に約束の時間から3時間も経ってしまっていた。日曜日にわざわざ大学まで出てきてくださり、しかも3時間もお付き合い頂いて本当にありがたかった。

荷物を引き取り、お礼を行って建物を出た。

先生に私の研究発表のポスターを貼ってあるは恥ずかしいと申し出たが、それは力作だからと言ってくださり、最後まで本当にありがたかった。(私のポスターはたまたま出てきたらしいので、貼ってくれていたとのこと。)

今までずっと逃げていた大学ともようやく向き合え、やっと大学を卒業(中退)できたような気がした。

今回、もう一人お世話になった先生とは会えず終いだったので、もう一度お邪魔したいと思う。先生は、優しく「またおいで」と言ってくれたから、次はちゃんと正々堂々と訪れたいと思いった。

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帰り際に、よく通っていた天下一品でラーメンを啜った。どんぶりに「明日もお待ちしてます」と書いてあったのでまた来よう。

ようやく、ずっとずっと心残りだったことが出来た。

少しだけ、前向きになった気がする。



~蛇足~

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       (業を背負った鳥たち)

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      (ついにデジタルな音も聞くようになったのね)

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