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さよならしたら少し死ぬ


2年前の夏、新宿のある飲み屋で運命的な出会いをした。

私は酔っ払うと開放的な気分になって誰彼構わず声をかけに行ってしまう悪い癖がある。その日の夜も悪酔いをしていて、お手洗いから出て少し目が覚めたときにふと目があった男性に声をかけてしまった。
彼はカピバラのようなふっくらとした穏やかな見た目で、銀色の細い縁のメガネをしていた。そのメガネの耳にかける部分が複雑に入り組んだ形になっていてるのが目につき、それがどうしても気になってしまい、酔った勢いで「お兄さんいいメガネしてますね!」と怪しい逆ナンパをした。

はじめは鬱陶しそうな顔をしていたけれど、お互いのことを話していくうちにどうやら自分と同い年で好きな音楽の系統まで似ていることがわかってきた。
彼は音楽活動をしながら京都でアルバイトをしていると話してくれた。しかし音楽の嗜好が似ているとはいえ流石にわたしの友人のインディーズバンドの名前までは通じないかなと思っていたところ、なんとそのバンドのライブにも行ったことがあると言うので徐々にかなり近しいコミュニティに属している人だと判明してきた。

そして高校時代に聴いていた音楽の話で盛り上がっていたとき、私が「〇〇さんのデモテープ買ってサインしてもらったやつ、ずっと机に飾ってたよ〜」と懐かしんでいると、彼は「俺もそのCDにサイン書いてあるやつ持ってるわ。なっちゃん受験がんば!って書いてある」と言った。

心臓が一瞬止まった。

それは間違いなく私が立川のディスクユニオンで売ったものだった。(サイン入りのCDを売却するなんて心ないことをしてしまいごめんなさい)
彼にどこで買ったのか尋ねると、覚えていないけれどどこかの中古CD屋だったと言う。
ちなみに何故サインの内容まで覚えていたのかと聞くと、なっちゃんという女の子は受験に受かったのだろうかとずっと気になっていのだそう。

酔っ払って心拍数が上がっていたせいかもしれないけれど、そのエピソードだけで心臓がドキドキした。

その後もお互いのことを色々話しているうちにあっという間に明け方になり、お店を出て人通りのない新宿の街を二人で歩いた。なんだか別れが惜しくてそのまま朝マックに行き、眠い目をこすりながら学生時代のことや仕事のこと、家族のことなんかもホットカフェオレを飲みがら話した。
この時間がすごく心地よかった。

明日には京都に戻るという彼に「また遊ぼうね」と告げて、平日の朝8時ごろ、通勤するサラリーマンの波に飲まれながら新宿の新南口で別れた。


その数ヶ月後、ちょうど大阪に行く用事があったので彼と一晩だけ会った。

夜の鴨川沿いを散歩し、彼の家へ向かった。築数十年の趣のあるアパート。和室に渦巻き型の蚊取り線香が置かれていて、トイレはポットン便所だった。
マルボロの匂いが立ち込める中、アコースティックギターをポロポロと弾く彼にわたしは少しだけ惚れていた。

その日以来、彼とは一度も会っていない。

今日の蒸し暑い気候でなんだかその日のことを思い出してしまい、彼の名前を検索してみるとまだ音楽活動を続けていることがわかった。さらにブログのURLを見つけたので、遡って見ているとこんな記事を見つけた。

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猫と銭湯が好きな25歳。

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コメント (5)
ドラマチック
めちゃめちゃ好きです…こんなことあるんですね
なにかつながりを感じるのに付き合わずに終わってしまうってありますよね。
それにしてもいろんな偶然が重なっていて好きな内容でした。
おもしろい!って軽くすませてはいけないのかもしれないけど、おもしろい!
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