ノストラダムスの大予言

「ノストラダムスの大予言が実現しなかったらさせればよかっただけだ。現に僕は彼の予言通りに世界を破壊してしまったよ。今から20年ほど前にね」
 と友人Xが言った。私は皆の言う通り彼がおかしくなってしまったのかと思ったが、このまま彼を無視するのも気の毒に思ったので彼の相手をすることにした。それで私は彼に聞いてみた。
「だけど世の中は20年前と全く変わっていないし、僕らもこうして今も存在している。現に君は20年前と変わらずこうして存在しているじゃないか。それで世界が変わったと言えるのかね」
 すると友人Xは強い調子で私にこう言った。
「いや、世界はたしかに滅亡し紙屑同然になっているのだ。君がそれに気づかないのは君が世界滅亡はしていないという認識に囚われているせいなのだ。君、自覚せよ!君は現在まで20年間世界滅亡前の記憶の幻影に囚われているのだ!君は今私が屁をこいたのがわかるか?わからないだろ?そして君が今食べているのは他ならぬ私の排泄物だということもわからないだろ?君が今飲んでいるワインも私のゴールデンシャワーだ。君いい加減目覚めたまえ!もう世界は終わり我々には食べるものなどありはしないのだ!」
 私はハッとして自分が今飲んだり食べたりしていたものの形状を確認して思わず口を押さえた。彼の言う通りであった。そしてまわりを見ると破壊された建物が立ち並びその前をボロボロの服を着た人達が彷徨っていた。彼はボロボロの服を見せ合いながら「これ十万で買ったんだよね」と自慢し合っている。まさか彼らも!友人Xは私を哀れみの目で見ながら言った。
「正直言って世界滅亡なんかやらなきゃよかったと思う。非モテでたまたまノストラダムスの大予言読んで世界滅亡させりゃ残った女は俺様のものと思ってたのに。やってみたらブスしか生き残らなかったんだ。おまけにみんな頭がおかしくなったのか、俺の排泄物狙って俺の尻を攻撃したりするんだ。切ないよ。世界滅亡したらハッピーになれると思っていたのに、こんなことになるなんて!やっぱり世界滅亡なんてやらなきゃよかった!」
 彼の話を聞いていたら何故かお腹が空いてきた。なので私は彼に注文した。
「君、カレーまたおかわりしていいかな?」


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