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大人になって振り返ること

 大人になって過去の自分を振り返ってみようとしたのだが、いろんな事がありすぎてうまくはまとまらない。だけどまず思うのはあの町に生まれてよくここまで無事に生きてこれたということだ。
 僕の故郷は生まれた瞬間からサバイバルだった。僕の故郷の女たちは他の地方の女にくらべて数多く子供を傾向にあり、一度に十人以上の子を産むなんてザラだった。僕の母も二十人の子供を一度に産み、そうして生まれた子供達は母の乳房を巡って他の赤ん坊の首に噛みつき、絞め殺してようやく乳房にありつくのだった。
 そうして生存レースから16人が脱落し、生き残った4人が無事に成長したが、そこでもサバイバルが待ち受けていた。うちの実家は貧乏でろくに食料もなかった。だからその食料を巡って兄弟同士で酷い争いが度々起こった。そんな争いの中勝気だった兄の二人は共食いのように体力の限界まで争い両者とも自滅して死んでいった。残った僕と弟だが、僕は根が優しいので弟に食べ物を分け与えていたが、この弟のやつが成長すると食べ物を独占しようと僕を殺そうとしてきたので、僕は弟のやつを返り討ちにして近所の崖から突き落としてやった。

 そうして晴れて一人息子となって小学校に入った僕はこれで平和な生活が送れると喜んだが、そうは問屋が下さなかった。小学校は他の群れの連中も集められるわけだから、当然そこで諍いが起こる。だからやっぱり小学校でも子供連中による争いが絶えなかったのだ。争いの中全校生徒の半分以上が落とされて食われて刺されたりして死に、そしてようやく卒業した我々は中学校に進学したがそこでもサバイバルが待ち受けていた。

 もう中学生にもなると多少知性も身についているからサバイバルの方法も多種多様になった。雌はリーダーにこびはじめ、他の連中はまずリーダーを殺してしまえと、そのリーダーのイチャイチャしているところを狙って、リーダーのその雌を惨殺して、その中の新たなリーダーは自分がリーダーである事をアピールするために死んだ前リーダーと雌をその場で食べてしまったのだった。僕はその光景をおぞましい思いで見ていたが他の連中は喝采し、新たなリーダーに向かって歓声を上げた。
 しかしそのリーダーの覇権も三日天下で終わり、焼却炉で焼き殺されたリーダーの葬儀が終わると新たなリーダーを巡って学校内はさながら戦国時代になったかのように各自が群れを作り争った。強大な勢力がぶつかり合い自滅してゆく中、僕が所属するグループは我関せずと隅っこの柿の木の下でのんびり柿を食べていたが、そんな僕らの元に助けを求めて大量の雄と雌が難民がやってきたのだった。僕らがその優しさで彼らに柿を分け与えると彼らはやっぱりその柿を巡ってサバイバルをして結局強い連中ばかりが僕らの元に残った。
 そんな事が重なって僕らの勢力はいつの間にか強大なものになっていった。僕らの勢力を他の連中も無視できないようになったのだ。そしてとうとう僕らのリーダーがこの学校の争いを静めるためには学校を統一するしかないと天下統一を掲げで校長室目指して上洛のために進軍したのだった。惨たらしい争いや裏切りなどがあり、それでも僕らの軍は勝利し続け、とうとう校長室まできたが、その時名ばかりのリーダー率いる軍が屋上から校長室を襲ってきたので怒り狂った我らがリーダーはなんと校舎そのものを焼き討ちしてしまったのである。こんな物があるから醜い争いが起こるんだとは彼の言い分であった。しかしこんな狂気沙汰を皆が納得できるはずがなく、一部の物がある日体育館に泊まっていたリーダーを暗殺しようと体育館に火をかけたのである。僕はそれを家で知り手下と一緒に慌てて体育館が駆けつけた。そしてリーダーを暗殺し気勢を上げている連中を復讐だと残らず惨殺していった。そして彼らの死体を校舎の焼け跡に突き刺して裏切り物を打ち取った事をアピールしたのである。

 それからもいろんな事がありすぎるほどあるがここではとても書ききれない。県をまたがるほどの大略奪の挫折。生徒の飢え死に。人食いの禁止法案の影響による一揆の続発。高校になっての第一次、第二次の大戦で多くの生徒を失ってしまったこと。暗殺への恐怖のために毎夜眠れなかった夜。居酒屋で毒酒を飲まされ生死を彷徨った夜。

 今僕は高校卒業まで生き残り東京で大学生活を送っている。ここは人を殺さず、しかも食ってはならぬという法律のある全く素晴らしい場所だ。さすがに都会だ。うちの田舎とは違う。僕は思う。大人になってよかったと。大人になるまで生きてこれてよかったと。今の僕は子供じゃないから人の肉を焼いては食べない。せいぜい蚊に刺された女の子の血を痕がつくほど思いっきり吸い上げるだけだ。そして子供じゃないから人は絶対殺さない。せいぜい喧嘩をふっかけてきた奴の両手両足の骨をバラバラにするぐらいだ。

 僕は大人になるまで人生なんて人が人を食べたり殺したりするもんだと思っていた。だけど大人になってそれが全然違うものだってわかったんだ。僕を産んでくれた両親ありがとう!僕のために死んだ兄弟たちありがとう!僕に殺されたり食べられたりしたみんなありがとう!僕が今日ここにあるのはみんながいたからなんだ!僕の人生は僕一人のものじゃない!僕を栄養素となって支えてくれた人たちのものでもあるんだ!僕は生きていくよ!この人生という名の長い道を!


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