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自意識過剰男

 俺が席に座ると隣に座っている奴はいつも立ってどっかに行ってしまう。女は勿論男もだ。俺は無駄に余裕のある座席で足を広げながら降車駅まで新聞を読んだり、スマホを見たりする。

 会社でも同じだ。俺がオフィスの自分の席に座ると隣のクソ女が露骨に嫌な顔をする。いつも隣にいるくせに何のつもりだよ。不快のアピールかよ。そんなに俺が嫌いならスメハラでもいいから訴えればいいんだ。美人だからってお高く止まってんじゃねえ!ちったぁ動いて俺を追い出して見ろや!だがそんなふうに愚痴っても俺が油まみれの、フケだらけの、クソまみれ野郎だってのは事実だからどうしようもない。連中が俺を嫌うのは一定の正義がある。そういえば俺は昔から人に嫌われていた。うんこ野郎と子供の頃からいぢめられた。その通り俺はうんこ野郎だ。今じゃマキグソレベルだ。

 だから俺はこんなんじゃいけないと一念発起してイメチェンすることにしたんだ。エステに通って脱毛をした。毎日体はちゃんと洗うことにした。整髪料も使って髪を整えた。だけど全く事態は変わらなかった。相変わらず電車では避けられ、会社の連中も相変わらずのクソ嫌顔だし、もう何をしてもダメだった。俺なんか、俺なんか死んだほうがマシだ。俺はとうとう発狂して会社の連中に向かって叫んだ。

「何だテメエら!どうしていつもいつも俺を避けるんだ!確かに昨日までの俺は臭かった。お前らが嫌うのはわかる!だけどな!今日の俺は清潔そのものじゃねえか!それなのになんで俺の事をここまで嫌うんだ!ほら、ちゃんと俺の前で言って見ろよ!」

 会社の連中は俺の逆ギレに一斉に俯いた。俺はここまで言っても黙っている連中にうんざりして出ていこうとした。その時だった。いつも俺の隣の座っている女が震える声で俺にこういったんだ。

「あなたいつもズボンからトイレットペーパーぶら下げてるでしょ?だからみんなあなたを避けるのよ!いい加減トイレでうんこするときは紙がくっついていないか確認しなさいよ」

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