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BE MY BABY 前編

恋の始まり


 Rain dropsの初期の曲に『恋以上愛未満』という曲がある。この曲はセカンドアルバムに収録されている曲で、テンションコードを使いまくりの複雑な曲を得意としているRain dropsにしては珍しくギターのストロークがメインの単調なスリーコードの曲である。。この曲の作詞作曲はもちろんRain dropsを率いるボーカル&ギターの照山で、タイトル通りの甘く切ない曲調であり、その曲に乗せて照山は自分の心情をストレートに歌っている。照山は歌詞の中に恋以上愛未満といういささか気恥ずかしいフレーズを使ってそこに自分の奥深くに秘められた恋への憧れを込めていた。

 この曲『恋以上愛未満』はファンの間で人気で初期のRain dropsのライブのセットリストには必ず入っていたが、ある時を境にこの曲はパッタリと演奏されなくなった。その理由は今となっては周知の事実だが、ここであらためてその理由を書くと、それは単純に照山が恋をしてしまったからである。彼は恋をした瞬間に恋以上愛未満どころではなくて、恋異常愛異常のような状態になってしまったのだった。

 照山がその恋の相手の美月玲奈と出会ったのは、彼女がMCを務める深夜テレビの音楽番組の収録だった。Rain dropsはライブの宣伝でその音楽番組に出演したのだが、照山はその美月に対して嫌悪感を抱き、彼女の質問にまともに答えず冷たくあしらった。普段女の子に優しい照山がなぜ美月をここまで嫌ったのか。それは彼女が俳優であったからだ。彼は俳優というものにあからさまに偏見を抱いていた。作り物の世界でただ台本に書いてある借り物の言葉を喋っている中身のない連中。それが照山が俳優に持っていたイメージだった。そんな連中には自分の魂を絞り出すようなロックなんて絶対にわからない。照山は俳優たちに対する嫌悪感を、決してマスコミに口外しなかったものの、心の中でずっと抱いていた。

 だが、テレビ番組の収録中、美月がRain dropsのインディーズ時代からのファンであり、しかもマイナーな曲まで知っていることを聞くと彼女の印象が変わった。そして美月玲奈が番組の終盤の方で目を潤ませながらRain dropsへの想いを熱く語り、そして最後に彼女から照山に会えてよかったと感謝の言葉を言われた時、照山の彼女に対する偏見はあっという間に崩壊してしまった。彼は知らずのうちに美月玲奈に恋をしてしまったのである。

 この恋は照山にとって事実上初恋に等しいものだった。高校時代に付き合っていた女にギターと彼女の二者択一を迫られてギターと即答したあの日から彼はずっと女性とは無縁に生きてきた。現実の女性は絶対に自分を裏切る。ならば決して自分を裏切らぬロックへの道を生きよう。それが彼の選んだ道だった。

 だが照山は女性に恋をしてしまった。これを少年から普通の凡庸な男への堕落と呼べば堕落であろう。しかし彼は今狂おしいほどの恋の熱病にかかっていた。彼は番組の収録後楽屋に戻るといきなりテーブルに置いてギターを手に取って指で弦を激しくかき鳴らながら絶叫した。

 誰よりも

 愛している

 世界が崩壊しても

 あなただけを

 愛し続ける

 ウオォー!

 照山は衝動に突き動かされて思わずこんな歌を即興で歌った。そして突然持っていたギターを床に叩きつけて楽屋から飛び出してしまった。楽屋にいたメンバーとマネージャーは照山のこのいきなりの暴走に唖然として、我に返って照山を追いかけたが、照山はとりつかれたように駆け出し追いつけなかった。

 楽屋を飛び出した照山は衝動のままに収録スタジオ内を全速力で駆け回った。その時彼は外の騒ぎを見ようとして楽屋のドアを開けた美月玲奈とばったり出くわしてしまったのだった。

 照山は突然現れた美月にびっくりして立ち止まった。そして無言でしばらく彼女を見つめると、どけぇ!と叫んで苦痛に満ちた表情を浮かべながら再び駆け出してしまった。美月の隣にいた彼女のマネージャーはその照山の背中を見ながらこう呟いた。

「彼、シャブかなんかやってるんじゃないの?」


 そのまま照山は走ってマンションの自宅に帰ったのだが、彼は玄関を開けるなり床に崩れ落ちるように倒れて泣き叫んだ。ああ!照山にとって美月の存在はあまりにも衝撃的だった。完全に我を見失い、ギターまで叩き割ってしまった。照山はさっきのテレビ局の楽屋で美月の前で大恥を晒した場面を思い浮かべて恥ずかしさに身悶えた。きっと彼女は僕を軽蔑するだろう。だけどなんで僕はあんなに取り乱したんだ。彼女は俳優じゃないか。好きでもない男とキスしても全然平気な薄っぺらな連中じゃないか。なのになんで自分たちのファンだって言われたぐらいでこんなに動揺してしまうんだ。ああ!彼はもう認めざるを得なかった。彼が美月に感じたこの感情は紛れもなく恋であった。

 その後メンバーやマネージャーから電話やLINEで連絡があったが、照山は彼らに対して、あの時はどうかしていた。はじめてのテレビ出演で僕は頭がおかしくなってしまったんだと白々しい嘘をついて謝った。それから彼はスマホをジーンズのポケットに入れて部屋を眺めたが、部屋には溢れるほどのCDや本の山と、ギターや録音機材が所狭しと並べられているのに酷く殺風景に見えた。ここには何かが足りないように思えた。照山はせめて気を紛らわせようとCDの山からロネッツのCDを取り出した。ロネッツとは伝説のプロデューサーフィル・スペクターが手がけた黒人女性グループで、60年代初頭に最も人気を博していた女性グループの一つだった。ジョン・レノンやポール・マッカートニーが彼女たちのファンであった事はよく知られている。彼はCDをコンポに入れリモコンで曲を選んでかけた。曲は彼女たちの代表曲『BE MY BABY』だ。この女の子の恋する気持ちを歌った曲は今の照山の気持ちを幾分かは代弁していた。流れる曲を耳を傾けているとついさっきまで一緒にスタジオにいた美月玲奈の顔が思い浮かんできた。曲がAメロBメロと進んでいき、サビにきた時照山は思わず一緒にサビを歌った。「ビー・マーイ・ビィマイベイビー、ビー・マーイ・ビィマイベイビー」と美月玲奈の顔を浮かべて泣きながら歌った。

突然のLINE

 それから照山はずっと『BE MY BABY』を延々とリピートして聴いていたのだが、その時ふとズボンのポケットに入れていたスマホが震えていることに気づいた。彼はスマホを取り出してそれがLINEのメッセージの通知であることを確認して、邪魔だとばかりにスマホを投げようとしたのだが、その時送信者の名前を見て手を止めた。照山は恐る恐るLINEを開いた。

『美月です。照山君、突然のLINEごめんなさい。私が番組でお世話になっている音楽プロデューサーの小松さんの所から来ました。小林さんのことは照山君も知ってますよね。さっきTV局で照山君すごい怒ってたから、申し訳なくなってそれで一言謝りたいって思ってLINEしました。やっぱりさっき知ったかぶってRain dropsのことを喋りすぎたのがいけなかったのかな?でも私インディーズ時代からずっとRain drops好きだったし、みんなにもRain dropsの素晴らしさを知ってもらいたいって思ってつい長く喋っちゃったんです。決してロック好きの自分をアピールしたかったわけじゃありません。でもやっぱり許してくれないかな?だって私俳優だし。いわゆる芸能界の人間だし。照山君は芸能界の人間なんて嫌いでしょ?そんな人間にいけしゃあしゃあと自分たちの音楽を語られたくないよね。だって照山君は純粋な少年の心でロックを演ってる人なんだから。長々と語ってごめんなさい!自分でも何書いてるかわからなくなりました。私のことはブロックしてもらって構いません。だけどブロックされたからって私のRain dropsに対する気持ちは永遠に変わりません。今日出会えて本当に嬉しかったです。いつまでも素敵な音楽作ってください。美月玲奈』

 照山は美月のメッセージを読み終えるとすぐさま美月に返信した。自分がメッセージを送るか、彼女がリンクを外さないかの競争であった。照山は美月に対して簡潔すぎるほど簡潔に『それは誤解だ!僕は君の言葉が嬉しかっただけなんだ!』とだけ書いた。返信を書き終わると彼はスマホを抱きしめて悶え狂った。ああ!この子はなんていい子なんだ。あんな無様な僕を見て自分のせいだと気を病んでいたなんて!照山は美月に対してこれまでの自分の偏見を全て謝罪したかった。全く自分はなんて浅はかな人間だろう。俳優のことなんてろくに知りもしないのに軽蔑したりして!

 彼は何度もLINEを見て美月の返信を待った。待ちながら彼は自分のメッセージを確認してあまりにも言葉足らずだと追加で書こうとしたが、何度も書いたらストーカーみたいに思われるかもしれないと思って耐えた。長い沈黙が流れた。照山は髪が抜けてしまいそうになるほどの緊張感に耐えながらひたすら美月の返信を待った。

 しばらくするとスマホの画面が明るくなった。美月の返信が来たのだ。彼女は照山に向けて『怒ってなくてよかったです。私Rain dropsのこと喋り終わってからずっと照山くんの機嫌を悪くしたかなって思ってたから。喜んでもらえて本当によかった。あの、照山君お願いがあるんだけどいいですか?暇な時でいいです。私とお話ししてください』とメッセージを書いていた。照山は読んで早速「大歓迎です。こちらこそ僕の話し相手になってください!」と返信した。

 こうして照山と美月玲奈のLINEは始まった。最初は互いに遠慮がちで二言三言のやりとりだっがすぐに打ち解けて互いの好きなものを語り合うようになった。照山は美月とLINEのやり取りをしているうちに彼女が非常に知性のある女性であることを知った。この照山の同い年の人気女優はロックは勿論文学にも詳しく、特に文学方面では愛読書に照山が読んだ事もない作家の本をあげていた。彼女はLINEの終わりによくこんなメッセージを送ってきた。『私、照山君とこういう事話せて嬉しいです。芸能界にはあまり文学や音楽について真面目に語れる人いないから』

照山初めて愛の告白をする!

 その後照山は毎日美月玲奈と頻繁にLINEを交わしていたのだが、だんだんLINEのやりとりだけでは我慢できなくなってしまった。彼女ともう一度会いたい。そして今度はちゃんとした会話を交わしたい。しかし照山がどれほど会いたいと思っていても、この人気俳優にたやすく会えるはずもなく、また自分たちも近々サードアルバムとその先行シングルが発表されることもあって急に仕事が増えてきたため、会うどころかLINEでの会話でさえ途切れ途切れになってしまった。彼は美月の返信がない時は彼女の顔を思い浮かべながらただ悶々として過ごした。ある日部屋で孤独に過ごしていた照山は、美月に会えない寂しさをどうにか慰めようと、スマホのYouTubeで美月が出ている動画を探ししたのだが、トップにいきなり彼女のキスシーンや男とハグしているドラマや映画の類が出てきたためすぐさまスクロールして、下にようやく彼女しか出ていない動画を見つけたのでそれを観ることにした。それは某ガールズバンドの曲のPVであった。

 PVで美月玲奈が出演しているガールズバンドの曲は、アイドルソングをバンドでやったようなもので、正直に言って照山の好みに合うものではなかった。しかしPVの美月玲奈を姿を観ながら曲を聴いていると、そのアイドルソングみたいな曲がとんでもなくエモく聴こえてきた。曲に乗せて美月がときめいた表情でラブレターを書いたり、雨の中を泣きながら走ってるシーンを観ていると胸に熱いものがこみ上げた。PVを観終わった照山は思わずスマホを抱きしめて、ああ!会いたい!と思わず叫んで悶絶して床を転げまわった。

 それから照山は家にいる時は必ず美月のガールズバンドのPVを観るようになった。そんなわけで照山は今日も家に帰るなりスマホで美月出演のガールズバンドのPVを観ていたのである。彼はいつものようにPVの美月を惚けたように観ていたが、その時突然スマホが鳴ったので照山は我に返り、とうとう美月のLINEが返ってきたと喜んで、すぐさまスマホををガン見した。しかしそれはLINEではなかった。いや、たしかにLINEではあったがLINEではなく、なんとLINEの電話だったのだ。美月はLINEから電話をかけていたのである。

 スマホはまだ震えていた。スマホの震えに呼応したのか照山自身も震えてきた。照山は震える手でLINEを立ち上げ間違って切らないように何度もボタンを確認してから電話に出た。すると美月玲奈が電話の向こうから興奮した口調で喋り出してきた。

「照山君、私の番組観てくれた?番組で今日初めてRain dropsのニューシングルの『少年だった』かけたんだけど、私、聴いてたらあんまり良すぎて泣きそうになっちゃった。間違いなく名曲だよ!……ゴメン照山君、曲聴いたら興奮していても立ってもいられなくなっちゃって思わず電話かけちゃった。後でLINEするからね」

 照山は電話の間、美月玲奈の言葉にただ頷くことしか出来なかった。彼は美月の話を聞いてマネージャーが次の新曲のPVの初公開はYouTubeから美月の音楽番組に変更したと聞かされた事を思い出した。先日照山が収録スタジオで起こした騒動のお詫びでそうなったらしい。照山もそのことは聞かされていたが、美月に激しく恋していた彼は、美月がいつも番組で相手の男とにこやかに喋っていることに我慢がならず番組自体観なかった。だから美月の番組で『少年だった』が初公開されるということなどすっかり忘れていたのだ。

 電話が終わって胸元にスマホをおろした照山はLINEの美月の名前を見ながら先ほどの美月の興奮して話す声を思い出して胸が爆発しそうなぐらい高まってきた。彼はもう美月への狂おしい想いを抑えられなかった。照山は一瞬美月に折り返し電話しようと思ったが、しかし精神的に少年である自分には恋の電話なんてとても出来ないと手を止めて、普通にメッセージで自分の想いを伝えることにした。彼は勇気を振り絞って美月玲奈へのメッセージを書き始めた。彼は自分の気持ちのままに告白を書き、読み返してはその大胆さに顔を赤らめては消し、そうして何度も書き直したメッセージを美月玲奈に送った。

『美月さん、僕はあなたが好きです』

 これが、照山が考えに考えて送った美月玲奈への愛の告白だった。彼はこの簡潔極まりない告白に辿り着くために、なんと11万文字もの文字数を犠牲にしたのだ。美月への想いを長々と書いているうちに、いくら書いても相手に想いなんて伝わらないと彼は思い直し、結局自分の気持ちをダイレクトに伝えることにしたのだ。しかし照山は美月にメッセージを送った途端激しい後悔の念に苛まれた。ああ!なんて自分は愚かな事をしたのか。バカげている!たった一度会ったきりの人間に恋を告白をするなんて!彼はスマホを投げ出し自らの愚かさを悔やんだ。きっと彼女は僕のメッセージを読んで逃げ出してしまうだろう。あこがれのRain dropsのボーカリストがまさかこんなストーカーみたいなやつだったなんて知らなかったと激しく軽蔑するだろう。なんてことだ。せっかく築き上げてきた絆を自分の愚かな願望のために壊してしまった。もはや取り返しはつかない。もうダメだ!自殺するしかない!照山は絶望的になって激しく泣いた。と、その時またスマホが鳴った。照山はそれが美月から下される死刑宣告だと覚悟して慌ててスマホを手にとった。スマホはまだ震えている。照山はまさかと思いゆっくりとスマホの画面を見た。なんと美月がまたLINEで電話してきたのだ。彼は先程と同じように慎重にLINEを開いて電話に出た。電話口から美月の息がかすかに聞こえてきた。

「照山君、さっきのLINEありがとう。私……照山君の気持ちすっごく嬉しかった。私も照山君のこと好きだよ」

 照山は美月の言葉を聞いた途端たまらずその場で泣き伏してしまった。彼は美月に対して返事をしようとしたが嗚咽で言葉にならなかった。電話の向こうの美月もまた泣いていた。二人はそのまま泣きながら短い言葉を交わしまたLINEすると約束して電話を終えた。

感動の最終回


 それから照山と美月玲奈の関係は一層親密になった。以前はどこか遠慮のあった二人だが、告白を境にそんなものは吹き飛んでしまった。美月は照山に今何をしているの?と聞き、照山がいつものように君が一人で出ているガールズバンドのPVを観ていると答えると美月は大量のハートを送りつけてきた。二人は互いにもう一度逢いたいと語り合い。しかし互いの仕事の都合で会えない事がわかると二人してガックリと落ち込んだ。しかし二人の願いが天に通じたのか彼らは思ったより早く再会することになった。

 美月玲奈は今季限りで彼女がMCとして出演している深夜の音楽番組を卒業することになっていた。彼女が音楽番組を卒業することになったのは、美月の人気が急上昇してゴールデンのドラマの主演が決定して深夜の音楽番組などやっている暇がなくなったからである。照山も美月が番組を卒業するということは、美月本人からLINEで聞いて知っていた。美月は照山に宛ててデビューからずっとやってきた音楽番組をやめたくないと本音をぶちまけた。しかし照山はこの件を聞いて、これで美月があの胸糞悪い相手の男と肩を並べることはないと安心して思わず喜んでしまった。しかし誠実であり心優しい人間である彼はすぐにそんな自分を責め、心から美月に同情したのだった。その番組の最終回のゲストに我らがRain dropsが急遽出演することが決まったのである。

 本来ゲストなしで行なわれるはずだった美月玲奈の卒業回に急遽Rain dropsの出演か決まったのは、番組で彼らのシングル『少年だった』のPVを初公開して異様なぐらいの反響があったからである。初公開するなりRain dropsとシングル『少年だった』はTwitterのトレンドに入り、番組には彼らの出演を求める電話やメールが殺到した。この時を境に我らがRain dropsは一気に大ブレイクするのだが、照山と美月の恋もこの時激しく燃え盛っていた。

 照山はマネージャーから番組への出演が決まったと聞かされた時、すぐさま美月玲奈にLINEで君の番組の卒業回に出演する事になったと伝えた。それからしばらくして美月から照山君が私の卒業を見守ってくれるなんて嬉しいと返信がきた。それから照山は君にLINEしたいんだけどいつがいい?と聞き、美月が空いてる時間を言うと、照山はわかったと言って、その時間になると照山はすぐさま美月にLINEをしたのだった。LINEの中で互いにまた逢えるなんて嬉しいとか、もう逢う日が待ちきれないとか、たった一度しか会ってないのに完全に恋人のようになっていた。


 そして番組収録の当日に照山と美月玲奈は再会したのだが、照山の挙動は明らかにおかしかった。美月は収録の前に自分のマネージャーを連れだってわざわざRain dropsの楽屋に挨拶に来てくれたのだが、Rain dropsのマネージャーや他のメンバーは挨拶に来てくれたこの人気俳優に対して過剰にへりくだってお礼を言う中、照山だけは目をガン開きにして無言のまま美月を見つめていた。美月はその照山にも挨拶したが、しかし照山は目をガン開きにしたままうなずくだけで何も言わなかった。美月は一通り挨拶を済ませてRain dropsの楽屋を出たが、その時隣にいたマネージャーが彼女にこう囁いた。

「あの子大丈夫なの?あんなに目をガン開きにして。彼、前に暴れたことあったわよね。やっぱりシャブ打ってるんだわ!」

 照山は日本の由緒正しきロックアーチストとして当然麻薬を軽蔑し、麻薬なんかやってる奴は人間じゃないとさえ思っていたが、しかし彼はLove is Drug。つまり恋という麻薬にどっぷりとハマってしまっていた。それは美月も同じであった。彼女は楽屋で目をガン開きにして自分を見つめる照山の熱い眼差しに感激して思わず彼を抱きしめようと思ったが、どうにか抑えてその場を取り繕った。

 それからしばらくして番組の収録に入っだが、その収録の間でさえ照山の目は飛びまくり、収録の待ち時間はずっと美月を見つめていた。しかし流石にトークになると若干我を取り戻し、相方の胸糞悪い男の質問こそガン無視したものの、美月の質問にだけはまともに答えられた。美月は収録中出来るだけ表情を変えないように努めていたが、照山の自分を見つめる視線に心が熱くなるのを抑えるのが耐えられなくなってきた。彼女はとうとう耐えきれずに照山に向かって台本に書いていない事を言い出してしまった。

「あの、照山さん。私、ニューシングルの『少年だった』について一つ聞きたい事があるんですけど、……歌の中の少年はその後希望を見つけられたんですか?」

 照山は美月の質問に激しく動揺した。美月は明らかに歌の主人公を照山自身と見ていた。膝を抱えて蹲っていた少年だった照山。美月はその彼に対して希望は見つかったのかと問うているのだ。照山は熱い目で美月を見てこう言った。

「彼はたしかに希望を見つけたよ。たった一つの小さな……だけど決して壊れない希望を」

 その後収録はRain dropsの演奏に移ったが、その演奏は全く凄まじいものだった。Rain dropsのスタジオライブの演奏動画は今ではほとんどYouTubeなどで簡単に観ることが出来るが、その数々の動画の中でもこの番組の収録で行われた演奏はずば抜けている。特に照山のこんなにハイテンションなプレイは本物のライブでさえ滅多に見られないものだ。演奏したのはデビュー曲の『セブンティーン』と最新シングルの『少年だった』だが、特に『少年だった』の演奏が凄まじく、メンバーが叩き出す怒涛のようなサウンドをバックに、照山はまるでクスリを決めたかのようにギターを掻き鳴らし、そして甲高い透き通るような声で少年のように歌い出だした。そして必殺のサビのフレーズ「少年だった、少年だったぁ!」と絶叫するところはまるで少年の純粋さと痛みが入り混じった轟音のカオスだった。スタジオにいた者たちは皆このカオスに圧倒されていた。美月など涙を堪えるだけで精一杯だった。

 バンドの演奏が終わると収録は再びトークに移り、演奏の感想などを話した後、Rain dropsのメンバーが『少年だった』の発売日と待望のニューアルバム『少年B』が出ることを告知した。そして最後に美月の卒業の挨拶が行われたが、その卒業の挨拶で美月は番組での思い出とスタッフへの感謝を涙ながらに語り、それから今日出演してくれたRain dropsにも礼を言ったが、その途端彼女は感極まって号泣してしまった。美月はその時思わず照山に抱きつこうとしたが、その寸前で思いとどまった。照山はその間ずっと美月を見つめていた。彼も号泣している美月を抱きしめてやりたかった。彼に勇気があったらまっすぐ美月を抱きしめていただろう。だが今の彼には危険なほど目を剥いて彼女を見つめることしか出来なかった。

深夜の再会

 美月の卒業回の収録は涙涙の涙尽くしで終わった。収録が終わっても美月はずっと泣きじゃくり、泣きじゃくりながら周りのRain dropsの面々やその他出演とスタッフ一同にお礼を言って回っていた。それからRain dropsの面々はマネージャーに連れられて美月の楽屋へと向かって彼女に挨拶をすると、自分たちの楽屋へ戻りそこで帰るための準備をはじめた。照山はその間ずっと心ここにあらずのような態度で、そんな彼を心配したメンバーは度々声を掛けたが、そのメンバーにも照山は「ああ……」とか空返事するばかりだった。

 照山は番組の収録が終わってからずっと美月の余韻に浸っていた。帰りの車の中でも彼はまだスタジオにいるような錯覚を覚え、左右を見渡して美月を探してしまうのだった。しかしその夢はメンバーの大声によって無理矢理覚まされてしまった。メンバーはさっきのスタジオ収録ライブの事を話し合っていた。メンバーは照山に向かって「お前やっぱりすげえよ。あの美月玲奈だってお前を見て唖然としてたぜ」と褒め上げた。照山はメンバーの言葉を聞いてスタジオのライブの記憶が蘇ってくるのを感じた。あの時彼は『少年だった』をたった一人の観客のために歌っていた。この曲を聴いて泣きそうになったとわざわざ電話してくれた彼女。この曲を真から理解してくれた彼女。そして演奏している彼の目の前で必死に泣くのを堪えて聴いてくれた彼女。ああ!照山はさっき会ったばかりの美月玲奈に無性に逢いたくなった。

 家に帰ると照山はすぐさま美月にLINEを送った。その中で彼はまず番組を卒業する美月を労り、次に番組で彼女の質問の内容に深く感動した事を伝えた。そして最後に、もう一度君に逢いたいと書いた。それから照山はずっとスマホを凝視して美月の返信を待っていた。ああ!沈黙の中、時計だけが無常に進んでゆく。美月は今何をしているのだろうか。LINEには何の反応もない。どういうことなのだ。彼女がこの僕のLINEに返信しないなんて!いっそ彼女に電話してしまおうか。しかし精神的に少年である彼には恋する女の子に電話するのはどうしてもためらわれた。だが、彼はこのまま無反応のLINEを見続けることに耐えられなかった。ああ!その声を、その姿をもう一度僕に見させておくれ!

 そして長い逡巡の果てに照山は美月に電話することを決心した。彼は自分の決意が萎えないうちに素早く行動に移した。今照山は震える指をLINEの電話のアイコンに近づけてゆく。美月は何度も自分に電話してくれたではないか。なのにどうして怯える必要がある。美月に逢いたい、彼女の声が聞きたい。彼はそれだけが言いたかった。ああ!照山は今胸に少年の高揚感を感じながら美月に電話をしようとしていた。体全体が震えてきた。美月は自分の突然の電話にどんな反応をするだろうか。喜ぶだろうか。それとも迷惑に思うだろうか。不安ばかりが募ってくる。しかし彼にはもう止められなかった。そしてついに彼は電話のアイコンに触れた。そして自分の思いのように強く液晶画面が壊れそうなほど押した。

 それから照山はひたすら美月が出るのを待った。部屋中に電話の呼び出し音が響き渡る。その音を聞いて彼は自分の胸の鼓動が激しく波打つのを感じた。ああ!何故彼女は出てくれないのか。あれほど僕に逢いたがっていたじゃないか。照山は耐えきれず電話を切ろうとした。その時だった。スマホから雑音と共に美月の彼を呼ぶ声が聞こえて来たのである。

「照山君なの?」

 彼はいきなりの美月の問いに言葉を発する事ができずただ相槌を打つことしか出来ない。その照山に向かって美月は大きな声で叫んだ。

「今すぐ来て!」


 照山はすぐさま部屋を飛び出した。彼は電話の美月の態度から彼女が普通ではないのを感じ取った。何があったのだろうか。あの電話の態度はいつもの彼女とは明らかに違っていた。日付はいつのまにか変わっていた。照山はタクシーを電話で呼び運転手に早く美月の元に向かうようにせっついた。彼はタクシーが信号で止まるたびに何故止まるんだと怒鳴りつけた。僕らの恋は止まらないのに何故現実は僕らを止めさせようとするのか。美月は大丈夫だろうか。心配のあまり思わず運転手のクビを絞めたくなる。僕は彼女を救うためだったら犯罪だって犯す覚悟だ。ああ!照山は今少年の心のままに危険な恋の道を走っていた。

 幸いにも運転手を絞め殺すことのなかった照山は美月の居場所につくとすぐさま怯える運転手に金を払ってタクシーを降りた。それから彼は店の名前を何度も確認すると恐る恐る中を覗いた。店には薄暗い灯りが点いているが、中までは見えない。入り口の奥には店員らしき人間が見えたが逆光で影になっていた。照山はドアの外から美月が中にいないか確認した。しかし入り口は狭くしかも店員が塞いでいるので店内は全く見えない。確かに美月は電話でココにいると言っていた。なのにこの異様な沈黙はどういうことだ。照山は悪い予感がして思わず店のドアノブを引いた。しかし開かない。彼はたまらずドアを叩き美月の名を叫んだ。

「美月さん!いるんだろ?僕だよ!早く開けておくれ!君に逢いに来たんだ!」

 ドアを割れんばかりに叩く音と照山の叫びを聞いた店員は慌ててドアのところまで駆けつけてきた。店員はドアの外に立っている白いTシャツにジーンズを履いた照山を舐めるように見ると呆れた顔をして言った。

「おい、お前今何時だと思ってるんだ!酔っ払いか?さっさとどっか行けよ!ここはお前みたいなやつが来るとこじゃねえんだよ!」

 だが照山は店員の言葉に耳を貸さず逆に店員に食って掛かった。店員などにかまっている暇はない。自分は早く美月に会わねばならないのだ。

「美月さんここにいるんだろ!さっさと彼女を出せよ!」

「お前美月さんのストーカーか!こんな深夜まで付け回しやがって!今すぐ出て行け!出ないと警察呼ぶぞ!」

「違う!僕はストーカーなんかじゃない!彼女のれっきとした恋人だ!」

 店員は深夜に突然現れたこのもやしみたいな青年に心底恐怖を感じた。本当に恐ろしいのは普通に見える奴だとよく言われるがその通りだと思った。だから彼は思いっきり青年を思いっきり脅しつけた。

「お前マジで警察呼ぶぞ!」

 照山はこれ以上店員と話し合っても無駄だと思った。この純粋な少年の心を持った自分を見てストーカーだと決めつけ、挙句の果てに警察まで呼ぼうとする人間とはまともに会話さえできないと思った。こうなったらもうこいつを殴り倒して店の中に入るしかない。照山は拳を握りしめた。いざ殴ろうとしたその時奥から聴きなれた女性の声が聞こえてきた。

「外で何やってるの?大きな声でわめいたりして」

「美月さん!僕だよ、照山だよ!」

「照山君来てくれたの?」

 その喚声とともに美月が店の中から現れた。美月はゆっくりとまるで地上に降りたての天使のようなおぼつかない足取りでこちらに向って歩いてきた。どうやら酒に酔っているようだ。美月はほんのりと頬を赤く染め照山に向って恥ずかしそうに笑う。照山は彼女をまっすぐ見つめ、店員はその二人を呆気に取られた表情で見た。

「ごめんね照山君。あのね、さっきまでここで私の送別会やってたんだけど、その送別会がちょうど終わる時に照山君から電話があったから私みんなにもう少し飲んでくって言って照山君が来るまで待ってるつもりだったの。だけど……寝ちゃった。ごめんね、照山君せっかく来てくれたのに心配かけて」

「いや、僕は大丈夫さ。それよりも君が無事に生きていてよかった。僕は君がいなかったら生きていけない」

「あ……あの美月さん。美月さんはこの方を待ってらしたんですか」

「そうですけど」

「そうとは知らず先ほどは大変失礼しました!いつも当店を御贔屓にしてくださってる美月さんのお知り合いに対して私はなんと失礼なことを!」

 美月はいきなりかしこまって頭を垂れる店員を見ていぶかしげな表情で照山を見た。しかし照山は美月に会えたのと店員が謝罪をしたことに満足したのか、さっきのもめ事はどうでもよくなった。だから彼は美月に向って微笑んで安心させようとした。美月もそれを読み取ったのか照山に向ってうなずき、それから店員に向って言った。

「こっちこそ長居してごめんなさい!おまけに寝てしまって……。あのこの人なんですけど、彼、Rain dropsっていう凄いバンドやってる人なんです。そして私の一番大切な人なんです。彼のこと覚えてあげてくださいね!」

 照山は美月のこのあからさまな恋人宣言を聞いて体中の血管が浮き立った。今二人の思いが完全に一つになったような気がした。照山は今までこんな経験をしたことがなかった。勿論彼はイケメンであったから子供の頃から女子にはモテていた。だが女の子よりギターに夢中になっていた彼にはそんな女子たちの熱い思いを聞いている暇はなかった。周りのみんなに彼女が出来ても彼は女子には目もくれず、一日中ずっと、授業中でさえギターを弾いていた。その彼が今生まれて初めての恋愛をしていた。 

美月の告白

 店から出た二人は誰もいない深夜の街をあてどもなく歩いていた。美月が先立ってつかず離れずの距離でただ無言で歩いていた。その間照山はその美月にどう話していいかわからずただ見つめることしかできなかった。彼は今になって自分の恋愛経験のなさを悔やんだ。美月に話しかけようにもずっと少年のままに生きてきた彼にはどう話していいのかわからない。こうして歩いていてももどかしさばかりが募る。こんなことは初めてだった。彼は自分のファンの女の子とは平気で話ことが出来たのだ。インディーズ時代は、もちろんメンバーも含めてだが、ファンの子らと飲みにいったりして、彼女たちの相談にまで乗ってあげてたりしたのに。どうして美月を前にして口ごもってしまうのだろう。彼はそんな自分に腹が立ち思わず髪の毛をてっぺんから全部引き抜いてしまいたくなった。照山は我に返り再び目の前を歩く美月を見つめた。まだ酔いの醒めぬおぼつかない足取りで歩く彼女は本当に天使そのままだった。彼は美月の背中に羽が生えているような気すらしてきた。このまま放っておいたら飛んで行ってしまいそうだったし、現実的に車が現れたら惹かれるかもしれなかった。だけど彼には美月を抱きとめるどころか彼女の手を引いて注意を促す勇気さえなかった。照山は美月をただ見つめることしかできなかった。そして美月はホテルが立ち並ぶ通りの道で突然足を止めて照山のほうを向いた。

 照山は振り向いた美月の表情に思わず息を呑んだ。胸が張り裂けそうなほど高まってくる。美月はそんな照山を熱いまなざしで見つめて立ち止まっていた。二人の間に沈黙が流れる。照山はそんな彼女を目の前にしてどうしていいかわからなかった。彼女が何かを言いたげなのはわかっている。だが精神的に少年である彼には美月に尋ねることさえ出来なかった。ただみつめるだけ。それでよいのか彼は美月を見つめながら心の中で激しい自問自答を重ねた。その時とうとう美月が口を開いた。

「あのね、照山君。ちょっと聞いてほしいことがあるの。もう酔っぱらったついでに私のこと全部言っちゃいたいんだ。話していい?」

 美月の言葉を聞いて照山は来るべき時が来たと思った。もう逃げられはしない。もしかしたら僕の中の少年とさようならをしなくてはならない。だがそれでもいい。彼女と一緒にいられるなら全部捨てても。照山は美月に無言でうなずいた。

 美月は照山に向ってありがとうと言うと早速自分の半生を語り始めた。だがその話は精神的に少年である照山にとって耳をふさぎたくなるような話だった。中学時代に世間のことを何も知らない状態で芸能界に入った彼女は芸能人の沢山いる学校に転校させられ、たちまちのうちに芸能界の悪習に染まってしまった。中学三年の時に同級生の男性アイドルと初体験を済ませてからいろんな芸能人と付きあった。だがまじめで頭のよい彼女はそんな自堕落な生活にうんざりして大学に行ってちゃんと勉強をしようと猛烈に受験勉強をして某名門大学に入学した。しかしそこで彼女を待っていたのは果てしなき孤独であった。芸能人の彼女に誰も近づかず、たまに話しかけてきても芸能界のことを興味深々に聞いてくるだけだった。結局美月はせっかく入った大学も中退してしまった。芸能人になった中学時代から大学までずっと彼女にはお付き合い程度の友達はいたものの、真摯に何かを語り合える友達はなく、そのことでずっと苦しんでいた。そんな時に彼女はRain dropsに出会ったのだ。

「私大げさかもしれないけどRain dropsを聴いてやっと自分が救われたと思ったの。今までこんなに自分に寄り添ってくれる音楽今まで聴いたことなかったもの。特に『すべての悲しい女の子たちへ』はもうボロ泣きしながら聴いたよ」

 美月はそこで話を止めて一息ついた。そしてうるんだ目で照山をまっすぐ見つめて言った。

「私、きれいな女の子じゃないの。それでもいいかな?」

 照山は美月の言葉を聞いて何故か子供の頃やっていたテレビゲームのセリフを口走っていた。

「魔女でもいいさ……」

 口走った瞬間照山はハッとして思わず口を閉じた。ああ!彼女は天使じゃなくて魔女だった。だけど彼はそれでもよかった。彼女と一緒に地獄まで落ちて行こう。彼は恐る恐る美月を見た。

 美月はびっくりした表情で照山を見ていたが、突然口を押えて笑い出した。

「いきなり何言いだすのよ!なんなの魔女って!私が化け物みたいじゃない!」

 照山は美月の言葉を聞いて恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になってしまった。そして彼も笑い出した。二人でそのまましばらく笑いあった後、美月が急に体が触れ合いそうなほどそばによってきてつぶやいた。

「でもありがとう。私こんなに人を好きになったのは初めてだよ」

 いま照山の前にいるのは、人気俳優の美月玲奈ではなく、ただ一人のか弱い女の子だった。彼は彼女を抱きしめようと腕を上げかけた。しかし彼はすぐに腕を止めた。このまま美月を抱けば自分も彼女も目の前にあるホテルに吸い込まれてしまうだろう。ほかの人間であったらこういう状況に置かれたらすぐに美月を連れてホテルに駆け込んだだろう。だが彼はあくまで少年だった。彼は自分の中の少年を裏切ることはできなかった。このまま美月と一夜を共にしたら自分は少年でなくなってしまう。あの純粋な少年ではなくなってしまう。彼は必死で自分の中の欲望に耐えた。


 あの時照山が美月玲奈と一夜を共にしたらどうなっていただろうか。そうなったらRain dropはあんな不幸な最期は遂げなかったのかもしれない。しかしRain dropsは確実に少年性をなくし普通の凡庸なバンドとなっていたに違いない。なぜなら照山の少年性こそがバンドのレーゾンテートルだったからだ。少年性を守り抜くことがどれほど彼を苦しめたのかは想像もつかない。しかし照山はそれを守り続けなければならなかった。バンドのために、そして自分のために。

後編へと続く


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