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訳ありの男女

「訳ありなんです。だから何も言わずこのまま泊めてください」
 男女二人連れがフロントにやってくるなりこう言った。受付のボーイは彼らを見た。男は季節外れのコートを着て顔を帽子とマスクで隠し、女も同じような格好をして男に寄り添っている。いかにも怪しい二人連れである。一体彼らは何者なのか。ボーイは再び身分証を出すように言った。しかし彼らは先ほどの台詞を繰り返すだけだ。
「訳ありなんです。だから何も言わずこのまま泊めてください」
 しかしボーイは二人を泊めなかった。彼らは職務に忠実だったのだ。

 それから一時間ぐらい経った頃である。また男女の二人連れが来た。今度はさっきと打って変わって二人ともアロハに短パンである。しかし顔は帽子とマスクでガッチリ隠されていた。男の方が言った。
「ご覧の通り私達は南国帰りで訳ありですけど、決して怪しいものではありません。だからなにも言わずこのまま泊めてください」
職務に忠実なボーイは丁重にお断りした。

 さらに一時間ぐらい経った頃である。今度は制服を来た男女がやって来たのだ。男は学ラン、女はセーラー服で頬を吊り上げてニコニコして見せたが勿論帽子とマスクで顔は隠されている。男が言った。
「ご覧の通り私達は学生で怪しいものではありません。訳ありなので、なにも言わずこのまま泊めてください」
職務に忠実なボーイは丁重にお断りした。

 さらに一時間ぐらい経った頃である。今度はホームレス姿の男女がやって来た。二人ともボロボロの格好をしているが何故か帽子とマスクで顔は隠されている。男は言った。
「ご覧の通り私達はホームレスですが、訳ありなので、このまま何も言わずに泊めてください」
 職務に忠実なボーイは丁重お断りし二人が出ていくとさっさと玄関の鍵を閉めた。

 朝起きてドアの外を見ると今度は全裸の男女がいた。全裸であるが帽子とマスクはちゃんとつけている。彼らはガラスを叩き大声でこう言った。
「ご覧の通り私達は全裸ですが、訳ありなので、このまま何も言わずに泊めてください」
 職務に忠実なボーイは丁重にお断りした。


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