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別れ

 二人の間に電車が走って来る。踏切越しの二人。もう踏切は降りて渡ることはできない。さよならだね。そう彼女はつぶやいた。声にならない声。だけど彼は彼女の声を聞いた。はっきりと聞いたんだ。彼は彼女の名前を叫び彼女に向かって走り出す。ダメよ!彼女は彼に向かって叫んだ。その時引き裂くような音とともに電車が現れた。彼女は惨劇を予感して頭を抱えてしゃがみ込む。やがて電車は去ってゆく。彼女は恐る恐る顔を上げて線路を覗いた。誰もいない。やっぱりさよならだね。これでいいんだね。彼はきっともう帰ったんだ。私に本当のサヨナラを告げて。彼女は線路に背を向けて立ち去ってゆく。もう思い出は全てここに捨てよう。もういいんだ。その時彼女を呼ぶ声が地下から聞こえた。僕が君のところに行くまで待っててと声は言っている。彼女はその聞き慣れた声に驚いて今何処にいるのと誰もいない線路に向かって尋ねた。すると声は彼女に向かって答えた。

「僕にはやっぱり君が必要なんだ。やっと気づいたんだ。もう一度やり直そう!今、線路の下に穴を掘り始めたとこだからあと最低でも3日はかかる。それまで僕を待っていてくれ。僕の愛は線路なんかに負けはしない!」

 彼女は線路を渡って彼が掘った穴らしきものを見つけた。彼女は彼に向かって一生そこから出てくるなと怒鳴りつけると、シャベルで穴を埋めてそのまま去ってしまった。

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