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地仙大付属高校野球部の奇跡 第二話:はじめての練習

「いいか、最初にも言ったけど俺は決してお前らと仲良くする気はない。ただお前らに野球のいろはを教えるだけだ。お前らまず第一ページ『野球とは?』を開け」
 汗の立ち込める部室に部員を集めた新任監督の谷垣は野球本を部員全員に渡し野球とはどういうスポーツかを教え始めた。しかしそれは三年間野球に打ち込んできた部員にとって屈辱以外の何者でもなかった。なんで今更野球なんか勉強しなくてはいけないのだ。俺たちのやってきたものは野球ではなかったのか。耐えきれずキャプテンの横島が立ち上がり谷垣に言った。
「監督、なんだよこれは!俺たちをなんだと思ってるんだ!あのな、俺たちは三年間野球一筋に打ち込んできたんだ!今までの監督はそんな俺たちを温かい目で見守ってくれてたんだぞ!なのにあんたはそんな俺たちを幼稚園児かなんかみたいに扱いやがって!いい加減人を馬鹿にするのはやめろよ!」
 部員たちはキャプテンの横島に感謝の眼差しを投げた。そして自分達の思いを代弁してくれた彼をあらためて尊敬した。マネージャーの鳥子などはもう涙まで流していた。
 谷垣は横島の文句を無表情で聞いていた。やはりこの男は野球部のことなどどうでも良いのだ。もしかしたら噂どおりこの男は理事長連中から野球部を潰すために送られてきた刺客かもしれない。部員たちは谷垣を睨みつけ彼が口を開くのを待った。谷垣は目をつぶりしばらくそのまま黙っていたがやがて口を開いた。「あのな……お前らに質問があるんだけど……お前らストライクってわかるか?」
 部員たちはストライクという聞き慣れぬ言葉を聞いて動揺した。しかし彼らは高校生である。英単語ぐらい多少は理解しているのだ。横島はニヤリと笑い自信を持ってこう答えた。
「バカにしないでくださいよ。あなたは僕らをどこまで侮辱すれば済むんですか。僕たちは高校生ですよ。ストライクの意味ぐらい分かりますよ。『攻撃』って意味でしょ!で、それと野球がなんの関係があるんですか?」
 横島のこのキメ顔で放った一言に谷垣は衝撃のあまり言葉を失ってしまった。


《完》


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