音楽の価値

まず最初に盗作という小説を読み始めて最初に思った事は、言葉ひとつひとつがそれはもう美麗でその世界を肌で感じられる。と言う事である。
その場の情景が、鮮明に頭の中を彩る感覚に衝撃を覚えつつ読み進めていった。

私の人生は音楽でできている。そう言い切れるほど音楽を愛する私にとって、とても興味深い話だった。
この主人公は作者が何をしようと作品の価値が変わる事がない。と言う考えだった。
それでも大衆は作者と作品を結びつけて作品の価値を決める事も知っている人だった。
そして母親がいない事や父親が人としては良くない事で性格がどこか曲がっている。友達なんていらない。愛されなくていい。そう考えるが妻を亡くしどこかに大きな穴があって足りないものが分からないが必死に生きていた。
正しい人生だとか正しい音楽だとかそんな決まりがあってたまるものか。それぞれ違うからいいのではないか。私には想像もつかないような生き方をしたこの主人公の話はただただ面白かった。

主人公は自分のためだけに作品を完成させた。創作に正解はないのだから自分が心地よければそれでいいのだろう。ただそれが、人に理解され難い事でも、自分が良ければそれで良いと貫いて作品を最後まで創り遂げた主人公には尊敬さえ覚えた。
私はきっと、そんな風には生きられない。

『夏の匂い』その一言でぶわっと風が吹いてふわっと夏の匂いを感じる。本当に感じた。n-bunaさんは“良い文章からは季節の匂いがする” そう言っている。なら私にとってこの小説は本当にいい小説なんだと思う。本物のまぎれもない『夏の匂い』を感じた。そして私をその場所に連れて行ってくれたのだから。
この小説の文章はあまりに丁寧で、
その音。その風。その匂い。その光景。情景。を感じる。まるでその場に居合わせたような感覚に陥る。
言葉一言で心がざわつく面白く不思議で体験ができた。

物語の終盤『父は俺が作曲家として生きていることを知っていた』から私はなぜか泣いていた。今ですら理由も分からないけれど涙が溢れていた。
それからの話は実に難しかった。“そうなんだな”とある程度理解はできていると思うが意見なんてまるで出来ない。この物語の少年と同じ感じ方だと思う、難しくて分からない。少年はまだ純粋な方で、大人になればどうなるのだろうと気になった。ピアニストでもやってそうだと思った。まあそう簡単になれるものでもないか。
未来でもきっと、少年も、おじさんも、形はどうであれ満たされているのだろう。

小説も読み終わりまた盗作の音楽を最初から最後まで流した。
この小説を読むことで、このアルバムに収録されている数々の曲の背景が分かり、より一層曲への思いが深まった。月光ソナタが特にそうだ。最初はただのピアノだとしか思わなかったのに、少年が弾きたいと思って練習して弾いてた背景を想像すると小説を読まず初めて聴いた時の月光ソナタと全くの別物に思えた。
ただこれこそ演奏者の背景によって私の聴こえ方が変わってしまったのだ。その弾いた音の色が変わったわけでもないのに。ピアノソナタ第14番“月光”その音楽自体の価値に変わりはないのだろう。ただ今までこの曲に思いれなんてなかったが私はこの曲が好きになった。音楽の価値は何なんだ。
私がつける音楽の価値は主観でしかない、大衆がつけるものなんて多数決のようなものだ、と思う。
結局私には音楽の価値なんてものは分からなかった。


ただこれからも私が心地いいと思う音楽を、
聴き続ける。







言葉や、音楽、創作、結局わからない事だらけでした。ここまで読んでくださった方、拙い文章だったと思いますが、最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。誰に伝える文章かと言われればきっと自分のために書いたものなので綺麗なものではなかったと思います。ですがヨルシカの作品の美しさ伝わると嬉しいです。
『盗作』本当に素敵な作品ですよね。


#ヨルシカ_盗作レビュー