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隣り合わせの沈黙

花びらが散り過ぎてこのままでは花でなくなってしまうと嘆くときにはすでに、花は花でない。けれどもまだ花以外の名前をもたない

自分の声のかすれとか消えいるところにすんでいる誰かの声のおかげで、生きているという気がした

石に耳を押し当てたときに響くあの水の鳴るようなぴんと張り詰めた静寂は、いつもそばにあったのだと知ったとき、寂しくなくなった

石の中に花を咲かせることが、ことばをはなすということだった

石には石の静けさがあり、花には花の、あなたにはあなたの静けさがある
その静けさを沈黙させたくてことばを発するとき、その声に風のようにつきまとう無数の静けさ

ことばは沈黙を響かせる。それを聞き取ることがすでにその沈黙のこだまであるような沈黙を。

どんな花も、その入り組んだ隙間のどこかにふるえを隠し持っているものだ

煙のように砂を撒いて、いつか見た波が心の中で音もなくしぶきをあげる
しぶきのなかに光がこもる
無数のひとつひとつに違う光がこもりたがいに連絡することがない

結局あらゆることばの意味はどこにも行かないで、という呼びかけに行きつくのだろう
そうやってそのなにかを引き寄せて、そのそばで永遠に黙し続けることを夢見ている。隣り合わせの沈黙

そばにいることが忘れられてしまうほどのそばで、あなたといたい


読んでくれて、ありがとう。

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