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小説|8番ゲートのファン達

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「だから私はスタジアムに足を運ぶ。」それぞれの生活や人生の途中で気づけばこの場所にたどり着いた、十人十色の野球ファン達を描いたオムニバス形式の小説。
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2021年11月の記事一覧

小説|8番ゲートのファン達|二回「ナックルキャバ嬢の憂鬱」 #1

二回|ナックルキャバ嬢の憂鬱 #1 わたしは地元広島の高校を卒業し、上京して都内の看護専門学校に通った。看護の専門はだいたい3年。遊ぶお金はそんなになかったけど、都会の生活は刺激があって楽しかった。 3年生の夏、赤羽でナンパしてきた男と付き合った。 2歳年上のホスト崩れ。ダメ男はわかっていたけど、当時のわたしには行き当たりばったりの彼と一緒にいる時間がキラキラして楽しかった。 そして、絵に描いたようにお金だけ取られて消えた。 わたしには借金が残り、池袋のキャバクラでバイ

小説|8番ゲートのファン達|一回「プロ野球のある街、ライトスタンドの君」 #4

(前回まではこちら) 一回| プロ野球のある街、ライトスタンドの君 #4 9月半ば現在のベイスターズは4位。 ポストシーズンであるクライマックスシリーズ(CS)に出場できる3位以上に入れるかは微妙な位置。もし3位で滑り込んだとしても、CS開催は上位チームの本拠地で行うためハマスタで行う可能性は低い。 このままいけば9月3週目の週末が今シーズンのハマスタの最後だ。 僕は来年はまだ3年生なので観戦を考慮したスケジュールは立てられる。しかし、彼女の生活環境が変われば来年も会え

小説|8番ゲートのファン達|一回「プロ野球のある街、ライトスタンドの君」 #3

(前回まではこちら) 一回| プロ野球のある街、ライトスタンドの君 #3 また会えるかな?いや、また会いたい。 一週間経ってもその気持ちは消えなかった。 いつもあの場所で観ているのだろうか?たまたまあの席だったんだろうか? とりあえずハマスタに行かなきゃ始まらない。 隣でなくたっていい。 もう一度金券ショップに行ってもあの辺りの席のチケットがあるとは限らない。 やはりチケット争奪戦に参加するしかない。 これから発売するチケットは1か月先の8月の試合だ。 発売日になり

小説|8番ゲートのファン達|一回「プロ野球のある街、ライトスタンドの君」 #2

(前回まではこちら) プロ野球のある街、ライトスタンドの君 #2 えっと、8段目のーー。 チケットに書かれた席番をみつけて座る。 フィールドが近くて見やすい席だ。 続々とユニフォームに身を包んだファンが少しずつ席を埋めていく。 その多くが、僕のように席を探す素振りもなく、まるで教室の席であるかのようにスムーズに座っていく。つまりほとんど常連だ。 ユニフォームを着ていない自分がニワカファンっぽくて恥ずかしい気になるが、実際その通りだ。 再び視線をフィールドに向けると、一

小説|8番ゲートのファン達|一回「プロ野球のある街、ライトスタンドの君」 #1

一回 プロ野球のある街、ライトスタンドの君 #1 野球に興味なんてなかった。 そんな僕が、この夏、横浜スタジアムに通った。 ******** 2018年現在、僕は京浜急行の金沢八景にある私大に通っている2年生だ。 地元長野の県立高校を出て、本当は東京の大学に行きたかったが都内の本命に落ちたので滑り止めのこの大学に通うことにした。 それまで横浜に来たことは一度もなかったが、東京の隣の大都市だし、みなとみらいのようななイメージがあった。 知っての通り、長野にはプロ野球チ