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ビヨンセ、初のカントリー賞を獲得

8枚目のスタジオ・アルバム『カウボーイ・カーター』が今年の2024年ビルボード・ミュージック・アワードで受賞し、初のカントリー賞を獲得

カントリー・ミュージック・アワードで受賞を逃したビヨンセが、ビルボード・ミュージック・アワードで初のカントリー・ミュージック賞を受賞しました。ビヨンセが2024年にリリースした『カウボーイ・カーター』でカントリー・ミュージックのジャンルに進出したことで、喝采と批判の両方が集まりちょっとした騒動になったのが今年の始めでした。そのことで早い段階で記事をnoteに書いたことから、J-WAVE『SONAR MUSIC』のゲストコメンテーターとして声をかけていただき、番組に出演しました。「カントリーとポップ・ミュージックの現在地」をテーマに、ビヨンセ、テイラー・スウィフトらを取り上げ、約1時間のトークを行なわせていただき今年のスタートとして嬉しい仕事をさせていただきました。そこがきっかけもあり、秋には『カントリー・ミュージックの地殻変動──多様な物語り』河出書房新社、ディスクガイド寄稿という仕事もさせていただきました。

今年は、アメリカの音楽市場ではことあるごとにビヨンセの楽曲はカントリーか否かという話題もあったのですが、本人から「私の曲はビヨンセの音楽である」という表明が出て一度沈静化したかのように思われました。が、カントリー協会であるCMA( Country Music Association )が主催するアワードでは受賞おろか、そもそもカントリーのジャンルから彼女ははずされていたのです。その理由は推測するに、通常のアルバムリリースがカントリーではないということ、1枚だけカントリーというリリースであってもカテゴリーとしては従来のビヨンセのジャンルの枠であることから、カントリーというジャンルには入れなかった、今回のアルバムは企画なのではないかという見方だったのではと、良い解釈をすればそうなりますが、実際は、どうだったのだろうと思っていたりします。CMAの賞の決め方は調べた感じでは選考委員が7000人前後いてその人たちの投票とあります。最近はどうなのかわかりませんが、つまり、売上という数値化ではなくて人の感情が挟まってくると、古くからのカントリーミュージックは白人の音楽であるという根底の意識を持っている人たちにとって、白人以外の参入についての解釈はどうなんだろうというところがポイントだと思います。そもそも、アルバムリリースをした時に、一部の地域のラジオ局ではカントリーとしては流さないと宣言したところもあります。つまりはそういうことなんです。

彼女のカントリーとしてのアルバムは2枚目となる。強い決意を感じるアルバム

ビヨンセ自身がどこまでカントリー業界で受賞を意識してリリースしたのかはわかりませんが、少なくとも、このアルバムは”カントリーを意識したビヨンセ”をどうカントリーコミュニティが受け入れるかという問題定義は十分したと思います。そして、この数年はほぼ白人の音楽業界のカントリーにテキサスやナッシュビル出身の非白人系の歌手やグループが多く曲を発表しているので彼らの動向にもいい意味で影響を与えていたと思います。彼らは大きな賞を受賞こそしてませんが、現在のカントリーチャートにそこそこの結果を残し、この1年においてはナッシュビルの音楽業界に参入してきたヒップホップの歌手たちもカントリー歌手とコラボレーションをした曲を多くリリースし、その代表がポスト・マローンであったりシャブージーであったりします。

今回のビヨンセの黒人女性として史上初のカントリー・ヒット曲とこの受賞はきっとそんな彼らの今後の活躍に大きな力を与えてくれるに違いありません。

このアルバム「カウボーイ・カーター」は、最優秀カントリー・アルバム賞、最優秀カントリー・ソング賞(「Texas Hold 'Em」)、最優秀カントリー・ソロ・パフォーマンス賞(「16 Carriages」)、アルバム・オブ・ザ・イヤーなど、グラミー賞にノミネートされています。アルバムの中には、カントリーレジェンドであるドリー・パートンの「JOLENE」をビヨンセ自身の体験をもとにした歌詞に書き換えて歌っているものもあります。

グラミー賞で年間最優秀アルバム賞と最優秀カントリー・アルバム賞にノミネートされ、ビヨンセが11部門にノミネートされることが発表され、彼女のキャリア通算ノミネート数は99に達し、グラミー賞史上最多ノミネートアーティストとなりました。

ちなみに、他の受賞者ではテイラー・スウィフトが<トップ・アーティスト>を含む10部門を受賞し、キャリア通算49回となる番組史上最多受賞アーティストとなっています。テイラーに次ぐ受賞者は、5冠のザック・ブライアン、4冠のモーガン・ウォレン、そして3冠のシャブージーとカントリー歌手が続きます。バッド・バニー、ドレイク、エレベーション・ウォーシップのアーティストも3冠で並んでいます。ちなみに、ビルボードで1位を17週連続キープし続けているシャブージーの「A Bar Song」はCMAでは最優秀新人賞受賞ならずですが(17週1位の彼が落ちてMegan Moroneyが受賞はいかがなものか)、ビルボードでは年間最優秀楽曲賞、最優秀カントリー・ソング賞、最優秀カントリー・ソロ・パフォーマンス賞を含む2025年度グラミー賞の6部門にノミネートされています。

シャブージーはナイジェリア移民の両親の元に生まれバージニア州で育ちましたが、本名はコリンズ・オビナ・チブエゼと言います。しかし学生時代に誰もが彼の名前をきちんと発音してくれずニックネームからシャブージーという名前になりました。そしてCMAの授賞式でさえも、出演者や司会者はシャブージーの名前についての理解をせず、いわば黒人文化についての意識の希薄さが明白になるようなトーク(名前をもじったダジャレ)が繰り広げられていました。その辺りを見ると、CMAでは黒人によるカントリーソングはあくまでも枠には入れてあげるが受賞はなし、という選考役員の意識、、みたいなものがすけて見えてしまっているのではと思わずにはいられません。ビヨンセがCMA賞のノミネートから漏れたとき、シャブージーは彼女を擁護するためにこんな投稿をしました。「私たちのためにドアを開けてくれて、会話を始めてくれて、史上最も革新的なカントリー・アルバムのひとつを贈ってくれたビヨンセに感謝します!」

シャブージーがカントリーの中で地位を確立するにはまだ時間がかかるかもしれません。XやThreadsでも一般の音楽ファンが「ナイジェリア人がカントリーを歌う意味はなんだ」という投稿さえ見られました。また、ラッパーであったポスト・マローンは、10年かけてラップからポップス、そこからカントリーへとジャンルを超えてきてようやくCMAの仲間入りをしたのでシャブージーがカントリー界で地位を確立するにはさらなる時間がかかりそうです。人種の壁が音楽の壁になることはエンターテイメントとしてどうなんだろうと思わされ、カントリーが大好きな黄色人種の私としてはなんだか考えさせられることばかりです。

ちなみに、CMAの受賞には、カントリーミュージックアソシエーションの7000人近いメンバーが選考委員として参加しているそうです。
ビルボードはCDやレコードの売上枚数、ダウンロード数、ストリーミング数、MV再生数などをスコア化してランキング付が基準になっています。


第67回グラミー賞は2025年2月初旬に開催です。シャブージーがリスペクトするビヨンセ、ビルボードのカントリーを全制覇する勢いで受賞したら今後のCMAの関係者の対応が変わるのかが気になるところです。

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石田美也:Country Music Lab
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