窓から眺める桜

今年も桜の季節が訪れた。桜はなぜ人の心を奪うのだろう。私に一度も綺麗と好きな人は言わなかったけど、桜には綺麗と呟く。

私の名前が楓だからだろうか、楓も綺麗な花だとは思うけれど桜の美しさ儚さを視界に捉えると敵わないなと切に思う。

心を寄せていた春樹は毎年春になると東京からここ大阪の病院に来てくれて私の身体を心配してくれていた。窓から見える桜を春樹と一緒に眺める時間と空間がとても愛しく思えていた。

そう、私にとって桜の季節は春樹と会える時期だから嬉しく思える。それと同時に10代の女性たる私でさえ桜の美しさには劣等感を覚えてしまう。

去年の春。こんなやり取りを春樹と交わした。
「ねえ、春樹は桜を綺麗だと思う?」
「そりゃ綺麗だろうよ。むしろ綺麗だと思わない感性の持ち主がいるか?」
「じゃあ、薔薇は?」
「綺麗。」
「そうね、それなら向日葵は?」
「綺麗というよりは見てて心が明るくなるわな。」
「ふうん、じゃあ楓は?」
「ああ、おれは赤くて綺麗、ん、何だよこの誘導は。」
「今私のこと綺麗って言ったね。はは。」
「そんなこと言ってないし。発想が小学生の男子並みじゃんか。」
「そんなことないよ。こうやって場が和んだし。」
「そうだとしても。なんか引っかかって悔しい。」
「まだまだ私の方が上手ね。」
「そうですね。ん、楓はさ。」
「何?」
「何でもない。なんか言おうとしたけど忘れた。」
『思い出しなよ。」
「忘れたから思い出せないよ。楓こんなキャラだっけ。小学4年生までしか一緒じゃないからそれ以降の楓を知らないけどさ。」
「そうだね、今中学2年生だから4年も経ってるんだね。こうやって会うのも桜の季節だけだし。」
「桜の季節だけか。あのさ、おれ夢があるんだ。聞いてくれる?」
『いいよ。」
「おれ将来医者になるから。医者になって色んな人を救いたい。それで。」
『それで何よ。」
「楓の顔見たらなんか続き言いたくなくなっちゃった。また、来年会えるよな?」
「会えるよ。私は闘病生活を頑張るし春樹と会えるこの季節とこの時間が好きだから。」

春樹の顔が紅潮しているのが分かる。
「今の春樹は楓より赤いね。」
「うっさいな。ペース乱れるわ。」
「ふふ、楽しい。」
「そりゃ良かったな。おれもお前が楽しそうで嬉しい。うん。また会いに来るから元気でな。」
「うん、春樹も元気で。次会うときはもっと元気な姿を見せるから。」

これが昨年の春に春樹と交わした会話だった。昨年の思い出にふけっていたところ、ドアが開く音がした。一段と大きく見える春樹が立っていた。
「春樹。」
「そんな大きな声出すと体に響くぞ。楓久しぶり。」
「今年も会えたね。」
「ああ、今年は受験も無事終えて進学校へ進学できることが決まったよ。夢への一歩を歩み出すよ。」
「春樹は凄いね。私なんか取り残された気分だよ。」
「そんなことない。俺は楓がいたから頑張れたし未来を想像できる。」
「どういう意味?」
「少し遠い未来だけど俺は医者になる。医者になって病を抱えながらも強く生きている人を助けたい。」
「なんで、なんでそんなこと言うの?私に同情してるの?私のせいで医者を目指すの?
「同情で小学5年から大阪へ行くほど俺も善人じゃないさ。それに医者になると決断したのは俺の意思だ。楓。」
「はい。」
春樹は手のひらを窓の外へ突き出し舞い散る桜を救った。
「桜の美しさも楓の存在には敵わない。花の楓じゃない、目の前にいる楓が好きだ。」
「春樹。」
彼の名前を呟いて涙を流した。楓は桜を綺麗だと認められる日が遂に訪れたことに感極まった。楓の頭には桜の葉が祝福するかのように降ってきた。

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