長編シナリオ「遠かったクランク・イン」第1話

どうもhikaruです。毎週火曜更新を心がけていたのに遅れてしまいました、すいません。こんなどうしようもないシナリオたちですがスキとしてくださる方がたくさんいてとても嬉しい限りです。今後とももしよろしければ読んでやってください。

さて今回は、ロードムービーです。難しかったです。しかも厨二病みたいなタイトルになってしまいましたw 技術的にはまだまだだし、つたないところもあるんですが自分なりには割と思い入れがある作品です。熱意だけで書ききりました。ヤクザと少年の旅路です。長いので全4話に分けます。それではどうぞ。

○浜辺
   雨雲が広がり、季節外れの海には男が
   二人。
   背広姿でサングラスをかけた金森ヤス
シ(33)と夢中で何かを忘れようと
するかのように、ゲームをしている今
野健太(12)が、砂浜に並んで座っ
ている。
   遠くの方に車が一台止まっている。
   内ポケットから、煙草の箱を取り出す
   金森。
   一本取り出し火を点け、うまそうに吸
う。
   金森を時折気にする健太。
   寄せては返す黒い波。
   その波を見ている金森。
   健太もゲームをやめ黒い波を見る。
   大きく煙を吐き出す金森。
   煙が健太の方にいき、大げさにむせる。
   金森は、笑いながら健太の方にわざと
煙を吐き出す。
   むせる健太、金森を睨みつける。
金森「死んだりしないから」
   驚いた顔になる健太。
健太「死ぬんだって! 知らないの?」
金森「あっ、そうなんだ」
   二人の沈黙、波の音だけ。
健太「あっそう。じゃねえよ!」
   金森、思わず吹き出す。
   つられて笑う健太。
金森「そろそろだな……」
   とふいに立ち上がる。
健太「え?」
   悲しそうな目で金森を見つめる健太。
   サイレンの音が遠くの方で聞こえ、だ
   んだん音は大きくなっていく。
   金森は血の海に立っている。

タイトル「遠かったクランク・イン」

○映画館内(回想)
   幼い頃の金森と、大庭秀樹が映画を観
ている。
   まばらな客達。
   金森は画面に見入っている。
   大庭はその金森の横顔を見て満足そう
   な様子。
   映画は白黒の時代劇である。
   獅子島の大立ち回りのシーン。
   目を輝かせて見ている金森。

○同・映画館のロビー(回想)
   観客が劇場から出て来る。
   その中に大庭の姿も。
   辺りを見回す大庭。
金森「ニワちゃん!」
   大庭、金森の声に気付き振り返る。
   金森はチラシ棚の近くにいる。
大庭「もう心配しましたよ」
   チラシ棚でチラシを見ている金森。
   大庭もやってくる。
大庭「どうしたんですか?」
金森「ここ行く」
大庭「行くって……」
   チラシには、「映画スター獅子島三郎、
1日限りの映画村ショー」と書いてあ
る。
 
○映画村・ステージ(回想)
   時代劇のショーが行われている。
   年老いた獅子島三郎の大立ち回り。
   見入っている最前列の金森、大庭。
   まばらな客。
   ×   ×   ×
   ショーが終わり、獅子島三郎がステー
   ジ上で話をしている。
獅子島「……実はですね……今日のショーを
限りに引退を考えてましてね……」
   愕然とした表情になる金森。
獅子島「もうそろそろ潮時なんじゃないかと
 考えてまして……」
   金森に気付く獅子島。
   金森は必死に首を横に振っている。
   獅子島は、金森に「ステージに上がっ
ておいで」と手招きする。
   金森は、大庭を見る。
   優しい笑顔で頷く大庭。
   ステージ上に上がる金森。
獅子島「君、夢は?」
金森「獅子島さんみたいな役者になることで
 す!」
   獅子島、驚きそして笑顔。
獅子島「だったらこれをあげよう」
   脇にさしてあった模擬刀を金森に渡す。
   金森、大人サイズの模擬刀を両手に抱
   える。
獅子島「がんばりなさい」
金森「はい!」
   両手に模擬刀を抱えた金森、真っ直ぐ
   な眼差し。

○走行している車内(現代)
   後部座席で模擬刀を両手に抱えて緊張
   している現在の金森。
   運転している舎弟の片桐実(24)、バ
   ックミラー越しに金森の様子を見る。
実「殴りこみにいくんじゃないんですから」
金森「あ?」
実「そんなの持って」
   と模擬刀に目をやる。
金森「(気付いて)ばかやろう、これは模擬刀
だ」
実「あっ、模擬刀なんすか」
金森「ああ」
実「何でそんなの持ってんですか?」
金森「関係ねえだろ、お前には」
実「そりゃそうですけど……」
金森「黙って運転しろ。今日は安全運転でな」
実「分かってますよ。でも、いいかげんバレ
ますよ。組長に」
金森「もう、バレてるよ」
実「え、バレてるんですか。組長も優しいな。
 こんな無駄な事なのに……」
金森「何か言ったか?」
実「いえいえ……」
   金森の緊張した顔を見て、苦笑いの実。

○あるビル・駐車場
   金森と実を乗せた車が止まる。
   実、降りてすぐに後部座席のドアを開
   ける。
   模擬刀を持って金森が降りてくる。
   ビルの正面入り口付近で煙草を吸いな
   がら電話していた男、刀を持っている
   金森に気付き、驚いて煙草を落とす。
   睨みを利かせる金森。
   男はその場に完全に固まってしまう。
   男の持っていた電話からは「おーい、
どうした?」の声が聞こえる。
実「金森さん、刀、刀!」
金森「うん? ああ……」
   模擬刀を車に投げ入れる。
   ビシッとスーツ姿できめている金森。
実「頑張ってください! ここで待ってます
 から!」
   黙ってビルに消えていく金森。
   見送り、入り口の立て看板の所に行く
   実。
   側にはまだ固まっている男。
   看板には「『死に行く男達』オーディシ
   ョン会場」と書かれている。
実「これって、どんな映画?」
男「……」
実「おい!」
男「は……はい!」
実「どんな映画かって聞いてんの」
男「えーと、ヤクザ映画です……」
実「ヤクザ映画……これはもしかしたら、い
 けるかもな……」
男「はい?」
実「今、俺あんたに質問したか?」
男「いえ……」
実「だったら黙ってろよ。死にたくないだろ」
男「……」
   男、恐怖のあまりその場から立ち去ろ
   うとする。
実「どこいくの?」
男「え? いや……」
実「たばこ」
   煙草を吸う真似をする実。
男「え、はい、どうぞ」
   煙草を一本実に差し出す。
男「では……」
実「火」
男「は…はい…」
   ライターで火をつける男。
   男、一礼してその場を後にしようとす
   る。
実「おい」
男「は」
実「一本ぐらい付き合えよな」
   といやらしい笑顔。
   男、恐怖のあまり顔がひきつる。

○ビル・廊下
   ずんずん進んでいく金森。
   廊下を歩いている人はみな金森にビビ
   り道を空ける。
   金森、緊張している為に余計に怖い顔
になる。
   ある部屋の前で「オーディション会場
   はこちら」と書かれた張り紙を見つけ
る。
   部屋の前に椅子が数脚あり、緊張した
顔で、受験者達が座って待っている。
   部屋から、受付表を持った女が出てく
   る。
女「受験者の方は私の所でお名前を仰ってく
 ださい」
   金森、女に近づく。
   女、驚く。
女「あの……わたしアルバイトで……その、
 すいません。何も知らないんです」
金森「はあ?」
女「あの……その……もしかして話いってな
 かったりとか……ですか?」
金森「あんた、何言ってる?」
   金森、緊張のあまりかなり怖い顔にな
   る。
女「助けてください。お願いします。私知ら
 なくてここにあなた様の事務所があったな
 んて……すいません。許してください」
金森「受付だろ、お前」
女「え? 受付?」
金森「金森ヤスシだ」
女「え? え? 金森さん……ほんとだ、あ
 った」
金森「それで、どうしたらいいんだ?」
女「え? あ、はい。私てっきりこっちの人
で、ここのビルに事務所があって怒って出
てきたのかと思っちゃって……」
金森「おい」
女「あ、すいません。では順番に御呼びしま
 すのでこちらでお並びください」
金森「俺の事務所はここじゃねえよ……った
 く」
   女、部屋に入ろうとしたが振り向く。
女「え?」
   と顔がひきつる。
   金森、ドカッと最後尾の椅子に座る。
   隣の男、明らかにヤクザの金森を見て
驚く。
金森「よろしくな」
男2「は……はい」
   ×   ×   ×
   徐々に前の男達が呼ばれていき、金森
   が一番前の椅子に座る。
   女、部屋から出てきて、受付表を見る。
一瞬嫌な顔をする女。
女「(小声で)金森さん」
   金森、声に気付かない。
女「(おそるおそる)金森さん」
金森「ああ!」
女「ごめんなさい、ごめんなさい……名前呼
 んでごめんなさい」
金森「いや、それはいいだろ。じゃ入るぞ」
   ノックする金森。
男の声「どうぞ」
   部屋に入る金森。
   三人の男が座っている。
   左から、脚本家の米林正義、監督の谷
口光弘、プロデューサーの藤田肇が座
っている。
それぞれの机の前に名前が書かれた
紙が貼られている。
   中央に椅子。
   金森の登場により呆気に取られる3人。
   立っている金森。
金森「座るぞ」
藤田「はい、どうぞ、どうぞ」
   と言って額の汗を拭く。
   米林は開いた口が塞がらない。
   谷口だけは目を光らせている。
藤田「はい、ではオーディションを始めます。
 まずお名前は?」
金森「金森だ」
藤田「はい、金森さんですね。ではまず監督
 の方から簡単にこの映画についてご説明を」
谷口「はい、監督の谷口です。えーと、この
 映画はヤクザ映画でして、主人公の組の抗
 争相手の親分の娘と主人公が恋に落ちてし
まう物語です。まあ言ってしまえばロミオ
とジュリエットを下敷きにしていまして
……」
金森「そんな事はありえん……」
谷口「え?」
金森「いや、続けてくれ」
谷口「それでですね……主人公の男はどんな
 男かと言うとですね……」
   そのまま黙り込む谷口。
金森「?」
藤田「谷口さん?」
谷口「いや、もういい! 実はですね、あな
 たの事を一目見た時からもうこの人でいこ
 うと思ってしまって……」
金森「本当に?」
   喜ぶ金森。
   ようやく米林が口を開く。
米林「私も……」
谷口「だから、早速演技を見せて欲しいんで
すね。前もって送らせていただいたシナリ
オは覚えていただけましたか?」
金森「1シーンだけだろ。もちろん、完璧だ」
谷口「よし、じゃあ私が相手役の台詞を言い
 ますので早速やってみましょう。じゃあシ
 ーン33、主人公の順が夜中、美香の部屋
 に向かって声をかけるところをお願いします。それじゃあ金森さんから!」
   立ち上がる金森、ゆっくりと襟を正す。
   3人は身を乗り出して固唾を呑む。
   大きく口を開く金森。

○ビル・正面
   実と男が煙草を吸っている。
   萎縮しまくっている男。
   灰皿には大量の吸殻が。
   実、吸い終わり灰皿へ。
実「次」
男「は……はい」
   男、箱から煙草を取り出そうとする。
実「次だって」
男「え、え」
   箱は空になっている。
男「あの……もう……勘弁してください」
実「無い? どうなるか分かってんの」
男「いや……すいません、すいません」
   男はもう恐怖のあまりに訳が分からな
   くなっている。
実「あ、金森さん」
   意気消沈した金森が出てくる。

○同・オーディション会場
   米林と藤田が笑いながら話している。
   一人、真剣な顔で考え込む谷口。
   藤田、谷口の肩に手を置く。
藤田「もう諦めなって。あんな大根演技じゃ
 どうしようもないって」
米林「見かけ倒しなんだもんなぁ。期待して
損しちゃったよ」
谷口「でも……練習させれば……」
藤田「だめだめ……才能の欠片もないよ、あ
 れじゃあ」
外からの声「てめえ、ぶっ殺すぞ! 死にて
 ぇのか!」
   3人驚いて、窓の方を見る。
   金森が実の胸ぐらを掴んでいる。
   その様子を嬉々とした表情で見ている
   谷口。
谷口「ほらほら、完璧だよ。これで!」
   と藤田、米林の顔を見る。
   二人、ビビッて声にならない。
谷口「ちょっと俺、連れ戻します!」
   走って出て行く谷口。
藤田「谷口さん、ちょっと!」

○同・正面
実「そんな怒らないでもいいじゃないですか。
 やっぱり駄目だったんですか? って聞い
 ただけなのに」
金森「うるせぇ、さっさと車出せ! 帰るぞ」
   金森の声にビビリ失禁してしまった男。
   車に乗り込む実と金森。
   車、発進する。
   走って谷口が出てくる。
   間に合わず、名残惜しそうに車を見つ
める。

○車中
   運転している実。
   後部座席で、遠くの空を見ている金森。
   バックミラー越しに金森を見る実。
実「じゃあこのまま事務所行きますね」
金森「いや、いい。どっかで降ろしてくれ」
実「又ですか、最近全然顔出してないじゃな
 いですか」
金森「いいんだよ……」
実「もう引きずりすぎですって。次は大丈夫
 っすよ」
金森「……」
実「何か変な事考えてませんよね、金森さん」
金森「何の事だよ」
実「いや……」
   金森の実に対しての厳しい目。

○映画館・劇場内
   古い時代劇が上映されている。
   まばらな客。
   浪人の格好をした獅子島が出ている。
   見入っている金森。

○同・外観(夕)
   金森が出てくる。
   すぐにさっと涙を拭う。
   夕焼けを見ている。

○夕焼け

○川の前にある欄干(夕)
   字幕「数日前」
   欄干に凭れて煙草を吸っている金森。
   行き交う人々を虚ろな目で眺めている。
   隣にはダンボールを敷いて寝ているホ
   ームレス。
   半分以上残っている煙草を捨てる金森。
   パッと飛び起きるホームレス。
   周りをキョロキョロして、今捨てた煙
   草に飛びつく。
   消えそうになっている火種を必死に吸
   い、また火をつけた。
   一口吸い、幸福そうな顔になる。
   そのホームレスは片腕が無く、顔に大
   きな傷を負っている。
   いきなりホームレス2、3人が裏から
出てくる。
   片腕のホームレスから煙草を奪い合う。
   冷めた目で見ている金森。
片腕の男「てめぇら! 何しやがる!」
   数分間の格闘の末に一番体が大きいホ
ームレスが、奪い取りうまそうに煙草
を吸っている。
   散り散りになっていくホームレス達。
   片腕のホームレス、うずくまっている。
   そこに、煙草が一本差し出される。
   驚いて金森の顔を見る片腕のホームレ
   ス。
金森「ほら」
   黙って口にする片腕の男。
   火をつけてやる金森。
   うまそうに吸う片腕の男。
   ふと片腕の男、金森の顔を見つめる。
   金森の顔に気付き、驚いて煙草を落と
   してしまう。
片腕の男「ヤ……ス……シ?」
金森「?」
片腕の男「お前、ヤスシか?」
   落とした煙草を拾いにくる先ほどの争
   いに負けたホームレス。
   煙草を手にして、笑顔で去っていく。
金森「?」
片腕の男「大きくなったな……」
   涙ぐむ片腕の男。
   内心驚いているが顔に出さない金森。
金森「人違いだ」
片腕の男「そうか……違うのか……似てたん
だけどな、ヤスシの奴に」
金森「それじゃあな」
   去ろうとする金森。
片腕の男「親を殺されて仇討ちもせずに、こ
んな所でブラブラしてるのがヤスシなわ
けねぇや……」
   片腕の男、歩き出す。
   金森振り返る。
金森「親殺し?」
   片腕の男も振り返る。
片腕の男「ああ、ヤスシの親は殺されたのよ。
 大庭って野郎にな。何であんな事したのか
 ……。あいつは親分にあんなに良くしても
 らったくせに、最低な奴だよ。おかげで、
 親分に一番近かった俺はこの有様さ」
   と無くなった方の腕を見せる。
   無い腕を見ながら、冷汗をかいている
金森。
   顔面蒼白である。
片腕の男「お前やっぱりヤスシじゃないの
か?」
   いきなり胸倉を掴む金森。
   一瞬の事で驚く片腕の男。
片腕の男「おい、なんだよ!」
金森「今の話……」
片腕の男「?」
金森「今の話……本当だろうな?」
片腕の男「……」
金森「騙したら許さねぇぞ! 本当の話だろ
うな!」
   胸倉を掴む手に力が入る。
片腕の男「(苦しそうに)ほ、本当だよ!」
   手を離す金森。
金森「そうか……」
   去っていく金森。
   振り返らずに
金森「溝口のオッサン達者でな」
溝口「お前、やっぱりヤスシ……」
   金森の姿見えなくなる。
   立ち尽くす溝口。

○川の前(現代・夕)
   川の前に、平行にベンチが二つ並んで
   いる。
   ベンチに腰かけ、煙草を吸っている金
森。
   ボーっと川を眺めている。
   そこにランドセルを背負った健太がや
   ってくる。
   金森が座っているベンチの別の方に座
   る。
   二つのベンチには少しの空間がある。
   ランドセルから取り出した携帯ゲーム
機を夢中でし始める健太。
   健太の方には見向きもせずに煙草を吸
   う金森。
   一筋の涙が頬を伝う。
   金森が気になり、チラチラ見る健太。
   金森は、川を見続けている。
   そこに携帯ゲーム機が差し出される。
   金森、驚いて健太の顔を見る。
   受け取ってしまう金森。
   健太、元のベンチに戻る。
金森「おい、なんだよこれ」
健太「対戦」
   健太、ゲームを再開する。
   金森のゲーム画面が始まり出す。
   仕方なくゲームをする金森。
   ×   ×   ×
   夢中になっている金森。
金森「なんだよ、お前強いな」
健太「おじさん……」
金森「なんだよ、手でも抜いてくれるのか」
健太「全然、ヤクザっぽくないね」
金森「……」
   健太のゲーム画面。
   レーシングゲームで健太が勝っている
   ようだ。
   逆に金森の手から携帯ゲーム機が差し
出される。
   受け取る健太。
金森「これも仕事なんだよ。ガキにはまだ分
 からないだろうがな」
健太「分かるよ」
金森「(笑って)お前は将来やりたいことをや
 れ」
   去っていく金森、後ろ手に手を振る。
   金森を見ている健太。
   健太に若い女2人組が声をかけ、色紙
を渡している。
   サインを書いている健太。
   声に気付き、健太の方に振り返る。
金森「(呟く)なんだ……あいつは」
   頭を掻いて去っていく。

○事務所(夕)
   実が帰ってくる
実「ただいま、戻りました」
   4人の組員がテーブルを囲み煙草を吸
   って談笑している。
   一人の兄貴分、吉野が実に気付き
吉野「実、親分が話があるってよ」
実「はい、どうもです」
   奥の部屋に行く実。
   年長の田島が笑いながら
田島「おい、実今日はパパと一緒じゃないの
 か? 金森パパとよ」
実「……」
   実、奥の部屋に入っていく。
   笑っている組員たち。

○同・組長の部屋(夕)
   実、入ってくる。
   大庭はちょうど腕にヤクを打っている
所だ。
大庭「おお、実。ちょっと待ってくれや」
   大庭は昔の頃の面影は無く病人のよう
   な顔をしていて、やせ細っている。
実「はい」
   実、大庭の前に立つ。
   大庭、注射を打ち終わり恍惚とした表
   情。
大庭「ふぅ……で、金森の野郎は何か変わっ
 た動き見せたか?」
実「いえ、何も」
大庭「今日はどこへ行ってた?」
実「いつものオーディションを……」
大庭「そうか、あいつめ。いつ尻尾を出すか」
実「オーディションはいいんですか?」
大庭「ああ、まあな」
実「おかしくないですか? ヤクザが役者志
 望なんて……」
大庭「実よぉ」
実「はい?」
大庭「俺に意見していいって言ったか?」
   大庭、鬼の形相になる。
   実、大庭の長年にわたって蓄積された
ヤクザとしての凄みに縮み上がる。
実「いえ……」
大庭「俺が白って言ったら黒いものでも白な
 んだよ。これはどっかの映画の台詞みたい
 だな、よぉ実よ」
   と大笑い。
実「ええ……」
大庭「お前が金森と一番近いんだ、不審な動
 きを見せたらすぐ俺に知らせろ。いいな?」
実「は……はい」
大庭「そしたらお前もすぐに若頭だ」
   実、罪悪感からの暗い表情。

○事務所(夕)
   田島が不服そうである。
田島「どうして俺じゃなくて金森の方が上な
 んだ?」
吉野「それは……」
田島「おかしいだろ。俺はずっと親分の下で
 やってきた。それをあんな親父の息子を…
 …」
   実、奥の部屋から出てくる。
吉野「田島さん」
田島「ああ? 別にいいんじゃねえの、こい
 つに聞かれても」
   と実を蹴り飛ばす。
   実、倒れこむ。
   笑う2人の組員。
田島「お前変な目で俺を見るんじゃねぇよ」
実「すいません」
   実、口から血が出ている。

○マンション・金森の部屋(夜)
   そんなに広くない2LDK。
   風呂上りで、髪の毛をバスタオルで乾
   かしながら部屋に入ってくる金森。
   冷蔵庫から瓶ビールを取り出す。
   ソファに座り、瓶ビールを空けグラス
に注ぐ。
   上半身裸のために大きな刺青が見える。
   テレビをつけ、録画したドラマを見る。
   主役の男の顔がアップになる。
金森「(呟く)やるじゃねぇか、ニシジマ」
   グッとビールを飲む。

○大庭の夢
   事務所の組長室で、ウィスキーを飲み
ながら、葉巻を吸っている大庭。
   真っ暗な部屋。
   突如、ドアの曇りガラスに人影が映る。
   大庭、びくつく。
大庭「誰だ?」
   いなくなる。
   大庭の息が荒々しくなる。
   また人影が。
   大庭、机の下に隠れる。
大庭「(呟く)もう勘弁してくれよ……仕方な
 かったんだよ……」
   部屋のドアが開く。
   誰かが、部屋に入ってくる。
   大庭、意を決して机から這い出し、部
屋から走って出て行く。
   廊下を全速力で走る大庭。
   必死の形相。
   事務所のビルを出てもなお走り続ける。
   路地裏の薄暗い場所に出る。
   辺りを見回し、ほっとため息をつく。
   膝に手を当て苦しそうに息を吐く。
   目の前に気配を感じて顔を上げる大庭。
   と目の前に薄ら笑いの金森の姿が。
   金森は大きな日本刀を持っている。
   びっくりして腰を抜かす大庭。
   やっとの思いで立ち上がり、後ろの道
   を走る。
   だが、道があったはずなのに行き止ま
りになっている。
   尻餅をつき、金森に手をかざす。
大庭「待ってくれ、待ってくれよ。仕方なか
 ったんだ、な」
 薄ら笑いの金森近づいてくる。
大庭「頼むよ、な!」
   とかざしていた右手が飛ぶ。
   一刀両断されたのだ。
   痛がる大庭。
大庭「頼む、殺さないでくれ、な、頼むよ」
   金森、気味の悪い笑顔で刀を振り上げ、
そのまま一気に振り下ろす。
   大庭の首が飛んでいく。
   転がる大庭の首。
   大庭の視点になる。
   近づいてくる金森、首だけになった大
   庭を覗き込む。
   狂ったように笑う金森。

○事務所・組長室(夜)
大庭「はあ!」
   大庭、目覚める
   大庭は事務所の机の上に突っ伏して寝
   てしまっていたのだ。
   机の上には注射器。
   大庭、息を整えながらドアのほうに目
   をやる。
   何者も通らない。
   大きく息を吐く大庭。

                第2話に続く

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