長編シナリオ「遠かったクランク・イン」第2話

○墓場
   墓参りをしている金森。
   神妙な顔で墓の前で手を合わせている。
   背後の視線。
   振り返る金森。
   誰もいない。
   向き直り、ゆっくりと語りかける。
金森「親父よぉ……俺はどうしたらいいんだ
 よ……」
   少し離れた墓の隙間から実が覗き込ん
   でいる。

○事務所・組長室
   座っている大庭、嬉々とした表情。
   前には立っている実。
大庭「墓参り! やっぱりな。間違いない」
実「?」
   引き出しから包装された拳銃を出す大
   庭。
実「組長、これは」
大庭「分かるだろ、実。これも組の為だ。あ
 いつは俺を殺そうとしてる」
実「一体どういう……」
大庭「お前の考えなんかどうだっていいんだ
 よ。お前は言われた事をやるだけ、OK?」
実「……」
大庭「やっぱり気付きやがったのか、金森。
俺を殺そうたってそうはいかねぇからな」

○事務所
   組長室から実が青ざめた顔で出てくる。
   手には包装された拳銃。
   田島ら組員達、驚いた顔で見ている。

○繁華街(夜)
   実が酔っ払い、千鳥足で歩いている。
   手には缶ビール。
   前からチンピラ三人組が歩いてくる。
   実、フラフラとその中の金髪のチンピ
ラに肩があたる。
金髪「おい、お前肩当たってんぞ」
   実、振り返る。
実「ああ?」
   金髪の取り巻き2人も実を睨み付ける。
実「あは、死にたいんだ」
   実、猛然と金髪に殴りかかる。
   金髪、鼻の骨が折れ、倒れる。
   意識が無い。
   取り巻きの一人が心配して金髪の近く
   にいく。
チンピラ「おいおい、てめぇ何しやがった!」
実「一発かよ、ふふ……金森さんは倒れなか
 ったけどな。何発やってもよ!」
チンピラ「金森? てめぇ何言ってやがる!
 どうしてくれるんだよ、こいつ」
   実、チンピラの胸倉を掴む。
実「文句があるならいつでも来いよ。大庭組
 によ」
チンピラ「……やくざ……」
実「お前の顔覚えたからな」
   実、笑ってその場を去る。

○アパート・実の部屋(夜)
   六畳一間の物が散乱している部屋。
   すすり泣く声が聞こえる。
   実だ。電話をしている。
実「元気か……彩」

○彩の部屋(夜)
   岸田彩(23)が電話している。
彩「どうしたの? 実ちゃん……こんな時間
 に?」
実の声「怖いんだ……」
   怪訝な顔になる彩。

○実の部屋(夜)
彩の声「どうしたの?」
実「分からない……自分がどこにいくのか」
彩の声「今日の実ちゃん、おかしいよ」

○彩の部屋(夜)
実の声「(すすり泣き)……」
彩「……泣いてるの?」
   と心配になる彩。
実の声「ちょっとの間、電話させてくれたら
 いいんだ。そしたら俺うまくやれるから。
 そう、ちょっとでいいんだ。そしたら彩を
 迎えにいくから……」
彩「うん……うん」
   真剣に聞いている彩。
実の声「男になるんだ、本当の男に……金森
 さんみたいな……あ……」
彩「どうしたの?」
   電話が切れる。
彩「ちょっと、実ちゃん! もしもし! も
 しもし!」

○実の部屋(夜)
   切れた携帯電話を持っている実。
実「(呟く)俺は馬鹿だな……」

○彩の部屋(夜)
   切れている携帯電話のディスプレイを
   見ている彩。
彩「(呟く)金森さん……?」
   番号を押す。
   そして携帯電話を耳に持っていく彩。

○川の前(朝)
   金森が歩いてくる。
   ベンチに腰掛けている実。
   金森、実の隣に座り、煙草を取り出す。
金森「こんな朝早くなんだよ、実」
   と一服する。
   実の顔は朗らかだ。
実「すいません、いきなり呼び出して」
金森「ああ」
実「金森さん、最近事務所来ないからこうで
 もしないと会えなくて」
金森「仕事の時会えるじゃねえか。急な用
 か?」
実「まぁ……今日じゃないと俺もたなくて」
金森「もたない?」
   と怪訝な表情。
   実は、あからさまに会話を逸らす。
実「一番最初に会った時覚えてますか?」
金森「なんだよ、いきなり」
実「たまにはいいじゃないですか」
金森「忘れたよ」
   と次の煙草に火をつける。
実「僕は覚えてます」
金森「ぼく?」
実「(構わず続ける)何回も殴ったのに金森
 さん倒れなかった」
金森「だから忘れたって」
実「いちよあの時僕日本ランカーですよ。網
 膜剥離で駄目になっちゃったけど……」
金森「……」
実「僕の友達に間違って手を出しちゃって。
 それも金森さんの舎弟が……金森さんじゃ
 ないのに……俺の責任だって……。侘びを
 入れてきて……」
金森「おい、なんだ? そんな昔のくだらな
い話は」
実「くだらなくない!」
   金森、驚く。
実「全然くだらなくない! どうしたんです
 か! 最近の金森さんは」
金森「何がだよ」
実「急に仕事やる気なくなって。役者のオー
 ディションとか……」
金森「前から俺はやる気ねぇよ」
実「嘘だ!」
金森「いや、嘘じゃねえ」
実「でっかくしましょうよ。二人で組織を!
 あんなヤク中の親なんて……」
金森「おい」
   金森の目つきが変わる。
金森「オヤジを悪く言うなら、お前ぶっ殺す
ぞ……」
実「何でですか? 組長は……だって」
金森「?」
実「(興奮して)一体何をしたんですか! 金
森さん」
金森「はぁ? なんもしてねぇよ」
実「俺に話せない事なんですね……やっぱり」
金森「だから何の話だよ」
実「……」
金森「何考えてやがる?」
   黙りこむ実。
   後ろの方から、健太が歩いてくる。
   金森の姿を見つけ、急いで携帯ゲーム
機を鞄から取り出す。
   少し早足で金森に近づいていく健太。
金森「おい、実?」
実「うわぁ!」
   いきなり立ち上がる実、手には拳銃。
金森「おい、何の真似だよ」
実「うるさいうるさい……」
   金森に標準を定める実。
   後ろから目撃する健太。
   金森、静かな口調で
金森「オヤジか……」
実「……うるさい、うるさい! 黙れ」
金森「オヤジなんだろ」
実「(汗がびっしょりだ)……」
   金森、静かに目を閉じる。
   実の拳銃が発砲される。
   健太、金森の前に出て、庇う。
   金森、恐る恐る目を開ける。
   拳銃を手に持ち震えている実。
   倒れている健太。
   健太の右足から血が出ている。
   驚く金森。
   金森、健太を抱きかかえる。
金森「お前何やってんだよ!」
健太「……ゲーム」
   健太の側に携帯ゲーム機が落ちている。
金森「いいから」
健太「ゲーム」
   実はブツブツと独り言を言っている。
実「俺は悪くない……こいつが勝手に出てき
 たんだ……だから次は次は……」
   と銃口をゆっくり金森の方に向ける。
   しかし、手が震え、なかなか狙いが定
   まらない。
実「くそ……くそ……」
金森「おい、実! ガキは関係ないだろ」
実「クソ……くそ……」
金森「ちくしょう!」
   金森、ゲーム機を拾い意識が朦朧とし
ている健太に持たせる。
   そのまま健太を抱えて一気に走り去る。
   実、驚いて
実「おい! 逃げるな、おい……」
   ともう一発。
   狙いは外れる。
   実、動けない。
実「おい、行くなよ……おい……おい!」

○道(朝)
   金森、健太を抱えながら走ってくる。
   コンビニの駐車場の前を通る。
   エンジンがかかったままの車が停めて
   あることに気付く金森。
   急いで乗り込む。
   健太を助手席に座らせる。
   発進する。
   サイドミラーには、コンビニの袋を下
   げて何か言いながら追いかけてくる運
   転手と見られる中年の男。
   やがて見えなくなる。
   肩で息をしている金森。
   隣には気を失っている健太。
   健太をチラと見てからアクセルをさら
   に踏み込み、スピードを上げていく。

○健太の夢
   真っ暗闇の教室。
   スポットライトのように健太の机にだ
   け明かりがついている。
   一人、ゲームをしている。
   ゲームの音だけが響く。
   誰かが近づいてくる。
   金森だ。
   前の机に座り、相対する二人。
   金森とともにゲームをする健太。
   目が合い、笑う金森。
   つられて健太も笑う。
   スポットライトはいつしか二人になっ
   ている。

○走行中の車中
   健太、目覚める。
   金森は運転している。
   自分の足を見る健太、包帯が巻かれて
   いる。
金森「浅い傷だ。玉はかすめてる。大丈夫だ」
健太「ここは?」
金森「さぁ……大分走ったからな」
健太「……」
   座りなおして前方を見る。
金森「何であんな真似をした?」
健太「さぁ……」
金森「死んでたかもしれない」
健太「うん」
金森「お前、死んでたかもしれないんだぞ。
 本当に分かってんのか?」
健太「それは……別に……」
金森「……」
   間。
金森「とりあえず礼は言う。家はどこだ?」
健太「あんな家……」
金森「悪いけど、お前に構ってる暇はないん
 だ」
健太「……」
   黙って携帯ゲーム機を取り出す健太。
   ゲームをし始める。
金森「おい」
健太「……」
   ゲームをしている。
金森「……」
   急停止する。
   健太、構わずゲームをしている。
金森「降りろ」
健太「……」
金森「降りろって言ってんだ……」
   間。
金森「……」
健太「……」
   クラクションが鳴らされる。
   後ろにトラックが止まる。
   運転手が降りて、こちらにくる。
   車の運転席の窓を叩く運転手。
   窓を開ける金森。
運転手「おい、こんな所で止まってんじゃね
 えよ!」
   凄い形相で睨み付ける金森。
運転手「……」
   怯える運転手。
   黙って自分のトラックに戻る。
   対向車線から金森の車を抜いていく。
   腕を組む金森。
金森「お前が降りるまで動かん」
健太「……」
   間。
   健太、観念して降りる。
   猛スピードで走り去る金森の車。
   無表情で小さくなる車を見つめる健太。
   何もない田舎道。
   道路脇に逸れ、地面に座ってゲームを
する健太。

○田舎道
   ゲームをしている健太。
   何台もの車が通り過ぎていく。
   構わずゲームをし続ける健太。
   ある車が健太の目の前で止まる。
   ドアが開く。
   黙って乗り込む健太。
   健太を乗せ、出発する。

○走行中の車内
   金森、運転しながら助手席の健太をチ
   ラチラ見る。
   健太、ずっとゲームをしている。
金森「腹、減らないか?」
   頷く健太。
   やれやれといった表情の金森。

○ファストフード店
   ハンバーガーをほおばる健太。
   ハンバーガーをジロジロ見ている金森。
健太「食べないの?」
金森「ああ」
   まだ食べない金森。
健太「もしかして……食べたことないの?」
   ドキッとする金森。
金森「そんなわけないだろうが」
   食べる金森。
金森「まずい」
   健太、笑っている。
金森「笑うな」
   少女が二人、モジモジしながら来る。
金森「?」
   色紙を突き出す少女A。
少女A「サインくれませんか?」
金森「はあ?」
健太「いいよ」
   嬉しがる少女二人。
   健太、慣れた手つきでサインを書く。
健太「はい、どうぞ」
少女A「ありがとうございます!」
   一礼して去っていく二人。
   驚いている金森。
健太「ほしいの?」
金森「いるか」
健太「ファンって見境なく来るから困るよね」
金森「ファン?」
健太「うん」
金森「お前何者?」
健太「え?」
   俺の事知らないの? という健太の顔。
   ふと視線に気付く金森。
   店内の客がスマホを見ながらジロジロ
   見てくる。
金森「おい、そろそろ出るぞ」
   金森、健太、同時に席を立ちあがる。

○走行中の車内
   運転している金森。
   助手席の健太、スマホをいじっている。
金森「お前、いいかげん家教えろよ」
健太「……」
金森「分かってんのか、俺が誰だか」
健太「ヤクザ」
金森「?」
健太「でもやっぱり、っぽくないよね、おじ
さん」
金森「……」
健太「ほら、これだよ。さっきみんな見てた
 の」
   信号が赤になり、車止まる。
金森「なんだよ」
   スマホを見る、金森。
   驚愕。
   画面には「天才子役の今野健太君、行
   方不明」と書かれている。

○事務所・組長室
大庭「こらぁ!」
   蹴り飛ばされる実。
   すぐに土下座の姿勢になる。
大庭「この用無しが!」
実「すんません、すんません」
大庭「すんませんで済むか! このボケ」
   何度も何度も蹴られる実。
   血を吐く実。
大庭「お前、どうしてくれるんだよ! 仕返
 しに来たらどうすんだよ」
田島「金森のアニキぐらいで何言ってんすか、
 来たら俺がやっちゃいますよ、軽くね」
   ドアの近くにいつのまにか田島が立っ
   ている。
大庭「田島……」
   田島に近づいていく大庭。
   大庭、田島の前まで来ていきなり引き
   摺り倒す。
田島「組長……何を」
大庭「お前ごときが金森殺れるわけねぇだろ
 うが!」
   懐から拳銃を取り出し、田島のこめか
   みに突きつける。
   緊張している田島。
大庭「なあ! そうだろう?」
田島「はい……はい……すいません」
   組員達も直立不動の姿勢でその様子を
見ている。
大庭「今から、この組の最重要事項は金森殺
 しだ! こいつが何にも使いものにならな
 かったからな」
   と実の方を見る。
   実、血だらけで土下座している。
大庭「分かったら、さっさとどこにいるのか、
 探して来い!」
組員達「はい!」
   部屋から次々出て行く組員達。
大庭「田島、俺らも行くぞ」
田島「は……はい」
   田島、立ち上がる。
   大庭、田島出て行く。
   取り残される土下座の実。
実「(搾り出すような声)ちくしょう……金森
 め……」
   間。
   電話が鳴る。彩からだ。
   出ようとするが、やめる。
   こんな状態で愛する女と電話が出来る
   わけがない。
   そう思うと涙が出てくる実。
   鳴り続ける電話。

○コンビニ前・駐車場(夕)
   金森達の車が止まっている。
   金森、運転席で煙草に火を点ける。
   物思いに耽る金森。
   健太、いきなり入ってくる。
   助手席で袋からアイスを取り出し、食
べ始める。
健太「トイレ、混んでた」
金森「はぁ……そう」
   一服する。
健太「本当におじさん、ヤクザっぽくないね」
金森「ぽいって何だよ」
健太「固定観念」
金森「……お前もぽいって言われるの?」
健太「まあね。慣れっこだよ、そんなの」
金森「(考え込む)……」
   健太、食べ終わりゲームを始める。
健太「おじさん、死んじゃうの?」
金森「さあな」
健太「またあいつ来る?」
金森「あいつ?」
健太「うん」
金森「(一寸考え込む)ああ、実の事か?」
健太「実っていうんだ。友達だったの?」
金森「友達っていうのでは無かったけどな」
健太「みんな信用出来ないよ。信用なんかし
 てもしょうがない。無意味なんだ」
金森「そうだな……」
健太「僕もおじさんといたら死んじゃうのか
 な?」
金森「だから早く家教えろ。お前いいかげん
 帰れよ」
健太「良いんだ……それでも」
金森「そうか」
健太「止めないの? いたいけな子供なのに」
金森「それも一つの選択かもな」
健太「それでどうするの? これから」
金森「ちょっと確かめなきゃいけないことが
 ある」
   健太、コンビニの袋からマスクを取り
   出し、つける。
金森「?」
健太「顔バレちゃうから」
金森「(苦笑)」

○街(夜)
   中都市。
   やさぐれている中年の男が一服してい
   る。
   その目はキョロキョロ誰かを探してい
   るような目だ。
   男に近づいていく人影がある。
   いきなり後ろから掴みかかる。
   田島だ。
   後ろには組員たち。
田島「誰探してんだ?」
中年の男「田島さん……」
田島「ちょっと話そうな」
   無理やり、路地裏へ連れていかれる男。

○街(夜)
   金森の車が来る。
   誰か探している金森。
   ノロノロ動く車。
金森「あいつどこ行きやがった?」
健太「誰か探してるの?」
金森「そいつに聞けば街のたいていの事は分
かる」
健太「そんな回りくどい事しなくても自分の
 親分さんの所に行けばいいじゃないか、せ
 っかく逃げたのにまた戻ってきちゃってさ
……」
   金森、やれやれといった表情。
金森「お前、ませててもやっぱり子供だな」
健太「……まぁ好きにすれば」
   ゲームをやり始める健太。
金森「探してくる、まあ、ここにいろ」
   あまり人気のない道路脇に車を停める。
   ドアを空け、出て行く金森。
   人を探しながら街を歩く。
   ふと気配を感じ、路地裏の方を見る。
   入っていく。

○路地裏(夜)
   警戒しながら路地裏に入っていく金森。
   人の声が聞こえる。
   暗くてよく見えない。
   立ち止まる金森。
金森「実か?」
   返事がない。
金森「実! お前は誤解してるぞ。色んなこ
 とを」
   返事がない。
金森「?」
   間。
   ものすごいうめき声。
   事態を察知した金森。
   急いで駆け寄る。
   先ほどの中年の男が血だらけになって
   横になっていた。
   金森、男を抱きかかえる。
金森「おい、大丈夫か。矢島」
矢島「金森さん……逃げて……」
金森「なに?」
矢島「逃げて……まだあいつら……いる」
金森「おい、矢島!」
矢島「……」
   すでに矢島、事切れている。
   金森、憎悪の表情。

             第3話に続く

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