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Let me know

 物事をよく知り、よく見ようとすればするほど、世の中はミルフィーユのように美しい。
 世知辛さに漏らす溜め息も、遠のく希望も、叶わない夢も、二度と戻らない日々も、どうにもならないことはたくさん溢れている。それでも、いまここにある瞬間はどこまでも重層的で美しい。

 つらさ苦しさや永久の別れが出来るだけ先のことになりますように、そう願った人々の祈りが、医学を、薬学を、そして栄養学をより豊かにしてきた。
 尽くせぬ悩みや苦しみは、心理学や精神医学のみならず芸術や文学が癒やしてきた。哲学は問題の発見や明晰化で道をつくり、経済学や化学、工学はより暮らしやすい世をもたらした。
 政治学により回避された諍いもあるだろう。地学や気象学がどれほど人を助けただろうか。

 おそらくすべての学問には、祈りと愛がある。それだけで構成されてはいなくとも、確かに含まれているもの。

 勿論、学問の発展に戦争が寄与したことを忘れてはいない。それでも、わたしはそこのみをクローズアップはしない。
 より豊かになるための道、生き残るための道を誤ったり、そこに追い込まれてしまうことはあるから。

 平均寿命はぐんぐんと伸び、社会は発展してきた。弊害がないとはいえない。その弊害を減らすため、なくすために、さらに学び究める人々がいる。
 そこには、クサいようだけれど、やはり愛があると思う。

 積み重ねられた叡智に、わたしは敬意を惜しみなく表する。血の滲むような努力に、費やされた時間に、捧げられたすべてに。そのためにも、わたしはより知らなければならない。失礼のないように、わたしが生きる今をよりよくしようと奮闘してくださった方々のことを知ろうとする。そのおかげで存在する今のことも。
 未来だけでなく、今を見る。過去に学び、じっと見つめる。
 
 

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」