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今日も、洋服についたシミを落とす。

目白駅で、わたしは焦っていた。

これから大学で講話だというのに、そして認定フェムテックシニアエキスパートという資格を取って月経や女性特有の健康トラブルなどを学んでいるという身で、大学に今日赴き話す話題の中にはまさにこのフェムテック関連も含まれるというそんな日なのに、あろうことかわたしは洋服を汚してしまっていた。

昨日から始まった月経で。


その日、水ぼうそうで登園不可になったもうすぐ2歳になる娘を自宅で保育し、お昼過ぎに夫とバトンタッチ。前々から決まっていた大学での予定をなんとかこなすために自宅から大学に新幹線で向かい、最善のタイムスケジュールで一日を過ごしていた。

同行する上司との待ち合わせ時間よりも20分ほど早く大学の最寄り駅に着いた私は、PCを開き資料の最終確認。予定通り。

確認も済み、「さてそろそろ」と椅子から立ち上がったその時、なんだか嫌な予感がした。

ふと振り返るようにワンピースの裾に目をやると、やっちまった。ブルーグレーのワンピースが、赤い。

血の気が引いてすぐさまエスカレーターを駆け上がる。お手洗いのマークを探しながら、目白駅の構内になぜかある洋服屋さんに目が入る。
そうだ、スカートを買おう。

入り口付近にあっためぼしいスカートをすかさず手にし、上司との待ち合わせまで残り5分。「ご試着ですか?」と、にこやかに話しかけてきてくださった店員さんに、必死な形相で「いえ、着て帰ります」と即答の私。

タグを切っていただいたスカートを試着室で急いで着る。こういう時のセンスは我ながら悪くない。なのに、なんだか今日のわたしは冴えてない。イメージとまったく違い、このスカートはまさか履いてはいけない。急いで脱ぐ。

タグはもう切ってしまった。返品もできない。
焦ってるのにもはや意味のない無駄なスカートの支払いを済ませる。店員さん、何かお気に召しませんでしたかとかポイントカードをお作りしますかとかそういうマニュアル通りな会話なく、必要最低限のやり取りのみで見送ってくださりありがとうございます。

だめだ、もうひとまず生理用品だ。
急いでコンビニへ。

待ち合わせの時刻になっていて、上司の姿も改札の外で見つけた。今の状況を説明したい。電話しようか、どうしようか。
ただ、男性の上司に説明もしにくい。

えーい、もうあとで全部を説明しよう。
そのままレジへ向かい必要な生理用品を購入。やっとの思いで上司と合流する。

「申し訳ありません、申し訳ありません、あの、その、服が汚れています。その、あの、月に1回の、、、」
このくらいまで伝えたら伝わった。

「大丈夫なの?」
「いえ、大丈夫ではないです。でも、大学着いてからにします。」

上司への説明(という名の言い訳)もそこらに大学に着いた。女性のキャリアセンターの方が出迎えてくださる。挨拶もままならないまま、「到着早々、申し訳ありません、お手洗いはどちらでしょうか、、?」


洋服についたシミを落とすのが得意な私。
食べこぼしというよりは、そう、こういうシチュエーションがこれまでも何度も何度もあるからである。

月経と付き合い始めてもうかれこれ20年くらい。毎月のことなのに、月経はなんだか“へたくそ”なままだ。

出先で慌てて生理用品を買うことも多いし、今回のように洋服を汚して大急ぎでシミを落とすことも多い。あろうことか出先だけでなく、自宅にいても。ソファーを汚してしまってひたすらトントントントンとシミを落としたこともある。

アプリでスケジュールをおおよそ予測できるようになって、便利に覚悟できるようになったはずなのに、失敗ばかり。

そして極めつけは、産後に月経の感じが変わったこと。ホルモンバランスの変化で、産後は月経の日数や一回あたりの経血の量、そして痛みなども人によって変わることがあると聞いていたが、まさにわたしもその1人だった。

ちなみに産前のわたしは量少なめ、日数も4日くらい、腹痛やだるさや頭痛がある時とないときと、というくらいで比較的ラクな体質だった。
月経で休むとか予定を変更するとか、そこまでの重たさではなかった。

なのに。
産後、わたしを驚かせ困らせているのは、2日めの経血の量である。

2日めは外出したくない。それくらいお手洗いに何度行ってもキリがない、そんな魔の8時間がある。もちろん分かっているのに、洋服も汚れてしまう。

吸水ショーツに大きめのナプキン2つに、タンポンを装着してようやくこれをデフォルトにすれば大丈夫かも?とわたしなりのフォーメーションを見つけたのはちょうど前回とか前々回の月経から。

産後、体質が変わるかもと聞いてはいたけど具体的にこうも変わるのか。

この日、失態を犯したのもまさに2日めだった。



大学のお手洗いでひたすらに向き合い、落とし、時間を気にしながらなんとか先生たちと合流。簡単な打ち合わせを済ませ、予定通りに講話をスタートさせることができた。

直前まで起きていたこのドタバタをせっかくだから学生さんにお伝えしようかどうしようか、、話の流れで、とは思っていたものの結局話はせず、予定していた任務を完了させる。

大学を後にして、直帰で帰路へ。
その間も気が気じゃなく乗り換えのたびにお手洗いへ。なんとかやり過ごして長いながい一日を終えた。


そんな、大失敗のとある日。
こういう日もある。しかしこういうことって、あまり語られない。だから意識的に言葉にする。

そうやって、フェムテックという認知拡大と、さらにはちょっと流行ったケア用品というイメージだけのフェムテックだけじゃなく、そもそもの女性特有の疾患とかトラブルについての捉えなおしが世の中的に進めばいいなと思う。男性にも、もちろん女性にも。

わたしは今日も、まさしく2024/8/28の今日も、たまたま月経を迎えていて。洋服につけてしまってたシミをただ淡々と、落とす。

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