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公園のアリ観察2023-07

よくいく公園のアリを探し、どのくらい観察できるか記録してみる企画の2回目。

結論から言いますと、今回は労力を増やしてデータ数(地点ごとの種数の合計)が増えたものの、前回より全体の種数は少なく、前回からの追加は2種でした。

前回と地点数は同じですが、4地点は新規の地点です。


様子を少しだけ紹介
2023年7月中旬の3日間

アミメアリのお引っ越し

アミメアリはよく引っ越しの行列が観察されます。運んでいる黄色い俵型のものが老齢の幼虫、他はさなぎです。

トビイロケアリがさなぎを運んでいた

トビイロケアリがさなぎを運んでいたのですが、まわりに幼虫などが散乱しており、巣が壊れて幼虫たちが落ちてしまったのを回収しているようでした。隣でアメイロアリも幼虫をくわえており、誰の幼虫かよくわかりません。

コスカシバ

青の光沢と黄色の線が美しいコスカシバ。ハチに擬態したガの仲間です。桜やウメ、モモなどを食害するようです。

ゴイシシジミ

ゴイシシジミの幼虫は笹につくアブラムシを食べます。アブラムシにありつくにはボディーガードであるアリに攻撃されないようにせねばならず、アリに対して何らかの化学物質を出していると考えられます。

シリアゲアリの女王と思われる
小さいトビイロケアリ

今回は小さいトビイロケアリを何カ所かで目にしました。通常のワーカーよりも1mmほど小さく、真っ黒なので別種にさえ見えます。この小さい個体はまだワーカーが数十匹の、小さいコロニーを持つ女王が生むワーカーと思われます。

2.5mmよりも小さそうな一個体を検鏡したところ、背面には前胸に2対、中胸に2対、前伸腹節に1対程度の立毛しか無く、もはやケアリに見えません。しかしながらケアリ属の特徴を持っており、触角柄節や前脚脛節には多くの立毛が見受けられました。(採集した個体はトビイロケアリかハヤシケアリか不明でした)

あちこちに見られたハグロトンボ
色づいたショウジョウトンボ
アリに見えたがアリじゃない

クロヤマアリのようなものが(クロヤマアリのいるはずの無い場所に)たくさんいるなあと思って近づくと、カメムシの幼虫でした。シロヘリナガカメムシでしょうか。何匹も地面を走っていてさながらヤマアリでした。

マルシタラの仲間に乗っかったハリブトシリアゲアリ

雨もあってあまりゆっくりとした調査ができませんでした。写真の紹介はこれぐらいにします。


結果

計26種のアリを観察しました。
地点数は前回と同じですが、うち4点は新規です。オレンジが今回の結果、薄い色の部分は前回見つかって今回見つからなかった地点です。今回見つからなかった5種は除き、発見地点の多い順に並べています。

2023年7月の結果

今回はアミメアリアメイロアリトビイロケアリがほぼ全地点で見つかりました。また、オオハリアリの見られた地点が前回の3倍多かったです。

ハリアリ類を相変わらず見つけられず、今回のハリアリ亜科はオオハリアリのみでした。同じく林床性のキタウロコアリカドフシアリは確認地点が増えたので、そこまで悪くは無かったと思いますが、前回よりも林床に時間をかけていませんでした。
※ オオハリアリ、キタウロコアリは各1地点のみ採集と検鏡

前回出ていなかった追加のアリは2種でした。

nMDS
前回と同様にnMDSを実行します。前回は森林か草原かで最も種組成の違いがありそうでした。今回は月の違いと、地点の環境変数を入れた直接傾度分析も実行します。
アリはそこまで季節性が強くないはずなので月の違いは小さく、森林か否かに関係する変数が最も重要な説明変数になる予想です。

似た種類のアリがいた地点を近くなるように表示し、6月を紫に、7月を青にします。

nMDSの結果

月によって色分けすると、青の7月は紫の6月よりもMDS1(左右方向)の分散が小さくなりました(つまり種組成がより似ている)。7月がやや上に(MDS2の大きい方向に)偏っているように見えます。

細かく見ると、同じアルファベットの地点は近くに表示されていて、つまり同じ地点では種組成が似ているとわかります(ただしTMなどは離れている)。これは月の違いよりも地点の違いのほうが大きいことを示唆します。

環境変数を当てはめてみます。今回、用意したのは次の変数です。

  • 森林(1:あり、0:なし)

  • 舗装(1:あり、0:なし)

  • 標高

  • 照度(0~100、曇りの日にスマホで測定)

これらの4つの変数のうち、標高以外の3変数は互いに強く相関しますが、ひとまずそのまま用いることにします。

環境変数の効果をプロット

nMDSに結果を重ねて表示します。矢印の相対的な長さはあまり関係ありません(向きに決定係数をかけて表示しています)。
左右方向(MDS1)については、左ほど森林(forest)の地点で種数(nsp)が多く、右は逆に舗装されている(pave)地点や森林が無い故に照度の高い地点(illu)となっています。
上下方向(MDS2)については、7月の地点がやや上に位置し、また標高の高い(elev)地点がやや上に位置しているようです。

今回用いた変数のうち、森林の有無と照度が当てはまりの良い変数でした。

照度と種数の関係

さて、森林の有無や照度は群集を最もよく説明する変数だったのですが、これは森林と草原で群集が大きく異なっていることが大きな原因です。上の図は照度と種数の関係で、照度と種数には負の相関があるように見えるものの、実際には左が森林の群集、右が草原の群集となっているだけで、森林だけ抜き出すと照度と種数の相関は無さそうです。

どうやら森林と草原の違いは、この公園の種組成の違いを最も説明しているようです。さらに細かい地点の違いについては次回以降見ることにします。


公園のアリを探して記録してみる企画の2回目でした。
前回と合わせて公園内の18地点、31種の記録が順調にできました。

詳細は書きませんでしたが、前回と今回は一部で方法を変え、また環境変数の取得も試みました。地点ごとに在不在を記録し、環境変数もあると調査地の種組成の違いをある程度は説明することができます。その一方で地点の環境を調べながら、できるだけ多くの種を観察しようとするのは両立が難しく、見合ったデザインを考えるべきだと思いました。

  • たくさんいそうな所を重点的に探したい

  • 解析のため地点数と繰り返しを確保したい

  • 地点を幅広く見るには地点を増やしたい

これらは相反する目標のため、バランスをとりながらデザインする必要があるでしょう。7月末時点の私の中では2つの方向性をなんとなく考えており、どんなデザインにしたのかは次回以降に。

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