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きみはアイドルが好きだけど、アイドルはどうかな?

しばらく前に行った新橋の居酒屋のトイレに、こんな張り紙がしてあった。

「きみはアイドルが好きだけど、アイドルはどうかな?」

ちょっとうろ覚えだけど大体こんな文言もんごんだったと思う。
どのような意図でこの張り紙をしたのかは不明だが、酔った客にトイレで冷や水を浴びせるほど、店主はアイドルオタクが嫌いなのだろうか…。

さて今日はアイドルについてのお話です。



アイドルの存在意義

よく知られた話ではあるが、アイドル=idolは英語で「偶像」の意味。
しかし日本においては主に「容姿や歌・ダンスや振る舞いなどで熱狂的なファンを獲得する存在」と定義されている。

古くは山口百恵や松田聖子、郷ひろみなど、単体でカリスマ性を放つアイドルが多かった。
昭和から平成に時代が移り、やがてグループ売りが主流となっていく。
今ではひとりで活動する人気アイドルというのは絶滅状態だ。

私の記憶上では松浦亜弥・通称「あやや」が最後に売れた単体アイドルではないかと思う。
あやや可愛かったなぁ。

さてこのアイドル、ファン以外にとっては結構謎な存在である。
驚くほど歌が上手い訳でもなければプロダンサーのようなダンスができる訳でもなく、モデルや俳優並みの容姿を持っている訳でもない。

では一体何がそんなにファンの心を惹きつけるのか



頑張っている人を応援したい

アイドルというのは大抵頑張っている。
オリコンチャート1位とか、紅白出場とか、浜ちゃんにツッコまれるとか、何かの目標に向けて常に頑張っているのだ。

冷静に考えれば世の中の大抵の人は何かを達成するために頑張っているのだが、アイドルは「頑張る」という姿勢を世の中に見せつける

「この子たちには無理かもしれない、でもだからこそ応援したい」

これを心理学用語で「アンダードッグ効果」と言う。
日本語だと「判官贔屓ほうがんびいき」と言ったほうが分かりやすいかもしれない。

劣勢に立たされている側や、無理めの目標にあえて挑戦している人を応援したくなるのが人間というもの。
アイドルの総選挙などは、まさしくこのアンダードッグ効果を巧みに利用したシステムなのだ。

こうしてファンとガッチリ結ばれた絆は、やがてアイドル自身を苦しめることにもなる。
何故ならアイドルとファンの間には見えない契約があるからだ。



無償の愛を求められる

アイドルは基本的に恋愛が禁止とされている。
同じぐらいの年の俳優が熱愛報道をされても特に仕事に支障がないのに対し、アイドルは活動休止に追い込まれたり、時には坊主姿で謝罪しなければならない。

何故か。
アイドルは自身の存在そのものが商売道具だからだ。

歌で魅了できる歌手や、演技力で黙らせることができる俳優とは違い、アイドルは自分のキャラクターを全うすることによって対価を得ている。

天然キャラ・塩対応キャラ・オタクキャラ。
「自分はこういう人間です」というキャラクターを提供し、たとえそれが本当の自分とかけ離れていたとしても、ファンがいる以上は演じ切る義務があるのだ。

ファンが処女性を求めているなら決して元カレの話などをしてはいけないし、事実婚状態の恋人の間に子供がいたとしても、それを隠し通さなければならない。

それがアイドルという特殊職業の責務であり、「キャラクター」という曖昧模糊とした物に金を出してくれるファンに対しては無償の愛を捧げなければならないのだ。



夢を売る仕事

私はこれまでアイドルにドハマリした経験がない。
しかしアイドルという職業に魅了されたことが一度だけある。

それが「うたの☆プリンスさまっ♪」だ。

「いや、二次元じゃん!」というツッコミも分かりますが、落ち着いて聞いて下さい。
この作品はアイドルデビューを目指す男子のために主人公が曲を描き下ろしたり、時には恋したりなんかしちゃう、いわゆる乙女ゲームだ。

この作品を通して、私はアイドルの放つキラキラ感に魅了され、同時にアイドルが与えるパワーについて深く考えさせられた。

「あの人がこんなに頑張っているんだから、自分も頑張ろう」という前向きなメッセージは、最早アンダードッグ効果などというしゃらくせぇ理論を吹き飛ばす力を持っているのだ。

アイドルにはパワーがある。
だからこそアイドルは自身の仕事にプライドと責任を持ってほしい。



本物のアイドル

どっかのグループのメンバーがフライデーされる度に、よく「アイドルもひとりの人間」とか「恋したい年頃だろうに」みたいな擁護意見が飛び交う。

もちろんそうなのだが、アイドルという特殊職業に就いている人たちに関しては、それは当て嵌まらないと私は考える。

アイドルは自分の青春時代を切り売りしているのだ。

芸能界なんかに入っていなければ好きなだけ恋人も作れただろう。
周囲にチヤホヤされて、思うがままに楽しい人生を送れただろう。

しかし彼ら・彼女らはもっと大きなスポットライトを浴びることを望んだのだ。
それには代償が伴う。

どんなに稼げるようになってもブランド物を身に着けてはいけない。
たとえ恋人がいても絶対にバレてはいけない。

引退するまでファンをしっかり騙し通すことができてこそ、美しい記憶として心に刻み込まれる本物のアイドルになれるのだ。

アイドルなんて、安易に目指すものではない。
青春を捧げる覚悟を持った人間だけが高みを目指してほしいし、それが応援してくれるファンのためでもあるのだ。

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