【小説】勅使河原譲、28歳、女、職業戦士。半年間のキャリア戦争の記録⑨

【人事担当 山岸さんと 私】

転職活動を始めて2ヶ月が経とうとしていた。お誘いいただいた営業の佐藤部長には申し訳なかったけど、私は丁重にお断りを入れた。お世話になったし、名残惜しいけど、私のしたいことはもうこの会社にはない。

振り切った私は手当たり次第に気になる企業に履歴書を送り、書類通貨した企業と面接、を繰り返す毎日だった。狙う企業は、働く人を少しでも楽にできるITツールやサービスを取り扱っているところ。エージェントに頼るだけでなく、ツール名で探して応募したりもした。

ただ、やはりそう簡単ではなかった。未経験なうえに、スカスカな「やる気はあります!」な受け答え。書類が通っても一次面接でお見送り、なんてざらにあった。気づけば3か月目に突入しようとしていた時だった。

その日はあるベンチャー企業の面接だった。企業向けのメンタルヘルスサービスを取り扱っている会社で、メンタルヘルスに興味がある私からしたら、割と志望度の高い会社だった。珍しく会社内での面接ではなくカフェでの面接で、私は仕事終わりに猛ダッシュでそこへと向かった。ホテルの併設カフェであるそこは高貴な佇まいを醸し出していて、これからの面接のこともありガチガチになりながら足を踏み入れた。

一人で入ってきた私を店の奥の席に座る男性がちらりと見やり、そしてにこりと笑いかけてきた。堅そうなダークスーツ、ぴしっと固められたヘアスタイル、だけど笑顔がふんわり柔らかい。あ、あの人が面接官の山岸さんかな。私もぺこりと頭を下げ、小走りでそこへと近づく。

「勅使河原さんでお間違いないですか?」
「はい、山岸さんで」
「そうです、人事の山岸です。すみません今日は遅い時間に。本当は会社で面接したかったんですけど、遅い時間だと会社しまっちゃうんですよね。なので今日はカフェでの面接です。よろしくお願いします」

山岸さんはそう言い、私を目の前の席へ座るよう促した。私は遠慮がちにそこへ座り、改めて「よろしくお願いします」と頭を下げた。

面接はいつも通りに、よくある内容で進んでいった。事前に準備していた自己紹介や志望動機、転職理由などを述べていく。

「そうか…今はそういう軸で転職活動をしているんですね」
「はい」
「そこで達成したいことが」
「人を、助けたい」
「素敵ですね。だけど、それを達成したら、達成し終わったら?」
「え?」

そこで言葉が詰まった。もしもその「人を助ける」を達成出来たら、なんて考えたことがなかった。し、達成出来たら私は、どうなるんだろう。

「あなたのその目標はとても素晴らしいと思います。だけどそれは『外的要因』でしかないんです。あなたのモチベーションは外の環境から生まれてくるものですか?それだけですか?外的要因だけに頼っていたら、いずれそれを達成した時、逆に達成できないとなった時、それにすがって就いた仕事を続けられなくなってしまいます」

心臓がバクバク鳴り始めた。その通りだ。”私は”どうしたいんだろう。誰かのため、人のため、そればかりで自分を満たそうとして、自分で自分を満たす術を知らない。いや、でも人を助けるというのも”私”の願いなはずだ。外的要因?そうなのか?

「例えば。『年収を上げていいところに住みたい』、『プライベートを充実させたい』」
「えっ、そういう理由ってありなんですか?」
「確かに面接のときは言わないですよね。だけど、言わなくていいから自分で持っておくことも大切なんです。
勅使河原さん、先ほど『マーケティングの本を読んで勉強したり、経済についても勉強している』とおっしゃっていましたよね?いろんな勉強をすることも大切なんですが、それはあなたの”やりたいこと”に繋がっていますか?

改めて自分と向き合ってください。あなたがこれからどうなっていきたいのか、どんなことが好きでどんなことを求めているのか。人に依存しない、自分の願望と向き合ってください

恐怖でバクバク鳴っていた心臓が、高鳴っていることに気が付いた。やりたいこと、自分の中の願望、周りに左右されない、私の願い。

「探してみます!それで、それを見つけたらまた聞いてくれますか!」

私は身を乗り出しながら言う。山岸さんに聞いてもらいたかった。山岸さんはまたあの柔らかい笑顔で「ぜひ」と言った。

私はだれにも頼らない、私の願いを探すんだ

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スキしてくれたあなたがスキ
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絵も文も映像も大好きな人間がいろんな想いを撒き散らすnote。元AD。テレビも音楽も演劇も、エンタメ大好き人間。

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