「推薦に基づいて任命」について司法試験法と労働組合法から考える

日本学術会議の委員の推薦が6名拒否された話で、日本学術会議法には「推薦に基づいて任命」とあることから拒否裁量がないのではないかという主張をする人が居ます。

そのような文言のみから来る解釈は自明なことなのでしょうか?

そこで同様の文言がある法律をものさしにしてみます。

まずは司法試験法から。

司法試験法
第十二条 法務省に、司法試験委員会(以下この章において「委員会」という。)を置く。
中略
第十五条 委員会に…司法試験考査委員を置き、…司法試験予備試験考査委員(以下この条及び次条において「予備試験考査委員」という。)を置く。
2 司法試験考査委員及び予備試験考査委員は、委員会の推薦に基づき、当該試験を行うについて必要な学識経験を有する者のうちから、法務大臣が試験ごとに任命する。

「推薦に基づき…法務大臣が…任命する」という文言。

ちなみに法務大臣の権限は国家行政組織法に規定があります。

国家行政組織法(行政機関の長の権限)
第十条 各省大臣、各委員会の委員長及び各庁の長官は、その機関の事務を統括し、職員の服務について、これを統督する。

なお、国家行政組織法に言う「委員会」は同法別表第一にかかげるものであって、「司法試験委員会」は該当しません。

次に労働組合法です。

労働組合法
(中央労働委員会の委員の任命等)
第十九条の三 中央労働委員会は、使用者委員、労働者委員及び公益委員各十五人をもつて組織する。
2 使用者委員は使用者団体の推薦(使用者委員のうち四人については、行政執行法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第四項に規定する行政執行法人をいう。以下この項、次条第二項第二号及び第十九条の十第一項において同じ。)の推薦)に基づいて労働者委員は労働組合の推薦(労働者委員のうち四人については、行政執行法人の労働関係に関する法律(昭和二十三年法律第二百五十七号)第二条第二号に規定する職員(以下この章において「行政執行法人職員」という。)が結成し、又は加入する労働組合の推薦)に基づいて、公益委員は厚生労働大臣が使用者委員及び労働者委員の同意を得て作成した委員候補者名簿に記載されている者のうちから両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する

で、同様の規定が都道府県労働委員会にもあります。

(都道府県労働委員会)
第十九条の十二 都道府県知事の所轄の下に、都道府県労働委員会を置く。
2 都道府県労働委員会は、使用者委員、労働者委員及び公益委員各十三人、各十一人、各九人、各七人又は各五人のうち政令で定める数のものをもつて組織する。ただし、条例で定めるところにより、当該政令で定める数に使用者委員、労働者委員及び公益委員各二人を加えた数のものをもつて組織することができる。
3 使用者委員は使用者団体の推薦に基づいて、労働者委員は労働組合の推薦に基づいて、公益委員は使用者委員及び労働者委員の同意を得て、都道府県知事が任命する

内閣総理大臣に関しては東京高裁平成10年9月29日判決 平成9(行コ)76 中央労働委員会労働者委員任命処分取消等請求事件において、「中央労働委員会の労働者委員の任命については、任命権者である内閣総理大臣の広範な裁量にゆだねられており、労働組合の推薦に基づく候補者を当初から審査の対象から除外したり、あるいはこれを除外したと同様の取扱いをするなど、労働組合法が推薦制度を設けた趣旨を没却するような特別の事情がない限り、裁量権の濫用とはならない。」と判示されてます。

都道府県知事に関しては、大阪地裁昭和58年2月24日判決 昭和57(行ウ)31
 大阪地労委委員任命処分取消事件
において「推薦は、被告の任命行為を拘束する性質をもつとしなければならない。」「知事は、推薦があつた候補者の中から労働者委員を任命しなければならず、労働組合から推薦されなかつた者を労働者委員に任命することは裁量権の範囲を逸脱したものとして許されない。」と判示しています。なお、第十九条の十「都道府県知事の所轄の下に、都道府県労働委員会を置く。」と規定されています。

いずれも労働組合法施行令20条1項・21条1項において「…に対して候補者の推薦を求め、その推薦があつた者のうちから任命するものとする。」と規定されています。

ただし、大阪地裁の方であっても「これらの規定の趣旨は、候補者の推薦をした労働組合に対し、その推薦をした候補者が知事から必ず任命されることまでも保障したものでないことは、推薦の性質上当然である。」という前置きがあり、「労働組合の推薦した候補者が、正当な事由がないのにこの対象から除外され、又はこれと同視しうる扱いを受けたときには、その任命手続は違法である」「推薦は、指名とは異なるから、推薦に基づいて任命する場合の任命権者には、裁量権が与えられており、推薦された者が審査の対象とされた以上、推薦された候補者が労働者委員に任命されなかつたからといつて、直ちに裁量権の濫用があつたとするわけにはいかない。」としています。

さて、日本学術会議の推薦名簿から6名が任命されなかった今回の話は、どうでしょうか?

これらの判例を見ると、「まったく裁量が無い」という説に対する結論は火を見るよりも明らかではないでしょうか?

以上

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