署名簿は請求代表者の所有物という点を名古屋選管はどう考えているのか?

この記事の続き。

署名簿は自治体の持ち物ではない

ここがまず出発点。しかし…

このような指摘は複数人がツイートしていたので、名古屋市に関しては(あと西尾市)そういう経緯があったのだろうと思います。

自治体の場合、総務省や厚労省が出しているような、行政文書該当性判断に関する以下のような審査基準が公表されていません。

行政文書に関する判断基準(法第2条第2項関係)(別添1)
「当該行政機関が保有しているもの」
 「保有しているもの」とは、所持している文書をいう。この「所持」は、物を事実上支配している状態をいい、当該文書を書庫等で保管し、又は倉庫業者等をして保管させている場合にも、当該文書を事実上支配(当該文書の作成、保存、閲覧又は提供、移管又は廃棄等の取扱いを判断する権限を有していること。なお、例えば、法律に基づく調査権限により関係人に対し帳簿書類を提出させこれを留め置く場合に、当該行政文書については返還することとなり、廃棄はできない等、法令の定めにより取扱いを判断する権限について制限されることはあり得る。)していれば、「所持」に該当し、保有しているということができる。
 また、一時的に文書を借用している場合や預かっている場合等、当該文書を支配していると認められない場合には、保有しているとはいえない。

「書庫等で…」という例示は、役所の敷地内に物理的に存在しなくとも・最終的な処分権限があればいい、ということを説明するためのもので、占有しているか否かは問わないということです。

「法律に基づく調査権限により…あり得る」の部分は、法令で文書の扱いに関する権限に制限がかかっている場合があるが、それだけで所持ではないとは判断されないことを意味していると考えられます。

「行政文書」とされたものについての返還があり得るということも示唆しています。

また、自治体の場合は法律ではなく、条例によって個人情報の扱いや情報開示に関する規律がなされているため、国が法律の運用として出しているような審査基準がそのまま採用されているかは判然としません。

法律に関する基準に沿って考えてみると、直接請求の署名簿は請求代表者の所有物です。ですから、基本的に署名簿を処分する権能は所有者たる請求代表者にある。

署名簿の選管への提出にあたっては、行政の側から何か要求が為されて行われるのではなく、請求代表者の意思を発端として任意に行われ、ただ、直接請求の法令上の手続で要求されている効力審査のために預けられているだけと言えます。

その後の扱いも縦覧に供したり最終的には請求代表者に返付することが法令で規定されており、当該文書の取扱いを行政の側が自由に決定できる余地は無いです。

「縦覧」も、法定されているからできるのであって、本来的には投票の秘密と抵触関係があります。

例示されている「作成、保存、閲覧又は提供、移管又は廃棄」のうち、「移管」「保存」以外は明らかに対象外。

「移管」に関しても、地方自治法施行令で都道府県の普通地方公共団体の長の解職請求の署名簿は、市(区)町村ごとに作製すること、市(区)町村に対して提出することとなっており、署名簿の効力審査や縦覧手続も、当該市(区)町村において行われるため、署名簿が他の基礎自治体や都道府県に移管されることは無く、移管の対象外。

保存」については、単にその自治体の領域内で管理しているだけの状態で「取扱いを判断する権限」があると言えるだろうか?

直接請求の署名簿を請求代表者への返付まで自治体が『「保存」』することとなっているのは当たり前であり、これは保存するか否かを自治体が判断する裁量の余地なく、「保存」することが義務化しています。
※追記:例示にあるような倉庫業者等をして保管させている場合も、保管をしている中でどの位置にどういう状態で置いておくのかは業者等が決めるので、そのようなレベルでの判断権限があるからといってここでいう「保存」の取扱いを判断する権限があるとは言えないだろう。

ですから、ここで言われている「取扱いを判断する権限」は無いと言うほかないでしょう。

結局、法律上の審査基準に沿って考えれば、署名簿については市(区)町村が所持・保有しているとは言えず、行政文書ではない、と解釈されるのではないでしょうか?

いったいどういうロジックでこういう判断をしなかったのか?それは法律上の基準を参考にした結果なのか、それとも自治体独自の基準を設けていたのか?

追記名古屋市個人情報保護条例に基づく処分に係る審査基準を定める要綱がありましたので見ていきます。

第 2 保有個人情報該当性に関する判断基準
1 開示請求の対象が条例第 2 条第 2 号に規定する保有個人情報に該当する
かどうかの判断は、以下の基準により行う。
ー中略ー
 (4)「実施機関が保有している」とは、当該実施機関が当該個人情報を
実上支配している状態(当該個人情報の利用、維持、管理、廃棄等の取
扱いについて判断する権限を有している状態)
をいう。したがって、民
間事業者が管理するデータベースを利用する場合は含まれない。
(5)「行政文書に記録されているものに限る」とは、実施機関の職員が職
務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該実
施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理してい
るものに記録されている個人情報に限ることをいう。

これを見ると「保存」「閲覧」「提供」「移管」の文言が無く、「維持」「管理」という文言が加わっているのが分かります。まぁ、「等」に何でも含められるため、法律の場合の考え方と変わらないと思われるので、その上で行政文書に該当すると判断したことになるのではないでしょうか。

以上

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