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死にたがりマキアスの英雄譚


 マキアスは英雄で、不死身で、死にたがっていた。

 幼少期に野生の大熊を一人で殴り殺したその日からマキアスの運命は決まった。全身に傷を受けながらもすぐ治り、奇跡だと称賛された。

「お前は英雄になるかもしれんぞ」

 父と母、友人や人々の期待を受けながらマキアスは逞しい青年へと成長した。不撓不屈の冒険者として目まぐるしい成果を挙げ、ついには国中の迷宮を一人で全て踏破する大偉業を成し遂げた。
 伝説として語り継がれるだろうと誰もが思ったが、そうはならなかった。

 マキアスは年を取らなくなっていた。
 仲間たちが年老いていくのに、自分だけが若々しい青年のままだった。父と母はとうの昔に安らかに死に、友人たちも全て看取った。冒険者ギルドや王族貴族たちも代替わりして知り合いがいなくなると、マキアスの不老不死を気味悪がり、怪物だと恐れる人間が出てきた。

 マキアスは迫害される前に故郷を去った。


「勇者マキアスよ。貴殿は旅の者でありながらよくぞ毒邪竜を打ち倒してくれた! これで我らの国土は癒やされるであろう。感謝の言葉は到底言い尽くせぬ!」
「ありがたきお言葉、恐縮でございます」

 跪いて頭を深く下げるマキアスに、異国の王は続けて言う。

「救われたのは我らだぞ、畏まらないでくれ。邪竜の猛毒を浴びて三日三晩苦しんだと聞いたが」
「あいにく身体は丈夫なので、四日目には立ち上がれるようになりました」

 きっと身体が猛毒を克服したのだろう、とは口にしなかった。王は豪快に高らかに笑い声を上げた。

「見事! 貴殿への褒美として爵位と領地を封じ、我が姫を汝の妻として与えよう!」

 王の側にいる見目麗しい姫君が、恋慕の表情でマキアスを見ていた。

 どうあっても断るべきだったのに。


 深い森の中の屋敷の一室に、老婆がベッドの上に横たわっている。

「マキアス、そこにいますか?」
「ああ」

 青年のマキアスは、年老いた妻の手を優しく握りしめる。



【続く】(799文字)

私は金の力で動く。