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醤油戦争


 醤油に人類史上最高のエネルギー効率が秘められていることが知られてから、戦争の全てが変わってしまった。

 全自動スシバーの排出口から人工合成マグロのスシが、バンダナを頭に巻いた男の眼の前に差し出される。男は薄いパーテーションで区切られた個室カウンター隅の塩ボトルを手に取り、人工合成マグロにパッパッと振りかけて、口の中に放り込む。塩味が人工マグロの生臭さとゴムのような食感を際立たせる。

「ああ、醤油が恋しい」

 日本は諸外国よりもはるかに純度の高い醤油を輸出することで莫大な外貨を得られるようにはなったが、原料の大豆の自給率が7%前後と低かったのが災いした。大豆に高い関税がかけられるようになり、大量の大豆の自国生産が日本における急務となった。日本の平野のほとんどは効率的に大豆を育てるためのバイオマスプラントへと取って代わられた。

 スシに醤油をつけて食べる行為は、金粉を隙間なくまぶして食べるのとさして変わらない成金の所業になった。

「オイオイアンタ、まだ機械化してないとか正気か? よくそんなもん食えるな」
 カウンターの隣から全身鋼鉄義体の男が身を乗り出してくる。栄養経口ユニットにスシを放り込んで、ぐちゃぐちゃとミキサーのように轢き潰したペーストを流動摂取する音が聞こえる。

「まだ使える身体があるうちは節約したいんだ」
 バンダナの男の皮肉に全身鋼鉄義体は頭を大げさに抱える。
「かー! ケチだが違いねぇ。俺は爆発に巻き込まれて全身このザマよ。疑似味覚にも飽きちまった」
「今何味なんだ」
「フライドチキン。ゲーッハッハ!」

 アーム端末からビープ音が鳴る。時間だ。バンダナの男は背嚢とライフルを背負って横を見ると、全身鋼鉄義体も大型ライフルを装備していた。

「たくさん殺してまた食おうぜ」
「お互い死ななければな」

 全自動スシバーから出て、二人は戦場へ向かうヘリに歩く。
 俺たちは醤油傭兵だ。

【続く】(791文字)

私は金の力で動く。